ロティーナ監督の下で迎える新境地。好機を生む水沼宏太の位置取りの妙。

ロティーナ監督の下で迎える新境地。好機を生む水沼宏太の位置取りの妙。

 4連勝と調子を上げているセレッソ大阪。そのなかで日に日に存在感が大きくなっている選手がいる。

 水沼宏太だ。

 横浜F・マリノスのアカデミーで育ち、トップチームに昇格後は栃木SC、サガン鳥栖、FC東京と渡り歩き、5チーム目となるC大阪にやってきたのは2017年のこと。

 その彼が今季から就任したロティーナ監督のサッカーにおいて、なくてはならないプレーヤーとなっている。彼のプレーをじっくりと見ると、その答えがピッチにはっきりと出ていた。

 彼がセレッソにもたらしているもの――。それは抜群のポジショニングからくる、戦術の円滑な遂行だ。

 水沼は目まぐるしく戦況が変わるピッチの中において、常に味方がいてほしい場所にいる。右サイドハーフの位置から首を振り、細かいステップを入れながら、アウトサイド、インサイドと斜めに移動。攻撃時にはパスの経由地となり、さらにサイドバックやボランチ、FWを生かすスペースメイク、そして自らがそのスペースを活用して決定的なプレーも見せる。守備面では常に味方の守備ポジションを確認しながら、攻から守に切り替わった瞬間にボールの出しどころを消し、強烈なプレスバックを仕掛けて相手の自由を奪う。

水沼宏太のプレーが変わった。

 水沼と言えば、豊富な運動量と突破力とキックセンスを併せ持ち、トップ下、インサイドハーフ、サイドハーフと複数のポジションをこなすことができるが、近年はサイドアタッカーでプレーすることが増えてきた。

 特に2012年から'15年まで過ごしたサガン鳥栖では、ユン・ジョンファン監督の下でウィングのようにガンガン縦に仕掛けるサイドアタッカーとして活躍。「生粋のサイドプレーヤー」という印象がついたように思う。C大阪に来てからも、右サイドから仕掛ける「槍」として自身を表現していた。

 しかし、今年に入ってから何かが違う。もちろんいい意味で、だ。

明らかに増えたバックステップ。

「ロティーナはサイドハーフとして自分の幅をどんどん広げてくれているんです。頭を使ってプレーするところと、フリーランの質、味方を生かし、生かされるプレーが求められる。それは僕の考え方とも一致しているんです」

 今季、C大阪は第10節松本山雅FC戦から3-6-1から4-2-3-1にシフトチェンジした。すると、水沼は右サイドハーフのレギュラーに定着。9節まではスタメン出場1回だった男が、13日の26節浦和戦まで17試合連続スタメンと、チームに欠かせない存在となった。

 彼のプレーを見ていて、気づいたのは試合中の“バックステップ”が多くなったことだ。

 昨年まではボールの動きを見てから、ワイドに張る、またはインサイドのポジションを取ることが多かった。だが、今年はスタートから意識的にインサイドにポジションを取っているように見える。そこから味方との距離感、相手DFの視線を洞察し、バックステップをしながら細かいポジション修正を図っているのだ。

 そうなると、必然的に首を振る回数は増える。その分、自分がどこにいるのか、味方と相手がどこにいるのかが把握しやすくなる。状況を把握して動き出すからこそ、その精度もまた必然的に高くなる。

サイドバック松田との連係。

 相手DFは彼の動きの予測が付きづらくなり、常に彼の動きを意識しておかないと死角に潜り込まれたり、ポゼッションやフィニッシュへの関わりを持たれてしまう。だが、相手からすれば、彼ばかり見ていると今度はスピードに秀でた右サイドバックの松田陸にスペースに走りこまれてピンチを招いてしまう。

「ロティーナは『DFがこう来たら、この立ち位置にいるべき』とか、『こう動くことで、後ろは入る場所を選べるよ』など、かなり細かく意識を持たせてくれる。僕も単体で動くよりも、複数の選手と一緒に動いた方が、お互いの距離感も良くなるし、狙いを共有しやすくて選択肢も増える。それはロティーナサッカーにおいて重要なことだと思っています」

浦和戦での絶妙なポジショニング。

 浦和戦でも彼のポジショニングと松田との連係は、浦和に大きなダメージを与えていた。

「ロティーナとイバン(・パランコ/ヘッドコーチ)から、相手が3-4-2-1だったら、相手のウィングバックとCBの目線をサイドハーフに傾けろということを言われていた」

 水沼はこの指示通り、FWブルーノ・メンデスとの距離を詰めながら、時にはシャドーのようなポジショニングで相手の3バックのラインを押し下げた。後半からは「ちょっとだけ僕が相手のCBの位置まで行き過ぎてしまっていた。ロティーナからも『もっと落ちても大丈夫だから、相手のボランチの真横にいろ』と言われたので、相手のボランチ脇を狙うポジションを取るようにした」と、ポジションを調整した。

「ボランチの脇を常に狙いつつ、チャンスであれば、CBとサイドバックの間のポジションにも入る。そうすることで、相手のサイドの選手が中央に絞るからこそ、サイドが開く。逆に相手のプレッシャーが早かったら、陸がちょっと中に入って、僕がウィングバックの位置まで行く。攻撃にも守備にも出ることができるポジションを作り出すことを意識した」

ボールに触れないアシスト。

 そして、すぐに彼はビッグチャンスを作り出す。

 47分、DF丸橋祐介が左サイドでボールを持ったとき、水沼は自身のマークに来た浦和の左ウィングバック汰木康也の動きを見ていた。

「ウィングバックの選手(汰木)は攻撃的な選手。ディフェンスに慣れていないなと思ったので、うまく陸を生かそうと意識しながら動きました」

 水沼は一度右ワイドに張り出し、汰木の意識を自分に引きつけると、そこから中央に入り込むようにポジション移動を開始。汰木がそのまま自分について来たのを確認してから、一度首を振り、後方に松田がフリーでいることを確認した。

「(汰木が)かなり食いついてきていたし、相手のCBも僕に視線を向けたので、もっと中に入れば陸が完全に空くと思った」

 そこからペナルティーエリア付近まで絞ると、丸橋からグラウンダーのクロスが届いた。

 トラップしてシュートという選択肢もあったが、水沼はトラップするふりをしてスルー。完全にこの動きに翻弄された浦和ディフェンスは右サイドの松田をフリーにしてしまった。水沼と入れ替わる形でペナルティーエリアに侵入すると、そのまま右足を一閃。ゴール左隅に沈め、先制点をたたき出した。

「陸も僕がスルーすることを分かっていたし、ロティーナとイバンに言われたように、うまくディフェンスの目線を僕に引きつけてやることができた。もちろん陸のシュートが素晴らしかったけど、僕も物凄く気持ちよかったプレーでした」

 滑り込んでガッツポーズをする松田に真っ先に抱きつき、殊勲のチームメイトをねぎらったが、このゴールは水沼の判断がなければ生まれなかっただろう。ボールには触れていないものの、ゴールを演出した見事な「アシスト」であった。

亜土夢のゴールは「してやったり」

 57分には水沼は右サイドでドリブルで仕掛けると、そのままエンドライン付近まで運んでマイナスのクロス。58分には右サイドでクリアボールを左足でブロックし、そのこぼれが中央の柿谷曜一朗に渡るなど、立て続けに決定機を演出した。

 さらに84分のMF田中亜土夢の劇的決勝弾にも絡んだ。

 右ワイドに開いた水沼は、1点目と異なり、右サイドでドリブルを開始した松田を今度はインサイドに促す判断をした。

「陸からパスをもらった自分がワイドに幅をとることで、間に(FW鈴木)孝司が入ってきた。ワンタッチで陸に戻すと、相手CBとボランチの視線が陸に集中した。奥埜(博亮)がゴール前に動いてクロスを警戒させてから、空いたボランチ脇に左サイドハーフの亜土夢が走り込む。僕的には“してやったり”のゴールでした」

 鮮やかな連携から生まれた田中の決勝点は水沼を始め、5人の選手が鮮やかに絡む狙い通りのスーパーゴールだった。2−1の勝利に大きく貢献をした。

「自分が周りを生かしているんだ」

 横浜FM時代は自由な発想の中で持ち前の攻撃力を発揮。栃木SC時代はゾーンディフェンスを得意とする松田浩監督の下で守備の基本を学び、鳥栖時代はユン・ジョンファン監督の下で強烈な“槍”となった。

 FC東京では「(東)慶悟やモリゲ(森重真人)など、みんなボールが使いがうまかったので、“槍”からこれまでのサイドハーフのスタイルに戻れた。ボールの扱い方をみんなから学ぶことが多かった。ボールを落ち着かせるということをもう一度思い出せたし、それをセレッソでも継続できた」

 そして5チーム目、プロ生活12年目を迎える今、これまで経験したすべてをロティーナ監督の下で表現しようとしている。

「常に『ここぞ』というタイミングでスピードアップできるポジショニングを意識してやるようになりました。バックステップを踏みながら構えて、右や左に動いたり、縦に進んだり、後ろに下がったりするプレーは今までなかったプレー。首を振りながら、周りを見て、『次はどこにポジションを取ろうかな』と頭使いながらやっています。

 ロティーナサッカーにおいて、サイドハーフが機能しなかったら、ボールも回らないし、後ろからのボールと人の出所も失われてしまう。とにかくボールを受ける、受けないどちらにせよ、僕は『自分が周りを生かしているんだ』という意識でやれています」

 冷静な判断と運動量を持ち合わせ、躍動感あふれるプレーを見せる水沼宏太。今、彼は29歳にして、新たな「成長期」を迎えているのかもしれない。

文=安藤隆人

photograph by Takahito Ando


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