ランパード・チェルシーを包む、第1期モウリーニョと同じ高揚感。

ランパード・チェルシーを包む、第1期モウリーニョと同じ高揚感。

 9月17日のチャンピオンズリーグ(CL)、チェルシー対バレンシア(0−1)戦の終了後、スタンフォード・ブリッジで一緒に観戦していた知人は、「ファン、温かいんですね」と筆者に言った。

 指導者の資格も持つ彼はサッカーに造詣が深いが、イングランドでの試合観戦は初体験。サッカーの母国の観衆が、不甲斐ないプレーや結果に対しては不満を示す、感情剥き出しの光景を想像していたに違いない。チェルシー・サポーターに感心したというよりも、驚いたようだった。

 中立的な視点の持ち主にすれば、もっともな感想だろう。

 プレミアリーグの強豪に数えあげられるビッグクラブが、CLでのホームゲームで零封負け。バレンシアは、直前の監督交代劇に選手たちが憤慨し、混乱の真っ只中と言われていた。

 フルタイム3分前、ビデオ判定が味方した同点のチャンスも、ロス・バークリーがPKをバーに当ててふいにした。結果、アヤックス、リールと同居するグループHで3位と出遅れ。それでも試合終了時のスタンフォード・ブリッジは、ホーム観衆によるブーイングなどは聞かれなかったのだ。

結果は伴わなくても包む高揚感。

 しかしながら、それが今季からフランク・ランパードが指揮を執るチェルシーの新たな現実にほかならない。キャリア2年目の指揮官がレジェンドであるばかりか、就任から約3カ月の新監督が合格点を与えられる采配を見せていることから、試合結果にかかわらず前向きな高揚感がスタンフォード・ブリッジを包んでいる。

 チームは一見、エデン・アザールがレアル・マドリーに去ったことでワールドクラスのスターが不在となったように見える。しかし、キックオフ直前のスタンドでは昨季までのアザールを讃える巨大な横断幕に代わり、「フランク・ランパードの青白軍団」との横断幕が頭越しにリレーするようになった。

 ファンはランパード監督のチェルシーに、単なる「我がクラブ」を超えた愛情と誇りを覚え始めている。その度合いは、黄金時代の到来を告げた2004年からの第1期ジョゼ・モウリーニョ時代以来とも言える。

11失点はリーグワースト2位だが。

 15年前、開幕3カ月間無敗を続けた当時と違い、理想とは程遠い滑り出しではある。初陣での黒星は、マンチェスター・ユナイテッドに4失点で敗れたリーグ開幕戦に続き、今回のCLが2度目。グループステージ初戦で敗れたチェルシーの監督は、ランパードが不名誉な第1号となっている。

 ホームで勝ち星がなく、開幕からの計7試合で無失点試合もなし。リーグ5試合で合計11失点は、今季の20チーム中ワースト2の数字となっている。だが、開幕戦から盛んにメディアで指摘される「夢と現実の差」は、ランパード自身はもとよりファンも覚悟の上。加えて、目の前で展開する現実では少なくともマイナスを相殺できるだけのプラスが、新監督によってもたらされている。

 バレンシア戦で勝敗を分けた1点は、ダニエル・パレホがふわりと放り込んだFKを、ノーマークのロドリゴに決められた失点だった。セットプレーの弱さと簡単にペナルティエリア付近への侵入を許す守備の脆さは、マウリツィオ・サッリ前体制下からの課題だ。ただし、前任者の身上であった攻撃面は、ファンの目には改良が施されたと映る。

「よりダイレクトなアプローチ」

「よりダイレクトなアプローチが織り交ぜられている」とは、チームの最後方から自軍を眺めるGKケパが、試合前日会見で挙げた昨季と今季のスタイルの違いである。

 同じポゼッション・サッカーでも、相手を“パス殺し”にするような“サッリ・ボール”よりも、“フランキー・ボール”と呼ばれることもあるスピードとダイナミックさがブレンドされたランパード流の方が、評価されている。最終的にサッリ流を「遅攻」と嫌うようになったチェルシー・ファンの好みに合っているようだ。

 しかも、開幕5試合で計11得点を記録したリーグ戦でのスコアシートには、生え抜きの若手が名を連ねているのだからファンには堪らない。

 筆頭格はバレンシア戦でもセンターフォワードで先発したタミー・エイブラハムだ。21歳はプレミア第5節ウォルバーハンプトン戦(5−2)で、チェルシーのトップチームにおいて自身初のハットトリックを達成し、現在7得点。監督の信頼に応えて自信を増し、オフ・ザ・ボールでの動きにも迷いがなくなってきた。

エイブラハムがゴールを量産中。

 CLバレンシア戦で4試合連続ゴールはならなかったが、走り込むべき位置に走り込み、いるべき場所にいたことで、右足と頭で2度の決定機を迎えた。ファンとしては小学生の頃からアカデミーで育ったナンバー9ほど、その存在が嬉しく頼もしい生え抜きはいないだろう。

 事実、試合前のメンバー発表時のエイブラハムのコールではスタンドから最大の歓声が起こるようになっている。

 バレンシア戦で3-4-2-1の2列目左サイドで起用されたメイソン・マウントと、3バックの左CBで先発したフィカヨ・トモリも、今季チェルシーの一軍に定着したユース出身者だ。

ランパード流の申し子マウント。

 CL初戦は若く経験値の低いチェルシーが、経験値で勝るバレンシアにセットプレーでのリードを守り切られた形である。しかし指揮官が「貴重な教訓になった」と語ったように、ランパードの若手起用への意欲は、FIFAの補強禁止処分だけでなく、監督初挑戦となった昨季のダービーでも確認された「ポリシー」と理解できる。このあたりはモウリーニョ体制下でも望むことができなかったチームの在り方だ。

 足首の怪我で前半約15分のCLデビューになったが、リーグ5戦3得点の20歳のマウントは、“フランキー・ボール”の申し子である。第2節レスター戦(1-1)、果敢なボール奪取からファウルを受けながらも耐えてゴールをこじ開けた初得点などは、「ハードワーク」と「得点意欲」を求める指揮官の注文通りのプレーだった。

 21歳のトモリは第5節のウォルバーハンプトン戦で、豪快なミドルでチェルシー初得点を記録。3バックが継続されたバレンシア戦でも機動力を生かしたカバーリングやクリアで及第点の働きを見せた。チームに「適応力」を求める指揮官も納得の出来だろう。

 同時に4-2-3-1、4-3-3、3-4-2-1といったシステムの柔軟性が、ほぼ4-3-3一辺倒だった前体制に疑問を覚えていたファンに歓迎されていることも間違いない。

 そんな中でファンが望み、メディアでは「必須」とも言われたエンゴロ・カンテの純粋なボランチ起用は実現していない。当人の怪我もあるが、8月にPK戦でリバプールに敗れたUEFAスーパーカップとレスター戦に続けて先発した際も、中盤の底にはサッリが深部の司令塔としてこだわったジョルジーニョがいた。

ジョルジーニョもアグレッシブ。

 とはいえ、前向きな変化はある。3センターでも2ボランチでも、ジョルジーニョ自身が、機を見て中盤の同僚よりも前に上がる機会が増えているのだ。プレシーズン中に本人に聞いたところでは、「昨季よりもクリエイティブにプレーしやすい」環境だとか。ボールを持ったら前方へのパスを狙う持ち味が発揮されている。

 そうしたジョルジーニョの姿は、昨季途中から「サッリのお気に入り」という批判的な目で眺めていたファンの目にも、創造力あるMFと映っている。

 スタンドから「ジョルジーニョ」コールが起こったのは、今季初勝利を飾ったアウェイでのノリッチ戦(3−2)、前半25分過ぎに当人がFKを奪った直後だった。ウォルバーハンプトン戦で、移籍2年目でプレミアでの初アシストを記録した。そして「ファンのお気に入りの1人」として迎えたバレンシア戦では、勢い余ってイエローをもらったタックル失敗にも、同じ前半に見事なタックルでボール奪取に成功した際と同レベルで大きな歓声が起こったほどだ。

ぬるま湯ではない健全な雰囲気。

 思い返してみれば、チェルシーが前回ホームのCL戦に敗れた2015-16シーズンの16強パリ・サンジェルマン戦では、後半ベンチに下がったアザールにブーイングが起こった。それは、同シーズン前半にモウリーニョ解任を招いた「主犯の1人」と見られたことに端を発する反応だった。サポーターが噂に基づく先入観で選手を非難するようなホームのムードなどあってはならない。

 その点、今季のスタンフォード・ブリッジには決して「ぬるま湯」でない「健全」な空気が漂っている。バレンシア戦で絶好機を逃したバークレーのPKにしても、プレシーズン中からキッカーだったとはいえ、ベンチを出て数分ながらジョルジーニョやウィリアンを抑えて蹴った行動自体は、攻撃的MFのポジション争いでアピールに必死な証拠として前向きに解釈できる。

 もちろん、失敗したことで「チームメイトに対する無礼」といった批判を招いたように、結果を出せなければ外野からネガティブな空気が流れ込みかねない。トップ4を維持できれば上出来とされるリーグ戦と同様タイトルを期待されておらず、ランパード自身も「グループステージ突破が第1目標」と言うCLでも、実際に突破が危ぶまれる事態にでもなれば、新監督へのプレッシャーが増す。

カンテらが復帰してくれば……。

 前回グループステージで敗退した2012-13シーズンには、同じくクラブのレジェンドとして先輩に当たるロベルト・ディマッテオの首が前半戦で飛んでいる。

 ランパード体制はバレンシアに敗れたとはいえCLでまだ5試合を残し、プレミアでも6位に浮上したばかり。リバプールのユルゲン・クロップ、マンチェスター・シティのペップ・グアルディオラという国内トップ2の指揮官両名に次いで首が安泰と見られているが、開幕当初と同じ解任有力候補へUターンする危険性は常につきまとっている。

 しかし、逆にポジティブなムードが増す要素もある。カンテのほか、昨季最終ラインの要に成長したアントニオ・ルディガー、昨季ユース出身のレギュラーを予感させた18歳のFWカラム・ハドソン・オドイが、戦列復帰に近づいている。

 待望の新体制ホーム初勝利が実現すれば、それが9月25日に4部相当のグリムズビーと戦うリーグカップ3回戦だったとしても、祝勝の喜びがホームに充満し、それが起爆剤となるようにさえ思える。

独自のアイデンティティ確立のために。

 だからこそ、「心温かい」ファンはマイナス面に顔をしかめるのではなく、しっかりと目を開いてプラス面を見つめ続けるべきだ。そうすれば今季タイトル獲得が叶わなかったとしても、サッカースタイルにしても、生え抜きの主力メンバーにしても、クラブが求めて止まない「独自のアイデンティティ」という無形のトロフィーを手にするための下地が築かれる。

 その指揮を執る新監督を、とことん信じることだ。

 バレンシア戦のスタンドでは、負傷退場したマウントの代役として、実際に投入されたペドロ・ロドリゲスではなく、クリスティアン・プリシッチを望む声を聞いた。しかし、CLでの急遽出動に21歳の新ウインガーより経験豊富なサイドアタッカーを選んだ指揮官の判断は理にかなってはいた。

 国内外で苦しい戦いが続いても、辛抱を忘れて、もともと堪え性のないオーナー以下のフロントに、ファンの支持率低下という監督交代への表向きの理由を与えてはならない。開幕戦からポイントは落としていても、取り戻したままでいるチームとファンの「和」を損なってはいけない。

 チェルシーの「12人目の選手たち」は、「ギブ・ピース・ア・チャンス(平和を我等に)」ならぬ「ギブ・ランプス・タイム(時間をランパードに)」をスローガンとすべきだ。

文=山中忍

photograph by Uniphoto Press


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