ドラフト制度をどう思いますか?Jリーグのスカウトに聞いてみた。

ドラフト制度をどう思いますか?Jリーグのスカウトに聞いてみた。

 秋も深まる10月――。

 全チームの監督がビシッとスーツを着込み、東京都内のホテルに一堂に会する。ピンと張り詰めた空気のなか、フロント陣と指揮官は一様に神妙な面持ちで円卓を囲んでいる。

 静まり返った会場に関野浩之アナウンサーのよく通る声が響くと、一気に緊張感が走る。

「第1巡選択希望選手、浦和レッズ、旗手怜央、フォワード、順天堂大学」

 客席がざわつくなか、少し間をおいて次の名前が読み上げられる。

「第1巡選択希望選手、川崎フロンターレ、旗手怜央、フォワード、順天堂大学」

 言わずもがな、フィクションである。もしも、プロサッカー界にプロ野球のようなドラフト会議が導入されていれば、こんな光景が見られたのかもしれない。

自由競争のJは“両獲り”も可能。

 Jリーグの新人獲得事情は、NPB(日本野球機構)とは大きく異る。

 原則的には自由競争。クジで優先交渉権を得なくても、クラブはどの高校生、大学生とも交渉が許されている。例えば、今年の目玉である佐々木朗希(大船渡高)、奥川恭伸(星稜高)と交渉し、2人とも獲得することもできる。実際、川崎Fは、東京五輪世代となるU-22日本代表コンビの“両取り”に成功した。順天堂大の旗手怜央(4年)と筑波大の三笘薫(4年)は、“1位指名”が確実な人気銘柄と言っていい。

 2人の逸材を獲得した川崎Fの向島建スカウトは、満足そうに笑う。

「もしもドラフトがあれば、2人を同時に取ることなんて、できなかったですね」

獲得条件にある「相思相愛」。

 それでも、川崎Fに対して他クラブから不平不満が出るわけではない。獲得競争で後塵を拝した某クラブのスカウトは「本人の行きたいと思うクラブに行ったほうがいい」と納得していた。

 向島スカウトも「相思相愛にならないと、獲得することはない」と断言する。これと思った選手は惚れ込んで熱心に追いかけるが、強引にアプローチして勧誘することはない。

「フロンターレでプレーしたいかどうかが、すごく重要なところ。本人が心から来たい、ここでやりたいと思わないと、プロに入ってから、しんどいときに踏ん張れません。試合に出られない時期などに我慢できなくなるんです」

 心のどこかで「本当は来たくなかったのに」という思いがあれば、人のせいにして、逃げ道をつくってしまう。こうなると、互いにとって不幸な道をたどることになりかねない。

「選手に惚れ込む」は共通。

 ベテラン・スカウトの向島氏は、プロ野球の同業者からも学べることは学んできた。自宅の本棚にはスカウト関連の本がずらりとそろう。広島カープのスカウト統括部長・苑田聡彦氏について書かれた『惚れる力』などもその一冊。

「選手に惚れ込むところなどは共通しているなと思いました」

 主将の小林悠(拓殖大)、副将の谷口彰悟(筑波大)と大島僚太(静岡学園高)、若手の守田英正(流通経済大)や脇坂泰斗(阪南大)など、獲得してきた選手はことごとくチームの主軸になっている。

「来たくなかったのに来るのが一番困ります。もしサッカーにドラフトがあれば、自分から来たいという選手しか指名しません。本人が難色を示せば、指名することはないでしょうね」

「金銭」より「環境」を優先する。

 Jクラブのスカウトたちが口をそろえるのは、いかにして選手に来たいと思ってもらうか。新人に提示する年俸の上限は一律460万円。一部の例外として、アマ時代にJリーグや代表の試合で規定以上の出場時間をクリアした選手のみ上限670万円になるが、それも一律。'90年代はマネーゲームに発展し、中堅クラブでも新人に年俸3000万円という金額が提示されたこともあったが、その反省を踏まえて現制度に落ち着いている。

 選手たちがクラブを選ぶ基準は、目先の金銭ではないのだ。キャリアプランを考えた上で、最適な場所を選ぶことが多い。将来的に欧州の舞台を目指す選手は、海外移籍の実績あるクラブを選ぶ傾向にある。18歳でガンバ大阪からオランダのトゥベンテへ移籍した中村敬斗(三菱養和ユース)らがまさにそう。

 一方で優勝争いをするチームに飛び込むことが日本代表入りの近道と考える選手たちもいる。川崎Fの守田は、その成功例だろう。スカウトも選手たちのその意向をくんだ上で、勧誘している。

 仮にドラフトがあったとしても、選手たちの将来性を見抜くスカウトの仕事は同じ。自分の目で良い選手を見定め、テーブルに乗せるまでは野球もサッカーも変わりはない。

ドラフトは怖いと話すJスカウトも。

 ただ、2018年から大分トリニータでスカウトを始めたばかりの上本大海氏は、「ドラフトは怖い」としみじみ話す。これまではドラマ性のある物語として捉えており、元PL学園高の桑田真澄、清原和博の事例について熱く語ったりもした。しかし、いざスカウト目線で見ると、他人事ではなくなった。

「例えば、うちが1位指名で1本釣りを狙っていた選手に対し、急に他クラブが入札してくることもあるんですよね? これまでずっと追いかけて来て、選手と信頼関係も築いていても、最後はクジで決まってしまう。これはスカウト泣かせです」

 スカウト1年目だった昨年、早稲田大のGK小島亨介を獲得したことがすぐに頭に浮かんだ。泣きたくなるのは、選手だけではない。資金力が乏しい地方クラブのスカウトとして、複雑な思いを口にする。

「クジで有力選手を取れるなら、ドラフトがあったらいいのに、と少し思ったことはありましたが、厳しい面もあります。仮に優先交渉権を獲得しても、強豪でもない地方クラブにスーパーな選手が本当に来るのか。正直、断られる可能性もありますよね? 野球でもありますし。そうなると、本当に困りますね」

ドラフトがあっても戦略は変わらない。

 現在、ヴァンフォーレ甲府でスカウトを務めるベテランの森淳氏も、キャリアが浅かった頃はドラフトを羨ましく思ったことがある。主にスカウトとして、ベルマーレ平塚(現湘南ベルマーレ)、ベガルタ仙台を渡り歩き、多くの選手獲得に関わってきた。

「ペーペーの頃は経験のあるスカウトの人たちと争っても勝ち目がないと思っていました。それなら、クジ引きで一番最初に選びたいと。年齢を重ねて、その考えも変わり、自分で何とかしたいと思うようになりました。ドラフト1巡目の5、6人は獲得するのが難しくても、自分のなかで“これ”という磨けば光る素材を探してきて、育てていければいい。僕ら地方クラブが人気の1位候補を指名しても、『社会人に行きます』とか言われそうですしね」

 仮にドラフトがあっても、スカウトの戦略は変わらない。強豪クラブが1位に指名しないような選手の“1本釣り”だ。時間をかけてプレーの質をチェックし、選手に納得してもらってからオファーを出す。

「選手は気乗りしないクラブでは活躍できませんから。メンタルの部分は、プレーに大きく影響を及ぼします」

地方クラブなりの口説き方。

 資金力の乏しい地方クラブには、それなりの口説き方がある。

「サッカーの場合は野球と違い、移籍がスムーズですからね。新卒で入っても、活躍すれば2、3年で大きなクラブへ移ることもできます。優勝を争う強豪クラブで試合に出るまで2、3年出場機会に恵まれないのであれば、こちらですぐに試合に出る方法もあります。どちらが成長できますかって。やはり、選手は試合に出てこそ伸びるんです」

 甲府を経由して、大きな目標に向かっていく形もある。クラブにとっても彼らが成長し、移籍金を残してくれればメリットはある。かつて佐々木翔と稲垣祥がサンフレッチェ広島へ羽ばたき、現日本代表の伊東純也は柏レイソルを経てベルギーのヘンクまで飛躍した。森スカウトは、いまでも彼らの活躍に目を細める。

「ほかのクラブでも活躍してくれるとうれしいし、そこで優勝してもらいたいと本気で思っています」

 サッカー選手としての成長を心から喜んでいるようだ。

 ドラフトにドラマがあり、その続きの物語があるように、サッカーもそこは同じである。

文=杉園昌之

photograph by Yuki Suenaga


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