ジャパンの南ア攻略法は存在する。三たび、歴史的な夜にならんことを。

ジャパンの南ア攻略法は存在する。三たび、歴史的な夜にならんことを。

 9月6日、7−41と日本が南アフリカに完敗したとき、試合後の記者会見でジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチは興味深い発言をした。

「南アフリカは攻めてこなかった」

 頭のなかに「?」が浮かんだが、改めて映像を見直してみると、ジェイミーが言わんとしていたことが見えてくる。

 ボールが動く局面では、南アフリカは積極的なアタックを封印していたのだ。

 この試合、後半13分の時点で南アフリカが27−0とリードし、勝敗は決した。そこまでの南アフリカが挙げた4つのトライを分解してみると、彼らの基本パターンが見えてくる。

 まずは、スクラム。

 南アフリカはスクラムを起点に2つのトライを奪っている。ただし、いつもスクラムに全力ではなく、勝負どころでのみ100%プッシュ。日本はFWがディフェンスで無力化され、左BKで完全に数的優位を作られてからのトライを奪われている。

南アのトライを防ぐ2つのポイント。

 もうひとつのパターンはキックからの攻防。いわゆる、アンストラクチャーの局面で2本のトライを奪われている。

 最初は、日本が自陣から脱出しようとSO田村優がコンテストキックを蹴ったが、キック後の防御態勢が不備だったため、カウンターを許してのトライ。

 そして後半に入ってからのダメ押しのトライは、南アフリカのSO、ハンドレ・ポラードが日本陣に入ったところでコンテストキックを上げて、南アフリカが再獲得。

 そこから左に素早く展開してのトライだった(このトライを奪うまでの陣形が、日本がスコットランド戦で前半終了間際に奪った3本目のトライ、ラファエレのキックから福岡のトライとそっくりで驚いた。隊形を参考にした?)。

 つまり、失トライを防ぐという意味で重要なのは、ふたつになる。

 スクラムの安定。

 コンテストキックへの対処。

スクラムが五分ならば状況は変わる。

 この試合を見直して、改めて現代ラグビーにおけるスクラムの重要性を認識した。南アフリカのここぞというときのスクラムは“強暴”と表現したくなるほどの破壊力を持っていた。

 スクラムは減らしたいところだが、ゼロにするというわけにはいかない。ただし、今大会に入り、長谷川慎スクラムコーチにスポットライトが当たっているように、日本のスクラムは極めて安定している。

 もしも、スクラム戦で五分に戦えるようであれば、南アフリカのFW戦における心理的優位性を削ることができる。

 付け加えるなら、9月6日にはHOの堀江翔太が出ていない。ラグビーにおける「トータルフットボーラー」とでも呼びたくなる堀江ファクターがどう働くかも注目したい。

つなぐか、蹴るか、それが問題だ。

 難しいのが、コンテストキックについての考え方だ。

 これは日本のアタック戦略にも関わってくる。現在、ジャパンはアイルランド、スコットランド戦で見せたように「ポゼッション」を重視した戦い方と、ずっと取り組んできたキックを中心とした「アンストラクチャー」を作り出すふたつの選択肢を持つ。

 正攻法で考えるならば、ティアⅠ相手に成功を収めたポゼッションがファーストチョイスだろう。そうすれば、南アフリカの攻撃時間を削ることができる。

 ただし、南アフリカはディフェンスが大好物だ。

 私が4年前、『エディー・ジョーンズとの対話』を上梓したとき、エディーさんから南アフリカの特徴を聞いた。

「彼らはディフェンスを好みます。そしてディフェンスで相手を痛めつけ、そこからカウンターで一気に得点を取りにくる。このスタイルは、彼らがアパルトヘイトなど、人種隔離政策を行っていた社会背景と関連するものだと私は見ています」

 この考察が、4年前の「ブライトンの奇跡」を生んだ。

 エディー・ジャパンはポゼッションを重視していたが、あの日に限って、攻めなかった。蹴ったのだ。

 ある意味、南アフリカに攻めさせたのである。大好物のディフェンスを彼らから奪い去り、戸惑わせた。それが勝因のひとつとなった。

南アフリカに攻めさせるプラン。

 この成功例と、9月6日の前哨戦を掛け合わせると、ジェイミーとアタックコーチのトニー・ブラウンは、どんな戦略を立てるだろうか。

 この予測は難しい。

 常識的にはポゼッションが重視されるだろう。ただし、そこには南アフリカの壁が待つ。ターンオーバーの餌食になるリスクは高まる。

 エディーはそれを避けた。

 ジェイミーは、どうする?

 もしも、FWがフレッシュな状態であれば、ポゼッション戦略は有効だろう。

 それでも、私は9月6日の記者会見でのジェイミーの言葉が、やはり気になる。

 南アフリカは攻めてこなかった。

 ならば、攻めさせるゲームプランを立てたい。つまり、相手にボールを渡す。少なくとも、前半は日本からもコンテストキックを仕掛けると私は予想する。

4年前に南アを絶望させた男の存在。

 10月18日午後、日本代表のメンバーの発表があり、FBには山中亮平が入った。山中の左足のロングキックを武器と捉えたのではないか。

 そしてSO田村のコンテストキックの精度、一本、一本のキックの意味合い、チェイスの陣形、すべてを完璧に遂行する。

 敵陣でボールを再獲得した後は、一気呵成にスピーディなボール回しを展開すれば……。

 そして、ゲームトータルのマネージメントでいうと、20番にはアマナキ・レレイ・マフィの名前があった。

 4年前、南アフリカに絶望を味合わせた男。

 競りあう展開に持ち込み、今大会、プレータイムの少ないマフィが大仕事をするストーリーをイメージしたい。

南アの戦術はすでに割れている。

 一方、南アフリカは、「攻めない」という戦略を変える必要はないだろう。

 キックで陣地を進め、敵陣22mに入ってのスクラム、ラインアウトを起点にすれば、局地戦で優位に立てる。

 センターラインを中心としたエリアでは、コンテストキックを蹴って、福岡堅樹、松島幸太朗を消耗させる。

 ある意味で、予測はつきやすい。

 ただし、9月の時点で彼らは日本と再戦するというイメージは持っていなかっただろう。日本との対戦成績を五分にするべく、日本攻略のレシピは開陳してしまったと私は見る。

 そこに日本のチャンスがある。

「勝つのは無理」だと全く思わない幸せ。

 ここまで書いてきて、南アフリカに対して「勝つのは無理だろう」という気持ちが欠片もないことに自分で驚いている。

 どうやったら、スプリングボクスに勝てるのか。

 こんな思いを抱けるのは、どれだけ幸せなことなのか、今の今まで知らなかった。

 Have a good game!

 三たび、歴史的な夜にならんことを。

文=生島淳

photograph by Naoya Sanuki


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