川島永嗣の“リカバリー”に感化。大迫敬介が目指す「勝たせるGK」。

川島永嗣の“リカバリー”に感化。大迫敬介が目指す「勝たせるGK」。

 セカンドボールへのアクション。短所だと思って改善しようとしていた部分は、実は自分の長所として、磨き上げられていた――。

 サンフレッチェ広島の若き守護神・大迫敬介は今、大きな成長曲線を描いている最中である。

 多くの経験が必要とされ、たった1枠しかないGKというポジションにおいて、20代前半の若手が正GKを担うのは容易いことではない。周りのレベルが上がればなおさら困難なミッションとなる。大迫はそれをJ1で上位争いするクラブで経験し、そしてA代表に選出されるまでの選手に成長した。

 起こったことはすべて今年の出来事である。昨年まで出場ゼロだった男の環境は激変をした。

 広島の正GKとして試合出場を重ね、5月にA代表に初選出。6月のコパ・アメリカでは、チリ戦で念願のA代表デビューを飾り、帰国後もチームで安定したプレーを続けた。東京五輪代表の守護神候補として17日行われるU-22日本代表のコロンビア戦メンバーにも選出をされた。

「状況に応じた決断力というのは自分のストロングポイント。迷うプレーがないのが強み」と自らが語るように、ポジショニングやプレーを瞬時に選択して、それを実行する力に長けたGKだ。

A代表を経験して持ち帰ったもの。

 だが、その決断が正しいかどうか。そしてプレーを選択をしたあとの対応力という面では、まだ物足りない部分は多い。だが、前述したようにJリーグ、代表のすべてを初めて経験している20歳の新鋭で、まだまだ発展途上。むしろ、この年齢で今の場所に到達できていることはポテンシャルの大きさを表している。

「キャッチするのか、弾くのか。弾くにしてもどこに弾くのか。細かい技術がGKには求められてくる。そこは代表を経験して、川島永嗣さんや権田修一さんを見て、本当に勉強になった」

 彼にとってA代表は最高のお手本が揃う場所だった。さらにライバルとして争うことで成長するにはもってこいの環境。試合に出るためにアピールをしながらも、冷静にベテランGKたちの一挙手一投足に目を配った。

 その中で大迫にとって印象的なシーンがあったという。

驚いた川島のリカバリー力。

 コパ・アメリカのグループリーグ最終戦、エクアドル戦。23分のシーンだ。右サイドからのバックパスを受けた川島は、逆サイドの味方へ横パスを展開しようと試みた。だが、そのボールを相手に直接渡してしまう。このプレー自体はGKとしていただけなかったが、その後のミスをリカバリーするプレーに凄みを見せつけた。

「リカバリーの速さが凄まじかった」(大迫)

 相手に渡った瞬間、川島はすぐにサイドを突破してきた相手に対して構えた。状態を整え、中央に位置取っていたFWエネル・バレンシアの動きを瞬時に把握。マイナスのボールに対し、スムーズなステップワークで重心を移動させ、バレンシアの強烈なダイレクトシュートに横っ飛びで反応。右手でブロックすると、跳ね返りを左手でキャッチ。詰めてきたMFジェへクソン・メンデスのシュート機会を未然に防いだ。

「自作自演」と言われてしまうかもしれないが、張り詰めた試合の中でミスは起こるもの。重要なのはミスをした後にどう立て直すか。川島はミスを引きずらず、むしろすぐに集中力を最高潮まで引き上げ、セーブしてみせた。

 オンプレーが続く局面で、重心を安定させて状況を察知し、最後はワンハンドで自分の体の近くにボールを引き寄せて抑え込む。相手の2度の決定的チャンスを防いだ一連の速さと質に大迫は驚きを隠せなかった。

こぼれ球を押し込まれた失点が続く。

「Jリーグでは、僕が弾いた後のセカンドボールを詰められて失点をしてしまうシーンがあったんです。それが僕の中でも大きな課題だった」

 J1第9節の名古屋グランパス戦。0−1で敗れた試合の決勝弾は、まさにその課題が浮き彫りとなったものだった。

 まず大迫は、名古屋FWジョーの右からの折り返しに対し、詰めてきたMF和泉竜司の動きに反応。和泉の足をかすめたボールがファーに流れたが、大迫はそのファーストプレーで体を倒してしまった。カバーにきたDFと交錯してしまったのも影響し、セカンドアクションにスムーズに移行できず、こぼれたボールをMF前田直輝に押し込まれた。和泉への対応で倒れずにプレーすることができていれば、前田のシュートを防げたかもしれない。

 第14節コンサドーレ札幌戦もそうだった。抜け出してきた札幌FW鈴木武蔵に対し、勇気を持って飛び出し、両手でボールを弾き出した大迫だったが、そのこぼれ球をMF早坂良太にダイレクトで蹴り込まれたた。

 まずはキャッチにいくか、弾くかの判断。さらに鈴木の動きだけでなく、後方でフリーだった早坂の位置を見て、弾くならより大きく弾く、またはエンドラインを割るように仕向けることができたはずだった。そしてセカンドアクションの面では、すぐに起き上がってコースを切りに行けば触れることはできたかもしれない。左足一本で伸ばした対応にも他に選択肢はなかったか。

 もちろん、いずれもGKだけを責められるシーンではない。むしろ、きちんと反応していること自体を褒めてもいい。しかし、彼が目指すべき場所はもっと高いところにあると考えると、そこは改善すべき大きな課題となる。何より本人がそこに強い自覚を持っているのだ。

「ほんのコンマ何秒の差」

「札幌戦の失点は本当に悔しかった。それ以外のシーンでも、『もっとこうしていたら違っていた』と本当に悔やまれることが多かったんです。試合映像で振り返りながら、そういう失点を減らそうと、意識的に取り組むようになった時だったんです。

 そのタイミングで永嗣さんのあのセカンドアクションの速さを目の当たりにして、やはり自分に必要なことだと痛感しました。弾き方、弾く場所、それを判断するスピード……。ほんのコンマ何秒の差ですが、そこで大きな差が生まれる。(ブラジルから)帰国して、さらにこだわるようになりました」

 それでもまだ試練は続く。帰国後のJ1第22節のガンバ大阪戦。0−0で迎えた89分、右サイドでサイドチェンジを受けたG大阪MF小野瀬康介が切り返しから強烈なミドルシュート。大迫はこれを素晴らしいポジショニングで正面で受けたが、肝心のセーブの際に両手ですくい上げるように対応してしまった。力なく前に落としたことで、そのこぼれ球をMF倉田秋に豪快に蹴り込まれた。

 だが、苦い経験はすべてが力になる。この失点をきっかけにより自らへの課題に取り組む熱量は増した。

徐々に見せ始めた課題の克服。

 その成果は直近のJリーグでも顕著に見られた。

 J1第29節の清水エスパルス戦。開始早々の2分、清水DF松原后のクロスに対し、大迫はしっかりとボールの軌道を見て、ファーサイドに飛び込んできたMF金子翔太のシュートに対応。金子のシュートが大迫より前にいたDFがブロックして、再び金子の足元にボールが収ったことを確認すると、すぐに一歩前に出て距離を詰めながら、ゴールに対して面を作ってシュートコースを消し去った。

 金子がシュートを諦め、フリーだったFWドウグラスにパスを出すと、今度はすぐにステップを切り、プレッシャーを掛ける。ドウグラスのシュートがバーの上を大きく超えていくと、大迫は大きく手を叩いた。

「あそこのセカンドアクションは自分の中でも思い通りにスムーズにいったなと思いました。(金子に)ブロッキングから(ドウグラスへ)早いパスを出されたので、すぐに切り替えて、ステップワークがうまくいった。それはいろんな経験をした上で、自分が鍛え上げてきたことだと思ったので、手応えを感じました」

 続く川崎フロンターレ戦でも成長の兆しを見せる。大迫はボールをキープする川崎MF大島僚太を見ながらコーチング。ペナルティーエリア内でパスを受けたMF中村憲剛が抜け出したことを確認すると、状態を低くしながら、まず中村のシュートコースを消した。

 中村の切り返しが流れたところに、フリーでMF脇坂泰斗がいたが、そこにすぐに体を向けると、至近距離からの右足シュートにも倒れこむことなく左足でブロック。弾いたボールからも目を離さず、こぼれ球に反応したMF阿部浩之のシュートに対し前へステップを切った。先にブロックに入った味方DFに当たって事なきを得たが、大迫は阿部のシュートコースに入っていた。

「日頃の練習が本当に大切。これからも積み重ねないと上には行けません」

「勝たせるGKになりたい」

 着実に経験を重ね、発見を繰り返すことで成長を続けている。

 振り返ると、広島ユース時代から高い身体能力と俊敏性だけでなく、日本人GKに足りないと言われるパワーを兼ね備えていた稀有な存在だった。高校時代の彼のプレーを見て、パワーを持ってセカンドボールにアプローチできるチョン・ソンリョン(川崎F)を連想していた。実際に彼にもそう伝えたことはあった。

 ただ、常に1つ上の環境に身を置いたことで、周囲のレベルについていくことに必死になってしまい、自分の長所であるセカンドボールのアクションを短所だと意識していた。だが、それは彼にとってプラスに働いた。それを解消すべく意欲的に取り組んだことで、彼がもっていたもともとの長所は一層、磨かれていったのだ。

「よりチームを勝たせるGKになりたいし、チームに対してエネルギーを与えられる存在になりたい」

 そうなるために必要なことは理解している。どんどんステージが上がっても彼は環境を成長に変えていけるだろう。まずは目の前の目標である東京五輪に向けて、ライバルたちとのポジション争いに意識を注ぎ込む。

文=安藤隆人

photograph by Takahito Ando


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