サイ・ヤング賞投票の日本人記者語る。勝利数より奪三振、そして説明責任。

サイ・ヤング賞投票の日本人記者語る。勝利数より奪三振、そして説明責任。

 今年もまた、全米野球記者協会シカゴ支部局長ポール・サリバン氏(シカゴ・トリビューン紙)から、ナショナル・リーグ(ナ・リーグ)のサイ・ヤング賞の投票を任された。5月のことだ。

 全米野球記者協会各支部から任命された30名の記者が記名投票するサイ・ヤング賞は、メジャーリーグの最優秀投手賞であり、原則5名の選考委員が選出する日本プロ野球の沢村賞のように「先発完投型」の賞ではないので、救援投手が受賞することもある。

 だから、沢村賞のような『15勝以上、防御率2.50以下、完投10試合以上、150奪三振以上』というような選考基準は存在しない。

 とはいえ、ボストンを取材の拠点にしていた20年ぐらい前は、投手の主要タイトル3部門である勝利数、防御率、奪三振数が重要視されていたし、『ペナントレースを争ったチームに貢献した投手』という、投手自身の技量とは無関係の要素も、当時は考慮されていた。

 それが今や、奪三振>防御率>>>>勝利数ぐらいの感覚で主要3部門の重みに違いが生まれており、チーム成績もあまり関係がなくなった。

セイバー系の数字を重視するように。

 投票者によって多少の違いはあれども、そこにWHIP(四球と安打を出す確率)やクオリティ・スタート(QS=6回以上3失点以下)やその率、被OPS(被出塁率+被長打率)やK/BB(三振と四球の割合)といった比較的、認知度の高い数字が考慮されるようになった。

 他にもERC(Component ERA=実際の失点に基づいた防御率ではなく、与四球と被安打数から算出される防御率)やDIPS(Defense Independent Pitching Statistics)=被本塁打や奪三振、与四死球、フライボールやゴロ、ライナーを打たれる確率など、捕手以外の野手の能力と無関係に算出されるセイバーメトリクス系の数字も参考にされるようになった。

 私自身も、その1人である。

まず12人をリストアップ。

 サイ・ヤング賞への投票は今年で2年連続3度目になるが、今年の場合、まずは投手主要3部門のタイトル獲得者として、最多勝(18勝)のスティーブン・ストラスバーグ(ナショナルズ)、最優秀防御率(2.32)の柳賢振(ドジャース)、最多奪三振(255)のジェイコブ・デグロム(メッツ)の3人を候補者にした。

 次にナ・リーグ最高WHIP(0.97)のジャック・フラハティー(カージナルス)、同最多QS(24)のパトリック・コルビン、同最高K/BB(7.36)のマックス・シャーザー(ともにナショナルズ)と3人の有力な候補者を加え、これで計6人。

 さらに勝利数2位(17勝)のマックス・フリード、防御率3位(2.68)のマイク・ソロカ(ともにブレーブス)、被打率2位(.196)・被OPS3位のソニー・グレイ、被打率(.202)をリーグ3位に抑えたルイス・カスティーヨ(ともにレッズ)、QS率1位(79%)のクレイトン・カーショウ、K/BB3位のウォーカー・ビューラー(ともにドジャース)らも候補に加え、今年はこの12人から上位5人を選出することにした。

1位は文句なし。2位は迷った。

 1位票(7ポイント)は、デグロム(メッツ)に入れた。

 デグロムはナ・リーグ18位タイの11勝止まりだが、昨年10勝で同賞を獲得しているので、そこはハナから問題視しなかった。

 前出のようにリーグ最高の奪三振を筆頭に、WHIP(0.97)、ERC(2.22)などがリーグ1位で、被OPSやQS率、DIPSなどの数字が軒並みリーグ上位なので、他の28人の記者同様、疑う余地など何ひとつなかった。

 2位票(4ポイント)はフラハティー(カージナルス)に入れた。

 結果的にもっとも2位票を集めたのは柳であり、次点がシャーザーだったから、私と他の4人の記者は少し奇をてらった形になった。なぜか?

優勝への貢献、という伝統的な理由。

 それはフラハティーが前半戦を防御率4.64、WHIP1.227、K/BB3.34と苦戦したものの、後半戦は防御率0.91、WHIP0.715、K/BB5.39とデグロム(防御率1.44、WHIP0.830、K/BB6.16)に匹敵するような好成績を残し、シーズンを通じた成績でも前出の多くの部門で柳やシャーザーをしのぐ数字を残したことを評価したからだ。

 もうひとつ気になったのが、前出の通り「奪三振>防御率>>>>勝利数ぐらいの感覚」の重要性の勝利数で、私はここに「ペナントレースを争ったチームに貢献した投手」という伝統的で曖昧な理由≒選考基準も持ち込んだ。

 なぜなら、前半戦、4勝6敗と苦しんだフラハティーが後半戦、7勝2敗と持ち直さなければ、カージナルスがナ・リーグ中地区で後半の激しい追い上げで逆転優勝することはなかったと強く感じたからだ。

勝ち星で圧倒的だったわけではないが。

 それを「取材機会が多かったナ・リーグ中地区の偏見だ」と指摘されれば、潔く認める。後半戦の勝利数なら、カージナルスの同僚ダコタ・ハドソンやアダム・ウェインライト、クレイトン・カーショウ(ドジャース)らがフラハティーをしのぐ9勝を挙げているので、そこも反論するつもりはない。

 ただし、前述の通り、フラハティーはナ・リーグ最高WHIP(0.97)をはじめ、同最高の被打率(.192)、同2位の被OPS(.591)とERC(2.32)、同4位の防御率(2.75)など、シーズンを通じた数字も柳やシャーザーを圧倒していたという事実も、こういう順位になった重要な要素だった。

シャーザーは離脱こそしたが。

 3位票(3ポイント)はシャーザー(ナショナルズ)、4位票(2ポイント)は柳(ドジャース)という順位で入れた。

 シャーザーはシーズン中に背中を痛めて約1カ月半も戦線離脱したので、10年連続の30試合登板も6年連続の200イニング登板記録も途切れたが(27試合172.1回)、K/BB(7.36)、K/9(9回あたりの奪三振率=12.69)、DIPS(2.39)がリーグ最高を記録。

 柳もリーグ最優秀防御率(2.32)の他に、同3位のWHIP(1.01)や同2位のK/BB(6.79)、同3位のERC(2.46)、同4位のDIPS(3.03)など平均的に数字が高く、それが他の8人の候補より上だと評価した理由だ。

最多勝のストラスバーグは5位。

 最後の5位票(1ポイント)はストラスバーグに入れた。

 ストラスバーグはナ・リーグ最多の勝利数(18勝)とイニング数(209.0回)で、同2位の奪三振(251)と、ひと昔の考え方ならサイヤング賞と獲得していたかもしれない。だが、他の数字が上位4人に及ばなかったのでこの順位になったし、実際の投票でも5位だった。

 投票の際に『投手の主要タイトル3部門にこだわらない』という意味では、ダルビッシュ有投手(カブス)が残した数字も参考にした。

 同投手もフラハティーのように前半戦は防御率5.01、WHIP1.340、K/BB2.27と苦戦したが、後半戦はナ・リーグ3位の防御率(2.76)、同2位のWHIP0.81、そして、2位デグロムの6.16を異次元レベルで突き放す同最高のK/BB16.86という数字を残したからだ。

 残念ながらシーズンを通じた成績は、前半戦の不調がフラハティー以上に響いて、ナ・リーグ3位のK/9(11.54)や同6位の被打率(.213)、同7位の奪三振(229 優勝を逃したことで最終登板を回避したので8個前後は増えていたと思われる)ぐらいしか、投票の対象となる数字はなかったが、後半戦は来季に期待が持てる数字がズラリと並んだ。

 最後になるが、それがどんな賞であれ、選出の記名投票は重要な任務であり、それを命じられるのは光栄なことだと認識している。無名投票で「書き逃げ」するわけにはいかないので、それなりのAccountability=説明責任もあると思っている。

 同業者に疑問を投げかけられればきちんと返答するし、ツイッターなどのSNSやこのコラムの書き込み欄で突っ込まれても、気づいた限りはなるべく返答したいとは思っている(記名投稿のみでno nameには返答しないけど)。

文=ナガオ勝司

photograph by AFLO


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