ラグビー界最強の酒販担当営業マン。中村亮土の勇敢で愚直な仕事っぷり。

ラグビー界最強の酒販担当営業マン。中村亮土の勇敢で愚直な仕事っぷり。

 桜のジャージーからスーツに着替える。ラグビー日本代表の中村亮土は、11月下旬からサントリーの営業マンとして赤坂オフィスに戻る。

「酒販店さんを担当しています。酒販店さんと連動しながら、業務店さんを回ってメニューを変えてもらったりする業務です」

 今年は日本代表活動に専念し、自身初のワールドカップで全5試合に出場。不動の主力センターとして、史上初の8強入りに大きく貢献した。

“出向先”で大きな成果を挙げた中村は、社内で大きな歓迎を受けるだろう。日本代表キャップを持つサントリーサンゴリアスの元プロップで、現役社員の池谷陽輔氏がサントリー独自の文化を教えてくれた。

「サントリーでは社員がラグビー部を応援してくれます。取引先の方々にも理解のある方が多く、『明日練習でしょう?』などと声を掛けてくれます。サントリーの先輩たちが築いてきてくれた文化だと思います」

華麗で、愚直だった薩摩隼人。

 ワールドカップ後は郷里・鹿児島に帰省し、束の間の休息をとった。ただ周囲の反応は様変わり。行きつけのとんかつ屋で奢られ、立ち寄ったコンビニでも声を掛けられた。

 鹿児島実業高校で本格的にラグビーを始めた元サッカー少年は、いまや日本中が顔を知る会社員になっていた。

 周囲の反応も無理もないだろう。現代の薩摩隼人は、海外列強を向こうに勇敢だった。華麗であり、愚直だった。

磨いてきたオフロードパス。

 歴史的なトライの陰には中村がいた。ロシアとの開幕戦では、磨き抜いたオフロードパスで松島幸太朗の2トライ目をアシスト。

「オフロードパスはジェイミー・ジャパンが始まってからずっと磨いてきたスキルでした」

 ボールの先を持つ。ヒジを開ける。相手の顔が見えるまで振り向く――基本から積み重ねたオフロードパスを大舞台で披露できるところが、屈強な心身を持つ中村らしい。

 世界を驚かせたアイルランド戦では、福岡堅樹の逆転トライに繋がるパスを放った。

「外が空いているのは分かっていました。サインも聞こえなかったですが、みんな同じイメージがあったと思います」

 センターコンビを組むラファエレ ティモシーへ矢のようなパス。福岡へのラストパスが生まれた。ラファエレが左中間に飛び込んだサモア戦のチーム初トライも、ラストパスの供給者は中村だった。

驚異のタックル成功率に貢献した動き。

 素早いセットからの強烈タックル――ディフェンスは中村の真骨頂だ。

 帝京大学のキャプテンとして大学選手権5連覇を経験している中村は、日本代表でリーダーグループに入り、得意のディフェンスを担当。大会中に強烈タックルを何度も見舞った。

 ただタックルだけではない。特にディフェンスラインを素早く押し上げ、相手を内側へ追い込んだ。

 前に出ては下がり、前に出ては、また下がる。

 過酷なシャトルランで中村らが追い込んだ先には、両ロックのトンプソン ルークやジェームス・ムーア、フッカーの堀江翔太などFW陣がいた。彼らがアイルランド戦で叩き出した驚異のタックル数は、“追い込み漁”に徹した中村らの仕事が要因のひとつだった。

SO田村優を支えた「12番」

 またスタンドオフとしても経験豊富な中村は、田村優のゲームメイクを支えた。

「今の12番はタイプが2つあると思います。ひとつは南アフリカのデアリエンディ、イングランドのトゥイランギといったフィジカルに特化した選手。もうひとつはイングランドのファレルなど、ゲームコントロールしつつ接点でも戦える選手です」

 パスも巧みな中村は後者。特にアイルランド戦ではラインアウトからの一次、二次攻撃でファーストレシーバーになるなど、田村とダブル司令塔のように動く局面もあった。

「ブラウニー(トニー・ブラウン/アタックコーチ)にもそうした役割を求められていました。ただ完全に優さんと一緒にやるというよりは、優さんをサポートしている感じです」

ピンチを予感した猛ダッシュ。

 中村は決して諦めない強靱なメンタルも備えている。

 夢の4強入りを阻まれた南アフリカ戦の後半30分、日本はカウンターからWTBマピンピに決定的なトライを決められている。

 後半30分といえば体力的、精神的にきつい時間帯だ。そこでターンオーバーが起こり、相手10番のポラードが全速力でカウンターを仕掛けた、その時だった。

 ピンチを予感した中村は、逆サイドのディフェンスラインから自陣方向へ猛ダッシュ。50m以上を全力疾走した。トライは防げなかったが、きつい時にこそ身体を張るチームマンぶりを発揮した。

ラグビー界最強のサラリーマン。

 福岡堅樹、松島幸太朗の両ウイングはその驚異的な走りを「フェラーリ」に例えられた。では自身を例えるなら? その問いを中村に投げかけると、意外な答えが返ってきた。

「『助手席に乗っている人』、くらいですかね」

 実力と功績に見合わぬ謙遜。派手なプレーに走ることなく、与えられた役割をひたすら、しかし期待以上の仕事をこなし続ける。

 ラグビー界最強のサラリーマン、中村亮土の次なる舞台は、2020年1月開幕のトップリーグだ。

文=多羅正崇

photograph by Getty Images


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