ボルシアMGの凄そうで不思議な異名、「攻撃サッカーの殿堂」復活のワケ。

ボルシアMGの凄そうで不思議な異名、「攻撃サッカーの殿堂」復活のワケ。

 フランクフルトからドイツ鉄道特急のICE(InterCity-Express)に乗って約1時間半。ライン川を跨ぐ橋を渡り、左前方にドイツ屈指の威容を誇る大聖堂が見えてくると、そこはドイツ第4の都市ケルンです。

 でも、今日の最終目的地はここではありません。ケルン中央駅で待つこと約1時間。ようやく来た快速列車のRE(Regional-Express)に乗り込み、約30分の行程を経てある地方都市に到着しました。

 ノルトライン・ベストファーレン州に属するメンヘングラッドバッハは人口約27万人の小都市です。

 街の中心部のアルターマルクト周辺にはデパートやブランドショップが幾つか連なっていますが、お世辞にも栄えているとは言えません。

低迷続きのメングラが快進撃中。

 ただし、この街には地元の人々が誇るプロサッカークラブがあります。その名はボルシア・メンヘングラッドバッハ。ブンデスリーガで5度の優勝を誇り、DFBポカールを3度、UEFAカップ(現ヨーロッパリーグ)も2度制覇した超名門クラブです。

 そのアグレッシブなチームスタイルからついた異名は「攻撃サッカーの殿堂」。うーむ、何を言っているのかよく分からないのですが、とにかく凄そうです。

 とはいえ、それも過去の話。メングラ(長いので略します)が時代を謳歌したのは主に1960年代から1970年代。1999-2000シーズンにクラブ史上初の2部降格を喫した後は、2000-2001、2007-2008シーズンも2部での戦いを余儀なくされています。

 かつてはバイエルンやライバルであるボルシア・ドルトムントと覇権を争った彼らも、長きに渡る低迷期に入っていたのです。そんな彼らが今季、ある若手指揮官に率いられてドイツサッカー界で快進撃を続けています。

遠目に見るVIPメンバーのロビー。

 僕が取材に赴いたのは11月中旬のブンデスリーガ。対戦相手は我らが日本代表エースFWの大迫勇也が在籍するベルダー・ブレーメンです。

 試合3時間前の10時30分にボルシア・パルクの正面に着いたら、設営されたばかりのソーセージ屋台にサポーターたちが群がっていました。少々寒かったものの抜けるような青空が広がる快晴で、空気が澄んでいます。屋台から上る湯気が空と同化して雲のような模様を形作っています。

 側道脇の路肩に座り込んだカップルが楽しそうに談笑していて、ピクニックに来たみたい。浮かれ気分でメディアルームへ向かうと、ドアにカギ! どうやら早く着き過ぎたようなので近接するスタジアムホテルのロビーで休憩しようとすると、そこはVIPメンバーの入場口が兼ねられていました。

 ロビー付近には多くの方々が詰めかけて甘美な社交場のような雰囲気。ビュッフェ形式の食事とお酒を愉しむ姿は、宵闇の紳士淑女のようですが、時計を見るとまだ10時45分。ああ、僕もその輪に加わりたい。

 おもむろに自分の試合IDカードを見て、立ち入り可能範囲を確認するも、VIPエリアの番号には明確にバツ印が記されています。落胆した僕は遠巻きに眺めていましたが、彼ら、彼女らの立ち居振る舞いには余裕が感じられました。

ゾマーのセーブ、フィードは必見。

 会話に耳を傾けると、話題はやはりメングラの躍進について。ブンデスリーガ第10節を終えて7勝1分2敗の勝ち点22は堂々の首位。RBライプツィヒ、バイエルン、ドルトムントなどを後方に従えて進撃する頼もしき姿に、“メングラ・サポーター”はご満悦の様子です。

 その後、無事にメディアルームへ通され、温かいコーヒーを飲んでからメインスタンド最上段の記者席へ向かうと、メングラのGKヤン・ゾマーと控えGKマックス・グリュンがウォーミングアップのために颯爽とピッチへ現れました。

 スイス代表ゾマーは僕のお気に入りです。まず、誕生日が同じ。183cm、79kgの体躯はブンデスリーガーの中では小柄な方ですが、そのハンディを俊敏さとスキルで相殺します。至近距離からのセービング反応は凄まじく速く、右足から放たれるフィードは正確無比。そんな彼が、今のメングラの攻撃の起点となっています。

南野&奥川を指導したローゼ監督。

 続いて両チームのフィールドプレーヤーも登場してきました。しばし我らが大迫の姿を注視した後、ホームチームの様子をうかがうと、ひと際目立つのはドイツ代表でもあるDFマティアス・ギンターでしょうか。

 今季のメングラはギンター以外に高い実績を誇る選手は見当たらないのですが、最近はスイス代表MFデニス・ザカリアに注目が集まりつつあります。アーセナル、リバプールなどが獲得を目論んでいる23歳にあまり着目してこなかったので、今日は彼のプレーを観察してみようと決めました。

 そして、今季のメングラを率いるのはドイツ人指揮官のマルコ・ローゼです。

 1976年9月11日生まれの彼は、ドイツのS級ライセンスであるフースバルレーラーを2014年から2015年にかけて修了した人物で、同期には現ブレーメン指揮官(今試合の相手!)のフロリアン・コーフェルトや、かつてイラン代表FWとして日本代表の前に立ちはだかった“ヘリコプター”ことバヒド・ハシェミアンなどがいます。ちなみに、翌年のフースバルレーラー講座修了者の代表格は現ライプツィヒ指揮官のユリアン・ナーゲルスマンです。

 ローゼは昨季まで、南野拓実や奥川雅也が所属するレッドブル・ザルツブルクの監督を務めていましたが、メングラは早くから彼の手腕に着目して昨シーズン終了前に彼の監督就任を発表しました。

戦術に感じられるラングニック哲学。

 ローゼの戦術、チームスタイルはいわゆる「レッドブル・スタイル」と称されるもの。その根幹は昨季までRBライプツィヒの監督で、ザルツブルクのスポーツディレクターも兼任したラルフ・ラングニックの哲学にあります。

 ラングニックはドイツサッカー界で「プロフェッサー」とあだ名がつくほどの戦術家。彼が提唱したボールサイドを中心点に定めたゾーンプレッシングは、その後にユルゲン・クロップ(現リバプール監督)が「ゲーゲンプレス」という形で具現化しました。

 また、同じくラングニックが公言したボール奪取から8秒以内にフィニッシュへ至る「8秒ルール」は、ダイレクトサッカーの代名詞として近年ヨーロッパサッカーシーンでスタンダードになりつつあります。

 ローゼはこの遺伝子を兼ね備える指導者と評価されていて、“師匠”のラングニックが昨季限りですべての職務を離れて表舞台から一旦退いた今、俄然脚光を浴びる存在となっているのです。

大迫のマッチアップすら起きない?

 さて、ローゼ率いるメングラは一体どんなサッカーを観せてくれるのでしょうか。

 固唾を呑んで見守ろうと思った瞬間、僕が座る記者席の隣にプラスチック製のビールカップを持った赤ら顔のオジサンがどっかと座り込んで喚声を上げるではありませんか。「おい! 試合が始まるぞ! すげーな、おい!」と言って僕の頭をペシペシと叩いたかと思ったら、どこかへ行ってしまいました。

 ふう、少し落ち着こう。

 ブレーメンの1トップ・大迫に対してメングラ守備陣がどんな対応をするのかと思ったのですが、そもそも大迫とCBギンターのマッチアップすら生まれません。メングラの前線プレスは凄まじく、相手がボール保持した瞬間4、5人で一斉に取り囲んで刈り取り、一気に敵陣へ殺到します。

 まさしく「8秒ルール」。その中心軸には常にボランチのザカリアがいて、彼のポジション取りに呼応するようにチーム全体がパッケージングされるが如く伸縮しています。

先発の新戦力はテュラムの息子くらい。

 特筆すべきはメングラのスタメンで、今季新戦力はFWマルクス・テュラム(←ギャンガン/フランス・父は元フランス代表のリリアン・テュラム)とSBラミ・ベンセバイニ(←レンヌ/フランス)のふたりしかいないのです。

 その他の9人は昨季もメングラに所属していたのですが、彼らのプレー傾向は完全に“ローゼ色”に染まっています。短期間でこれだけのチーム戦術を築き上げたばかりか、その高い実効性で相手を凌駕する様に感嘆してしまいます。

 と、思ったらMFラスロー・ベネスの右FKからラミ・ベンゼバイニがヘディングを流し込み先制。するとさっきのオジサンがまた横に座って高らかにチャントを奏で始めました。

 続いて22分、テュラムと相手GKイリ・パブレンカが交錯した隙を突きMFパトリック・ヘアマンがシュートを流し込んで2点目を奪取。倒れ込んだテュラムに仲間が駆け寄り「痛くない、痛くない」とテュラムの頭をさする姿にチームの団結心を感じちゃいました。あっ、またオジサンがこっちに来た。

 27分、ブレーメンの大迫が強烈なシュートを突き刺したと思われましたが、VARの末に直前の味方MFミロト・ラシカのファウルが認定されてノーゴールに……。オジサンが僕の背中をバンバン叩いて「良かったなぁ、おい!」と言っていますが、我らが日本代表のゴールが取り消されたんですから、ちっとも良くないです。

大声を張り上げたオジサンは……。

 ブレーメンは状況を立て直そうとするものの、メングラの嵐のようなゲーゲンプレスは止まらず。しかもブレーメンは大迫が受けたファウルでPKを獲得したのにキャプテンのダビー・クラーセンが失敗。数分後にへアマンのシュートで三度被弾してしまいました。

 あっ、オジサンが他の記者の横の席に座って大声を張り上げたものだから、むちゃくちゃ怒られている。

 結局、試合はブレーメンが後半アディショナルタイムに1点を返したものの3−1でメングラの勝利。大団円のボルシア・パルク。オジサンの姿はすでに見当たらず、僕は険しい表情を終始崩さない大迫の試合後インタビューを敢行して帰路へ着きました。

 午後4時のメンヘングラッドバッハに茜色の夕陽が落ちていきます。辺りが漆黒の闇に包まれても街の喧騒は止みません。中央駅に着いた快速列車の車内に乗り込みましたが、それほど乗客は多くありません。まだまだ、メングラの夜は長いのです。

 今季のブンデスは群雄割拠。メングラがいつまで首位を堅持できるかは分かりません。それでも今は至福に包まれる“メングラ・サポーター”を背に、帰りはデュッセルドルフを経由して、何処かでアルトビールでも買って、「攻撃サッカーの殿堂」の復活に思いを馳せようと思いました。

文=島崎英純

photograph by Getty Images


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