上位校の実力が拮抗する戦国駅伝で、風雲急を告げる特大の狼煙を上げたのは、関東学生連合チームを除く出場校の中でもっとも歴史が浅い東京国際大学だった。

 前回15位、前々回17位だった大学が、今回の箱根駅伝では5位に躍進。上位の常連校である駒澤大学や東洋大学の順位を上回った。

 創部は2011年で、箱根駅伝の出場は4回目。創部からわずか9年で念願のシード権を獲得したことになる。

創部当初は抜け道で帰る選手も。

 チームの屋台骨を支えているのが、大志田秀次監督だ。創部と同時に監督に就任し、これまで選手を地道に鍛え上げてきた。創部当初、選手が3人、マネージャーが1人しかおらず、校内放送で新入部員を集めようとしたのは有名な話だ。当時のこんな笑い話を聞いたことがある。

 なかなか有力な新入部員が集まらず、箱根駅伝予選会に必要な20kmを走れる選手が10人に満たなかった。そこでまずは10マイル(約16km)を走れるようになるための練習メニューを組んだのだが、抜け道を利用して帰ってくる者や、途中でバテて道路にうずくまっている者がいた。

 それが今やどうだろう。今回、2区を走ったエースの伊藤達彦(4年)は10000mで28分台、ハーフマラソンで61分台の記録を持つ。東洋大学の相澤晃(4年)とも激しいつばぜり合いを演じた。なにより総合5位という結果が、監督の手腕の確かさを物語っている。

 大会終了直後の大手町で、監督に話を聞いた。今回の躍進の鍵はどこにあったのか。

活躍が目立った5人の4年生。

「やっぱり一番は、選手が自分の持てる力をしっかり発揮できたことじゃないでしょうか。相手ありきではなくて、ペース配分や気象条件を考慮して、自分の力をどう出すかに集中していた。個々の頑張りに尽きますね」

 今回、特に活躍が目立ったのが出場した5人の4年生たちだ。山上りの5区を走った山瀬大成こそ区間10位だったが、エースの伊藤達彦(2区2位)、復路を走った真船恭輔(7区7位)、相沢悠斗(9区3位)、内山涼太(10区9位)の4人が区間ひと桁順位でまとめている。

 大志田監督は常々、4年生を中心にしたチームを作りたいと話しているが、4年間かけてじっくりと走力を磨き上げた彼らはまさに理想の選手たちと言えるだろう。

 気の早い話だが、来季以降は彼らが抜けた穴をどう埋めるかが戦略的に重要になってくる。何か策はあるのだろうか。

「確かに今の4年生たちは自分たちがチームを強くする、強くなりたいという意思を持って努力してくれました。ただ、今の3年生にもそうした流れができつつありますので、そこは彼らにも期待しています。復路も2年生の芳賀宏太郎が8区でよく粘ってくれましたし、こうした大舞台で自分の力を発揮できた経験は非常に大きい。自分たちにもできるんだと、出場していない部員もそう感じてくれたんじゃないでしょうか」

 良い流れができつつある。監督はそう、手応えを感じている様子だ。

強豪校になるためには翌年が大事。

 今後、強豪校の仲間入りを果たすには、来季以降の成績が大事になってくる。たとえば東洋大は箱根駅伝で初優勝を飾るまでに76年かかったが、翌年は連覇。そこからは常に3位以内をキープして、名門の地位を築き上げた。

 青山学院大学は原晋監督が2004年に就任し、5年目で箱根駅伝に33年振りの出場を果たした。その年こそ23チーム中22位と箱根駅伝の洗礼を浴びたが、翌年8位に躍進すると、以降はシード校の常連となった。2015年の初優勝まで、そこからは一気に登りつめた感がある。

ヴィンセントという大エース候補。

 両校に共通するのは、強豪校へと駆け上がっていく過程で、絶対的なエースを擁していたことだ。東洋大には柏原竜二がいて、青学大には神野大地がいた。5区の区間距離が短くなり、“山の神”が出にくい時代となったが、優勝争いをする上でエースの存在は不可欠と言えるだろう。

 日本人エースの伊藤は卒業するが、東国大にはもうひとり、留学生ランナーのヴィンセントがいる。まだ1年生だが、第96回箱根駅伝では3区を走り、59分25秒という圧巻の区間新記録を打ち立てた。区間2位に入った帝京大学の遠藤大地(2年)にほぼ2分の差をつけており、来季以降も確実に他校の脅威となり得る。

 あとはやはり、中間層の底上げだろうか。

 これまではスカウト面で苦労してきたと聞くが、今回の成績で注目が集まり、そこにも追い風が吹くかもしれない。創部当時は、ないない尽くしの状態だったが、今は駅伝部専用の寮があり、トラックやクロスカントリーコースも自前で備える。持久力向上に効果のある低酸素ルームを完備するなど、施設の充実振りは強豪校にも劣らない。

 監督は言う。

「高校時代はインターハイにも行けなかった選手や、5000mで15分台の記録だった選手たちがきっちり練習して5番に入れた。そういう夢は描けたと思います。ただし、練習は甘くありません。やはり20kmをしっかり走れて、こうした舞台に立つまでには基本的なトレーニングをやり続ける努力が必要。ただ好きなだけではたどり着けない世界です」

来季の目標は「選手次第ですね」。

 来季の目標について聞くと、慎重な言い回しながら、こう自信を覗かせる。

「今回の結果を得て、下級生たちが『次は3位を目指したい』となれば、それなりの練習をしなければならないですし……。そこは選手次第ですね」

 選手が主体のミーティングで、新チームはどんな目標を掲げるのか。

 さらなる下克上に期待したい。

文=小堀隆司

photograph by Yuki Suenaga