昨年、2019年の年度代表馬はリスグラシュー(牝6歳、父ハーツクライ、栗東・矢作芳人厩舎)に決定した。

 豪州の名手ダミアン・レーンを鞍上に迎えた宝塚記念では掛かり気味に先行し、牡馬勢を3馬身突き放す快勝。直線が173mしかない豪州ムーニーバレー競馬場のコックスプレートでは、後方から鮮やかな差し切り勝ちをおさめた。

 そしてラストランの有馬記念を5馬身差で圧勝。国内外のGIを3勝し、合計274票の記者投票のうち271票を獲得する、文句なしの受賞だった。

 22戦7勝、2着8回、3着4回という通算成績が示しているように、高いレベルで安定した強さを発揮しつづけた。

 しかし、2歳時や3歳時は勝ち切れず、阪神ジュベナイルフィリーズ2着、桜花賞2着、オークス5着、秋華賞2着と、大舞台では惜しいレースがつづいた。

「この馬は旅をしたことで成長しました」

 転機となったのは、4歳時の2018年のエリザベス女王杯と、その後の海外遠征だった。女王杯では、「マジックマン」の異名を取るジョアン・モレイラを背に、舞うような末脚で前を差し切り、GI初制覇を遂げた。

 翌12月の香港ヴァーズでもモレイラを背に2着。'19年4月の香港クイーンエリザベス2世カップではオイシン・マーフィーの手綱で3着と、海の向こうでも強さを見せた。

「この馬は旅をしたことによって成長しました」と矢作調教師。3歳時は東京への輸送でも大変だったというのに、香港へ2度、豪州へ1度の遠征を経て、レーンに「世界一を狙える」とまで言わしめる歴史的名牝になった。

 令和最初の年度代表馬にふさわしい、圧倒的なインパクトを残した。

ダービー馬もオークス馬も選ばれず。

 年度代表馬こそすんなりだったが、そのほかのいくつかの部門では、近年では珍しいぐらい記者投票の票が割れた。

 その最たるものが、最優秀3歳牡馬だ。皐月賞はサートゥルナーリア、ダービーはロジャーバローズ、そして菊花賞はワールドプレミアと、3頭が三冠を勝ち分けた。

 3頭とも'19年のGIは1勝ずつだったのに対し、アドマイヤマーズがNHKマイルカップと香港マイルを勝ち、クリソベリルが大井のジャパンダートダービーとチャンピオンズカップを無敗で制するなど、クラシックホースではない馬が年内にGIを2勝していた。

 どの馬が選ばれるのか予想するのも難しい大混戦だったが、結局、サートゥルナーリアが124票で選出された。次点がアドマイヤマーズで107票。3位はクリソベリルで、24票だった。

 最優秀3歳牝馬も票が割れた。桜花賞馬グランアレグリアが121票で選出され、無敗のオークス馬ラヴズオンリーユーが99票で次点。

 グランアレグリアはNHKマイルカップの敗戦(4位入線5着降着)で株を下げたが、阪神カップで古馬を5馬身切って捨てた。対するラヴズオンリーユーは、エリザベス女王杯で3着に敗れ、連勝が途切れたのが痛かった。

国内GIを勝っていない馬が選出。

 最優秀4歳以上牡馬も僅差だった。香港クイーンエリザベス2世カップと香港カップの香港GIを2勝したウインブライトが136票で選出され、安田記念とマイルチャンピオンシップの春秋マイルGI制覇を果たしたインディチャンプが118票の次点。

 ウインブライトは国内のGIを勝っていないのだが、「インディチャンプは最優秀短距離馬に当確だから、こちらはウインブライトに譲ってもいいだろう」という考えが投票結果に出たのかもしれない。

 これらとは逆に、思ったほど票が割れなかったのは最優秀障害馬だ。中山大障害を勝ったシングンマイケルが175票を獲得。中山グランドジャンプを圧勝して次点になったオジュウチョウサンの95票に大差をつけて選出された。

朝日杯=2歳王者の法則が崩れた。

 そして、ついにこのときが来たか、という感じがしたのが最優秀2歳牡馬だ。3戦3勝でホープフルステークスを制したコントレイルが197票でタイトル獲得。同じく3戦3勝で朝日杯フューチュリティステークスを勝ったサリオスは77票の次点に終わった。

 2頭とも、2歳GIの前走はGIIIをレコードで圧勝というところまで同じだったのだが、意外なほどの大差で、コントレイルが栄冠を手にした。

 2歳GIが牝牡に分かれた1991年からずっと、朝日杯('04年から牝馬も出走可)を勝った馬が自動的に2歳王者になっていたのだが、そのタイトルが今回初めて、ホープフルステークス優勝馬のもとに渡った。

 これほど得票数に差がついたのは、コントレイルが皐月賞と同じ舞台のホープフルステークスを完勝したことが評価されたのか。それに加え、管理する矢作調教師が、マスコミ関係者に人気があることも作用したのかもしれない。

 矢作調教師は、リスグラシューによる年度代表馬と最優秀4歳以上牝馬、コントレイルによる最優秀2歳牡馬、そして自身の最多賞金獲得調教師と、'19年のJRA賞で四冠を獲得したことになる。最優秀3歳牝馬で次点だったラヴズオンリーユーも管理馬だ。

「具体的な数字を目標にすることはありませんが、つねに前年以上を目指したいと思っています」と話している伯楽の2020年にも注目したい。

文=島田明宏

photograph by Yasuo Ito/AFLO