MLBは、今季から「スリーバッター・ミニマム・ルール」を導入する。

 これは「(故障や急病の場合を除いて)投手は最低でも打者3人と対戦するか、イニング終了まで投げなければならない」というもの。要するにワンポイントリリーフ(MLBでいうシチュエーショナル)という投手の持ち場を廃止するということだ。

 これまでの例からして、NPBも将来的にこのルールを導入することになるだろう。

 野球好きの間からは「ワンポイントリリーフは、強打者に対峙したチームの有効な切り札であり、これを禁止すれば試合の妙味を削ぐ」という批判がでている。

 古い話で恐縮だが、昭和中期、王貞治が手の付けられない打棒をふるっていたころ、大洋の名将・三原脩は左腕の平岡一郎をワンポイントで起用。平岡は「王キラー」と呼ばれた。

 こういう形で、左の強打者に左投手、特に変則投法の投手をぶつけることを「ワンポイントリリーフ」と言う。これはプロ野球の妙手の1つである。そのデータを調べると、新ルールによる時短の影響は軽微だと思われる。

 そもそも日本プロ野球の代表的なワンポイントリリーフとされる平岡一郎や永射保も「打者1人」で降りた試合は実際には多くはなかった。王貞治ら強打者との対戦で急遽マウンドに上がって、その回を締めくくって降板することが多かったのだ。

ワンポイントリリーフはごく少数。

 実は、昭和の時代よりも今の方が投手の持ち場の細分化は進んでいる。今の投手のほうが、細切れの起用になっており、これは日米共通である。

 それでも「ワンポイント」の起用は限定的だ。

 2019年、NPBとMLBで50試合以上登板した投手のうち1登板当たりの対戦打者数が「3」を下回っていたのはNPBで2人、MLBでも3人だけである。

<NPB>
 嘉弥真新也(ソフトバンク)
 2.37人(54登板/128人)
 小川龍也(西武)
 2.85人(55登板/157人)

<MLB>
 オリバー・ペレス(インディアンス)
 2.58人(67登板/173人)
 アダム・コラレック(レイズ/ドジャース)
 2.86人(80登板/229人)
 アンドリュー・チャフィン(ダイヤモンドバックス)
 2.92人(77登板/225人)

 全員が左腕だ。

 2019年の嘉弥真の54登板のうち、1人だけで降板したのは16試合だけ。ペレスの67登板のうち1人だけで降板したのは17試合だけだった。

人気回復策として時短に乗り出す。

 NPB、MLBのゲーム全体で見て、ワンポイントの及ぼす影響は軽微だ。もちろん局面ではルール導入前後で違和感を抱くことはあるだろうが、大きな問題ではない。端的に言えば「投手のワンポイント起用」は、イメージ先行の戦術で、それほど重要なものではなかったのだ。

 では、MLBは今になってなぜ「スリーバッター・ミニマム・ルール」を導入しようとしているのか?

 これは北米で野球人気に陰りが出る中で、MLBサイドが何としても時短を実現したいと考えているからだ。

 MLBと競合するプロスポーツのうち、NBAの試合時間は12分で1クオーター、計4クオーターの48分。NFLは15分で1クオーター、計4クオーターの計60分である。

 両方ともにハーフタイムやインターバルがあり、クロックが止まることもあるからトータルでは2時間を超すが、正味の試合時間だけで優に3時間を超す野球はけた外れに長い。このことが、NBAやNFLのファンからは「ありえない」と言われている。

 すでに野球の国際大会では7回戦制のケースも出ているが、MLBとしてはこれ以上の“野球離れ”を防ぎ、新規顧客を獲得するために試合時間を短縮しようとしているのだ。

敬遠数は2〜3試合に1個くらい。

 しかしここまでのMLBの「時短施策」は、2階から目薬に近い。

 2017年からMLBで、翌年からNPBで導入された申告敬遠もその1つだ(投球数節約の意味もあった)。ただそもそも敬遠(IBB)は、2019年のMLBでは2429試合で753個、NPBでは858試合で300個。いずれも2〜3試合に両チーム合わせて1個しか出現しなかったのだ。

 仮に1つの申告敬遠で60秒を時短できたとしても、昨年1年のトータルでMLBで1試合当たり19秒、NPBでも21秒に過ぎない。これくらいの秒数は、打者が打席を数回外せば吹っ飛んでしまう。

 同様に「スリーバッター・ミニマム・ルール」も、時短の実効性としては極めて限定的である。

時間を気にせず試合をする体質。

 むしろMLBの場合は「時間を気にせず試合をする」体質が染みついていることのほうが問題だろう。

 昨年の東京ドームでの、アスレチックスとマリナーズの開幕シリーズ。イチローの引退試合となった3月21日の第2戦は延長12回、4時間27分の大試合となり、試合終了時には0時を回っていた。

 アスレチックスは先発のエストラーダが降板してから7人の投手を繰り出した。マリナーズも先発の菊池雄星が降板してから6人の投手に投げさせた。

 両チームともに日本での最終戦であり、次の試合は3月28日だったから連れてきた投手をすべて投げさせようという意向もあったのだろう。

 しかしイニングのたびに新しい投手がマウンドに立ち、投手コーチがのんびりとそれを見つめる風景には、さすがにうんざりした。その一方でベンチは、帰りの足を気にする客席をまったく意に介してしていないように見えた。

 これ以外にも国際大会では、時間を気にせずのんびりと試合をする風景にしばしば遭遇する。昨年11月のプレミア12でも、ベネズエラやプエルトリコなどは、必要がないと思える場面でもつぎつぎと新しい投手をマウンドに上げていた。

 こうした選手や指導者の意識を変えないことには、小手先のルール改定をしても、焼け石に水に終わる気がする。

高校野球のスピーディな進行。

 その点、最も手本になるのが日本の高校野球だ。昨今の高校野球はいろいろ改革すべきことがあると思う。それでも「スピーディな試合進行」という点では、世界の先駆者ではないかと感じる。

 何しろ春も夏も、1日で最大4試合をこなすのだ。夏などは4試合が終わっても日没前ということも珍しくない。甲子園を借りている期間は限られているため、日程通りに試合を消化することは至上命令なのだ。

 大会運営者は試合前、各校監督に「2時間で試合を終わらせなさい」と伝えるという。攻守交替は全力疾走、ベンチの指示を伝える伝令も全力疾走だ。球審は投手に「早く投げなさい」と促す。投手と捕手のサイン交換も長くなれば注意する。打者が打席を外すのも度重なれば注意する。

試合を端折っている印象はない。

 主催者は甲子園での応援団の動きも管理している。

 試合の後半になると、次の試合の応援団がアルプススタンドの端っこに陣取り、試合終了とともにあっという間に交代する。移動をスムーズにするために、高校野球に限っては客席の一部を取り払うことまでしている。

 特に夏の大会では酷暑の中、2時間で試合を終わらせることは選手の健康面を考えても重要だろう。

 筆者は毎年、春夏の大会で、4試合の日を選んで丸1日観戦する。それを見ているといつも「やればできるんだ」と思う。それでいて、試合を端折っているような印象は全く受けない。

 つまり日本の高校野球を手本にすれば――こまごまとしたルール改定をしなくても時短は十分に可能だと思う。

「間のスポーツ」であるからこそ。

 NPBでも、攻守交代時には両軍の選手が誰もいない時間ができる。特に終盤以降、選手はゆっくりとグラウンドに出てくる。これは疲労を考えてのことだろうが、だらだらと動くよりもきびきびした方が、疲れは少ないのではないかとも思う。

 打者が打席を外すのも“クセ”になっているだけで、見直すことは可能だろう。当然、投手の20秒ルールは厳格に適用すべきだ。

 投手交代も、ワンサイドゲームで意味の薄い継投などは時短の意識ひとつで減らすことができるのではないか。

 野球は「間のスポーツ」だといわれる。確かに投手と打者の「間」や、打者の動きを見て野手が守備位置を変える「間合い」などは野球の味わいだろうが、レベルが高い試合になればなるほど「間」の時間が増えるのは、そこまで好きではない人から見たら「間が抜けた」ように映る可能性がある。

 日米問わず「試合の時短」は、喫緊の課題だ。だとすれば、おかしなルール変更をこれ以上増やさないためにも、現場の選手、指導者が時短を意識すべきではないか。

 さしあたり1試合平均時間が3時間を切って、2時間45分に近づくように機構、リーグで努力目標を設定してはどうか。

文=広尾晃

photograph by Hideki Sugiyama