試合に出られない葛藤や憤りを表に出さず、日々できることに取り組み、来るべきチャンスに備えて、準備をしていく。

 出場機会が少ない、あるいは、ほとんどない選手はそう言葉にする。そうとしか言いようがない。愚痴ったところで何かが変わるわけではないし、文句を言っても仕方がない。監督に直談判し、自分に課されている課題や役割をはっきりと理解して取り組むことはできる。ただよほどのことがない限り、監督がその言葉を聞き入れて、状況がいきなり好転することなどない。

 他にも選手はいるし、チーム状況、これまでの実績がある。だから多くの監督は「我慢強く頑張ってくれ」という言葉を選手に送る。

 わかっている。だからみんな、ひたむきに自分をアピールし続けることと向き合う。

 とはいえ、努力しても努力しても出場チャンスがないまま日々が過ぎていくなかで、モチベーションを落とすことなく、気持ちを切らすことなく、目的意識を高く持ちながら、練習で全力を出していく――というのは、言葉にする以上に大変なことだ。

 どこかで焦りが、不安が、いら立ちが出てきてしまいがちだ。そうした選手はたくさんいるし、おそらくそれが普通の反応なのだ。

移籍後2カ月半、焦りはなかった。

 シント・トロイデンからシュツットガルトへとレンタル移籍してきた遠藤航。初出場は、2019年11月下旬のカールスルーエ戦だった。移籍から2カ月半、このときを待ち続け、このときのために準備し続けてきた。待てども待てども出場機会は訪れない。そんな時間を、遠藤はどのように過ごしていたのだろうか。

「そんなに焦りはなかったというか。ベンチに入って試合を見たりするなかで、チャンスが来ればやれる自信はありました。大事なのはチャンスが来たときに結果を残すこと。そのために、練習からしっかり100%で、常にいい準備をしておくというところだと思うんで。その普段の準備という意味で、監督もそれを見てくれたと思うし。

 (監督も)最初は自分のプレーというのをよくわかってなかったし。実際に僕に対しても言ってきた。ただ単に時間が必要だったというか、自分もそう思っていたし、“レンタルで来た選手はなかなか使いにくいだろうな”と思いながら、100%やっていただけ。ただ、いい時間にはなったと思います」

いまできることを考え、向き合う。

「待つことができる」のは、ひとつの能力かもしれない。ある程度冷静に自分の置かれた状況を分析し、すべきことを見定めて、熱くなりすぎることなく、だからといって冷めてしまわないほどに、自分をコントロールすることが求められるからだ。

 遠藤は、その時々で「いまできることは何だろう」と考え、現状と常に向き合ってきた。移籍当初の9月初旬、ボーフム戦後にはドイツサッカーとベルギーサッカーの違いについてこう語っていた。

「ドイツの方が結構ゾーンをしっかり引いて、ブロックで守るという感じ。もちろん前からプレッシャーをかけていくところ、切り替えのスピードの速さはベルギーより速いかなと思います。

 より組織的なイメージはあるので、日本に近いというか、やりやすさは感じています。ただ僕もベルギーのサッカーに順応していたところがあるので、しっかり人に行くとか、そのあたりのところは対応していかないといけないと感じています」

 ドイツのサッカー、シュツットガルトのサッカー、監督が求めているサッカー。試合を見ながらひとつひとつをしっかりと理解し、練習のなかでチャレンジし、アピールを繰り返して少しずつ信頼を積み重ねてきた。

デビュー戦が「ひとつの肝」に。

 デビューとなったカールスルーエ戦ではアンカーとしてスタメン出場を飾り、攻守に躍動感を見せて中盤に安定感をもたらした。シュツットガルトの地元紙は「探していたピースが見つかった」と好評価を与えた。その後は'19年最終戦となったハノーファー戦まで5試合連続でフル出場を果たした。

 急に成長したわけではない。そのときがくるまで、どれだけ入念に準備をしていたかがポイントだった。

「あの試合はひとつの肝でしたが、試合に出られない時期、チャンスを掴む準備をずっとやってきたからこそ掴めたと思いますし、継続してきたことがよかったと思います」

 これは、12月9日のニュルンベルク戦後のコメントだ。

5万人のファン、最高っすよね!

 相手に先制点を許しながら、遠藤が2得点に絡む活躍を見せての逆転勝ち。ホームスタジアムに詰めかけた4万8971人のファンとともに勝利を喜び合った。遠藤も嬉しそうに試合を振り返る。

「もう最高っすよね。5万人近くの人がサポートしてくれるし、その雰囲気、得点が入った雰囲気とか、最高なものがある。やっぱり彼らのためにも勝利を届けたいし、とにかく自分のプレーを続けていけばいいと思います」

 ただ、これですべてが順風満帆にいくわけではない。昇格が厳命されるチームは思い通りには勝ち点を積み重ねていくことができず、ホームで勝って、アウェーで負けてを繰り返している。

 2019年最終戦となったハノーファー戦後には、成績不振を理由にワルター監督が解任されてしまった。昇格圏内の3位につけていて、2位ハンブルガーSVとの勝ち点差もない立ち位置ながら、首脳陣は内容に不満を持っていたという。

 新監督は、ホッフェンハイムでアシスタントコーチを務めていたペジェグリーノ・マタラッツォ。監督交代によってスタメン争いは振り出しに戻されたが、今季序盤とは違い、すでにプレーで自分の重要性は示してある。また、同じボランチのアスカシバルがヘルタ・ベルリンに移籍したこともあり、おそらく計算できるアンカーとして起用されるはずだ。

「アンカーで出続けるのであれば」

「ここ最近しっかり試合に絡めていたし、(出場した)最初の3試合は自分なりにいいパフォーマンスを続けられていたと思います。大事なのは続けること、試合に出続けること。そういうプレーを続けていかないといけないという意味では、自分もまだまだなのかなと思います。こうしてアンカーとして試合に出始めているのも初めての経験ではあるので、いろいろ試行錯誤しながらやっていければ」

 ハノーファー戦後には、ここまでをそんなふうに振り返った。

 目指している場所はここではない。もっと先にある。2部リーグで経験を積み、チームと1部に臨む。より上のステージで、よりクオリティの高いプレーをするために、やるべきことはまだまだたくさんある。

「アンカーで出続けるのであれば、もっと守備にフォーカスして、できるだけ多くカウンターの芽を潰すことを意識すべきだと思います。また攻撃の部分、自分のところでターンして前に(パスを)つけられるかどうか。そのあたりの自信というか、勇気を持ったプレーが大事になってくると思うので。今日みたいにミスになることもあると思いますけど、大事なのは続けていくことだと思います」

3年前に1部復帰を決めた時のこと。

 順応するための試運転期間は過ぎた。スタメンの座を確立して、アンカーとして自分の良さを出していくために、そしてシュツットガルトで昇格を果たすために、これまで以上に中心選手としての自覚を持ち、自分がやるべきプレーと向き合っていくことが求められる。

 ふと、シュツットガルトが3年前に1部復帰を決めた直後の風景を思い出した。

 試合終了後のホームグラウンドは、歓喜のあまりスタンドからなだれ込んできたファンで埋め尽くされていた。

 選手の何人かはベンチの上によじ登り、ファンと一緒に喜びのコールを繰り返していた。いつまでも止むことなく、何度も何度もクラブソングが歌われる。圧倒的なほど、人から発せられるエネルギーが煌々と光り輝いていた。

 4カ月後、またそんな景色が見られるのだろうか。ひょっとしたらその中心に遠藤がいるのだろうか。昇格の立役者として遠藤の名前が何度もコールされる、そんな光景をぜひみたい。

文=中野吉之伴

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