「教えるのは苦手なんですけど、きょうは1日、よろしくお願いします」

 各ゴルフトーナメントの試合前に行われるプロアマ戦。大会関係者をもてなす懇親の時間で、川村昌弘はスタート前にたいていそう挨拶をする。

 5歳でゴルフを始めてからというもの、ほぼ独学で作り上げてきたスイングは、本人からすればメカニズムを簡単に他人に説明できるものではないそうだ。

 ティイングエリアでドライバーを構え、まずクラブヘッドを腰のあたりまで上げて軌道を確認。バックスイングに入ると、ぐぐっと力が右足に充填されていくのが分かる。最近では口の悪いプロ仲間からは「地面が右に傾くぞ」なんてイジラれることも。クラブヘッドは独特な形の弧を描いて、体に引き付けられ、鋭いリストターンでボールを飛ばす。

 自分の感覚を言葉にするのは難しい。ひいてはゲストのアマチュアを相手にテキトーなレッスンはできない、というプロゴルファーもまた珍しい。

ゴルフと同じぐらい旅が好き。

 ユニークなのはスイングだけではなくて、近年の彼の生き方は、ほかの多くの日本人ゴルファーとは一線を画すものだ。

 ゴルフと同じくらい旅が好き。プロとして唯一の優勝を日本ツアーで手にした2013年以降、アジアから世界への道を拓き、2018年末に予選会を通過して翌年の欧州ツアーの出場権をつかんだ。

 その'19年は限られた出場機会を活かして27戦でトップ10入りが4回。年間ポイントレース(レース・トゥ・ドバイランキング)56位に入り、2020年のシード資格を獲得した。

 日本とアジアでも数試合に出たが、メインの欧州ツアーで約62万6889ユーロの賞金を稼いだ。日本円にして約7516万円という額は、日本ツアーの賞金ランクに当てはめてみると8位に相当する。「日本人の男子プロ」に限定して'19年シーズンの獲得賞金額をみると、米ツアーの松山英樹を筆頭に、今平周吾、石川遼、堀川未来夢に次ぐ5番目だった。

プライベートも含めると、30カ国。

 とはいえ、それが直接的に“リッチ”かというとそうでもない。

 1年間の移動や宿泊等の経費でいうと、日本ツアーの2倍以上が米ツアーではかかると言われ、アジアやアフリカを含めた年間29の国と地域(2020年)を行脚する欧州ツアーはさらにその倍、というのが最近の相場だそうだ。川村は昨年、プライベート旅行も含めて30の国と地域を回った。移動距離は約25万kmにも上る。経費は「(獲得)賞金のだいたい半分くらいにはなりますかね」という。

 プロゴルファーという仕事は、数ある職業アスリートのなかでも“ギャンブル性”が高いように思う。例えばチームスポーツならば、契約する球団やクラブが移動費や宿泊費を負担してくれるが、ゴルフはそうはいかない。基本的にはお金を稼ぐために、まず身銭を切らなくてはいけない。予選を通過できなければ賞金はゼロ、という生活が延々と続く。

ケニアでは「Uberが使えた」。

 そんなシビアな暮らしぶりにも、悲愴感を漂わせないのが川村でもある。

 昨年、オーストラリアの片田舎のコースでは同国のキャディたちと一緒にレンタルハウスに泊まった。残る記念写真のなかで東洋人は彼だけである。昨年新たにできたアフリカ・ケニアの試合に喜び勇んで出向き、牛や馬も歩いていた車道で「Uber(配車アプリ)が使えた」と驚いたことも。出ることを熱望していた夏場の全英オープンの出場権をつかめず、ガッカリしたのもつかの間、ぽっかり空いたオープンウィークに父・昌之さんとスコットランド、ウェールズのゴルフ場を訪ねてプライベートラウンドを楽しんだ。

 一方、帰りを待つひとの心境。「心配です」というのは母の那緒美さんである。

「最初のうちは成績も良くなればいいなと思っていたんですけど、結果は気にならなくなりました(笑)。試合に出られているだけで。安全に、健康に、どこも痛いところがなければ、それでよしと思うようになりました」

 気ままな旅人暮らしも、それを陰で支える大きな優しさあってこそである。

当初は日本ツアーとの掛け持ち。

 自由奔放、無邪気であるようで、川村がいまの生き方に没頭するまでには、大きな“賭け”があった。

 20代前半は日本と海外のツアーを掛け持ちし、アジアンツアーで好成績を残すことで共催競技が多い欧州ツアーへの進出を狙っていた。だが「それに成功するのは、本当にごく一部の選手だけ。僕は5年くらい掛け持ちをしたけれど、『これでは何にもならない』と思ってQT(予選会)に行きました」と振り返る。

 欧州ツアーで生き抜くため、いずれ優勝するためには、退路を断つ覚悟が必要と感じたのが数年前。

「いつまでも『日本のシード権が……』と言って、『今年もダメだった』というのがズルズル続いていたんです。目指すツアーの予選会を受けて行かないと、僕には(欧州での定着は)ムリだなと思った。掛け持ちを続けていたら、気持ちが一緒に戦う選手に負けてしまう。どちらのツアーのシードも失って、仕事場がなくなる可能性もあったけれど、日本には帰らない、という気持ちが出てきた。そう思い切ったのが良かったと思う」

 実際に彼は、2017年末に失った日本のフルシード権を翌'18年に取り返しながら、すぐに目標を欧州ツアーに切り替えた。156人が参加した最終予選会で上位25位タイまでの狭き門を通過。そして’19年、同じ身分から翌シーズンのシードを手にした5人のうちのひとりになった。

 そうはいっても「目標を達成したシーズンとは言えない。優勝して、ドバイ(最終戦)に行くことを目標にしていたので。それは2020年に持ち越しです」という。

 新シーズンは南アフリカ・ヨハネスブルグで始動した。

「こうしたいから、こうする」

 他人への技術指導が不得意な26歳だが、アマチュアにもひとつ“伝授”できることがあるという。

「念ずれば、叶う」

 一見すると、まったくもって信憑性を欠いた怪しげなフレーズだ。

「例えば『フェードボールを打ちたい』と聞かれても、どう教えればいいものか……」と川村。簡単に言うと、フェードは右打者の場合、ボールが左から右へ曲がっていく弾道のことである。巷のレッスン雑誌や指導法には、「アドレスを飛球線方向より左を向き、開いて構えると、フェードボールが打てる」と説明されていたりする。

 じゃあ、なにか。川村選手はただ「念ずる」だけで、どんなボールを打つときもアドレスも普段と同じように構えるのか? それがプロの世界なのか?

 即刻、「開くに決まってるじゃないですか」と返ってきた。

「違うんですよ。僕が言いたいのはそういうことじゃない。ボールを『こう回転させたい』と本気で考えたら、本当は構えから、打ち方も変わるはずなんです。ボールにフェード回転(上から見て右=時計回りに回転する)をかけたいと考えたら、体は(結果的に)勝手に開いて構えて、打つものだと思うんです」

 構え方を、打ち方を端的に教えても、あるいは教えられても、それは表面上の知識であって、実践するために体に取り入れることとはまた別次元。

 情報に溢れる世の中では、ゴルフに限らず、とかくコツや上達への近道を手軽に吸収できる。ただ、そんな方法論ばかりに目が行き、いつのまにか物事の本質を見過ごしたり、筋を見誤ったりすることも多い。

「こうすれば、こうなる」ではなく「こうなるためには、こうする」「こうしたいから、こうする」

 念ずれば、叶う。思いを、行動に。

 旅人はきょうも信念を持って、世界のどこかでティオフしている。

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文=桂川洋一

photograph by Masahiro Kawamura