<第98回高校サッカー選手権を制した静岡学園。その静岡学園が初めて決勝の舞台に登場したのは、1977年1月の第55回大会。相手は水沼貴史氏を擁する浦和南だった。連覇を狙う浦和南は当時1年生だった水沼氏のアシストにより試合を大きくリードしたが、じわりじわりと追い詰める静岡学園の個人技に苦しみ、終わってみれば「5−4」。打ち合いに勝利こそしたものの、「史上最高の決勝戦」で見せた静学スタイルは、いまもなお、水沼氏の記憶に色濃く残っているという。>

「静岡学園との決勝」といえば……実は私も対戦経験があります。当時は開催地が首都圏に移転して初の高校サッカー選手権とあって世間からも大きな注目が集まっていました。浦和南の立場としては「首都圏の学校が勝たないと高校サッカーが盛り上がらないぞ」とプレッシャーをかけられていたくらいだったんですよ(笑)。

 その時、静学を率いていたのが井田勝通さん(現在は総監督)でした。浦和南はスピーディーかつダイナミックな攻撃を掲げる一方で、当時の静学はドリブルを多用して「ゆっくり攻めろ」という異質なサッカー。他にそんなサッカーをする高校はなかったですよ。

 実際に対戦してみて、同じ高校生でこれだけテクニックがあって、ドリブルできるやつらがいるのかよって衝撃を受けました。今でも鮮明に覚えています。

 そこでの準優勝があって、1995年は両校優勝。今回はそれ以来の日本一で、さらに単独優勝は初。静学にとっても念願の全国制覇だったと思います。

 近年こそなかなか結果が出ない時期が続きましたが「静学といえば個人技」と定着させたのは、ブラジルのエッセンスを日本に取り入れた井田さんの大きな功績だと思いますね。

後半は常に数的優位を作った。

<その井田氏が総監督としてベンチ入りしていた今大会。5万人を超える大観衆が見守った青森山田との決勝戦では、0−2からの逆転劇を演じてみせた。大会中は解説も務めた水沼貴史氏は、前半アディショナルタイムの1点が勝敗の分かれ目だったと振り返る。>

 前半は青森山田のペースでしたね。序盤から守備でハードワークして、個人技に優れる静学の良さをすべて消していました。いい時間帯にPKも決めましたし、2−0のまま前半を折り返せていたら、あの逆転劇はなかったかもしれません。それぐらい静学が前半終了間際に奪った1点は大きかったと思います。

 1点を返したことで、静学のハーフタイムの雰囲気はだいぶ変わったと思いますよ。「行けるぞ」となるのか「2点差か……」となるのかでは、後半への入り方がまったく異なりますからね。

 後半の静学は、青森山田から速いプレッシャーを受けても、常に数的優位を作れるようになりました。押し込む時間帯も長く、同点になる前から、もう追いつくだろうなという予感さえも漂っていた。特に2年生・加納大の同点ゴールは素晴らしかった。あの狭い中でDFを背負ってターンするのはなかなか簡単ではない。静学らしい技術の高さを見せつけました。

独特のリズムを残して勝つチームに。

 敗れた青森山田も今大会の戦いぶりは見事でした。ここまで対峙してきた高校はどれも強者ばかり。優勝候補としてのプレッシャーのなかで、どの試合も強度は高かったはず。セットプレーの流れから3点目を取るチャンスがあっただけに、静学にリズムを与える前に仕留めたかった。気持ちのこもった同士の試合は、一瞬の隙が勝負を分けるものなんです。

 今年の青森山田は、プレミアリーグでもよく試合を観てきましたが、弱点がなく、すべてができるチームでした。攻撃もさることながら、守備の徹底ぶりもすごい。サイドハーフが戻って6バック気味になることも厭わずやる。前に出れば、10番の武田英寿がタメを作り、後ろの選手たちの上がる時間を作る。

 各々のスキルも高いですから、しっかりとパスも繋げるし、ダイナミックに攻めることもできる。さすが雪国で鍛えてるだけあるなと感じていました。

 ただ、一時期、プレミアリーグで逆転される試合展開が続きました。そこから選手権に近づくにつれて立て直した印象でしたが、準決勝の帝京長岡戦では終盤にやや苦戦した。この試合こそ逃げ切れましたが、決勝では課題としていた部分が、最後の最後で少し顔を出てしまったのかなとも感じました。

 一方で今年の静学はそこに「勝てる」要素が加わりました。中でもセットプレーで強さを発揮していましたね。拮抗した決勝でも、松村優太らのマークが厳しくなる中で、後ろの選手が点を取れたことはとても大きかった。

 パスとドリブルで崩すという攻撃がある中で、セットプレーで仕留める力が備わってきた。つまり、静学の独特のリズムを残しつつ、勝つチームになった。

 環境の変化がありながらも、川口修監督がしっかりと伝統を継続し、積み重ねて、今年は勝てるサッカーを植え付けた。そんな印象を受けた優勝でした。

日程など見直すべきだが魅力はある。

<育成において「勝つだけではダメ」という議論はこれまでも継続して行われてきたが、自身も選手権で成長できたと語る水沼氏は、育成年代こそ「勝利」にこだわる意義を力説する。>

 育成において勝利ばかりを求めることは難しいですが、やはり高校サッカーを選択している子たちは「勝つこと」を目指している。代表メンバーを見ても、Jクラブユース出身者が高体連出身者を上回る時代になり、部活のあり方や選手権の意義が議論の対象になることもあります。それでも、「選手権の決勝で勝ちたい」、「選手権のピッチで勝利したい」と思う子はまだまだ多いと思うんですよね。

 すべては選手たちの選択。どっちがいいとか、悪いとかではないんですよね。この舞台を求めている子たちがいるからこそ、あれだけの人が集まる(決勝は史上最多の5万6025人を動員)。人を惹きつける何かの魅力があるわけです。日程など、見直していくことはありますが、一発勝負、真剣勝負を学べる大会を改めて大事にしたいと個人的には思います。

水沼氏が挙げる面白かった高校は?

<近年の選手権では、明確なビジョンを掲げ、個性的なサッカーを展開する高校が目立つようになってきた。最後に今大会を振り返りつつ、印象に残った高校をいくつか挙げてもらった。>

 國學院久我山のサッカーは面白かったですね。マリノスのサッカーを想起させるぐらいGKが高い位置を取ってビルドアップに参加し、数的優位を作っていくスタイル。あそこまでシステマチックにボールを回す攻撃的なサッカーを全国の舞台でやるのは、なかなかすごいなと驚きました。

 昌平や興國も技術が高い選手が揃っていて、とても面白かった。2、3人目の動きがどんどん出てくる。帝京長岡も可変する3バックを敷いていた。見ていてワクワクするサッカーが多かったですね。

 これは各校の若い監督たちがいろいろなサッカーを見て、考え、どんなチームを作って全国を目指していくかというビジョンを持つ高校が増えてきたからこそ。そういうチームが大きな舞台で自信を持ってサッカーを披露する姿を、子どもたちは見ている。

 それこそ、ドリブルが好きな子が静学に行きたいとか、スタイルに惚れて進学する子どもたちも増えてくるでしょう。今回は出場が叶わなかった学校で言えば、関西なら久御山(京都)、東北では聖和学園(宮城)も面白いサッカーをしています。

 本人の特徴を理解し、それを伸ばせる環境の選択を与える。これは子どもたちにとってとても大切です。スタイルだけでなく、環境もそう。家から通える学校にしたい、寮に入りたい、中高一貫でやりたいとか、いろんな選択がありますよね。

 来年以降もどんな学校が出てくるか、そして今回出場した学校はどんなチームに成長するのか、一層楽しみになりました。「選手権」にはJユースの魅力とはまた違った、特別な空気がある。また来年もしっかり味わいたいと思います。

(構成/谷川良介)

文=水沼貴史

photograph by Takuya Sugiyama