未来のことは誰にも分からない。大切なのは「勝つための決断」を、迅速に、勇気をもって下せるかどうかだ。予測不能な未来に恐れおののいていては、勝利につながる一歩は踏み出せない。

 今シーズンから、スペイン・スーペルコパの大会方式が変更になった。これまでは前シーズンのリーガ王者とコパ・デル・レイ王者が、新シーズンの開幕前にホーム&アウェーで対戦(昨シーズンは例外的に中立地のモロッコで一発勝負)。プレシーズンの風物詩となっていたが、今シーズンからリーガとコパそれぞれの上位2チーム、計4チームによるトーナメント戦となり、シーズン真っ只中の1月に中立地のサウジアラビアで開催されることとなった。

大会MVPに輝いたレアルの“フェデ”。

 結論から先に言えば、このトーナメントを制したのは、昨シーズンのリーガ3位、レアル・マドリーだった。

 リーガ王者のバルセロナが、コパ・デル・レイで準優勝となったことで繰り上がり出場となったマドリーは、初戦の準決勝でバレンシア(コパ・デル・レイ王者)を3−1で下すと、決勝ではバルサを逆転で退けて勝ち上がってきたアトレティコ・マドリー(リーガ2位)を延長PK戦の末に下し、通算11回目のタイトルを手にしている。

 つまり、これまでのレギュレーションなら出場資格のない2チームがファイナルを戦い、しかも繰り上げ出場のマドリーがチャンピオンになってしまったわけだ。サウジアラビア開催という点も含め、新たな大会方式には賛否両論があるだろう。

 ただ個人的には、リーガ後半戦に向けて、強豪4チームをまとめてチェックできる機会だけに、ありがたかった。

 前置きが長くなった。

 今回のスーペルコパで大会MVPに輝いたのは、目下売り出し中のウルグアイ代表MF、“フェデ”ことフェデリコ・バルベルデだった。

 リーガ6節のオサスナ戦で初スタメンを飾って以降、マドリーの中盤にすっかり不可欠な存在となったフェデ。4-3-3システムの右インテリオール(インサイドハーフ)を基本ポジションに、その恵まれた体躯を活かしてダイナミズムを注入する21歳の大器は、開幕前のポール・ポグバ(マンチェスター・ユナイテッド)待望論を、完全に過去のものとしている。

流動的な中で果たす重要な役割。

 今大会、カリム・ベンゼマ、ギャレス・ベイル、エデン・アザールといったアタッカーを怪我などで欠くマドリーのジネディーヌ・ジダン監督は、いわゆるクリスマスツリー型の4-3-2-1システムを採用。1トップのルカ・ヨビッチの下にイスコとルカ・モドリッチを配し、その後方にトニ・クロース、カゼミーロ、フェデの3人を並べた。

 ヨビッチを除くMFの5人がめまぐるしくポジションを入れ替えながら、じわじわと敵陣を侵食していくようなサッカーは魅力的に映ったが、そのなかでもフェデは、ときに右ウイングのように振る舞いながら、持ち前の縦への推進力をもたらすとともに、フォアチェックにカバーリングにと、守備での貢献も非常に高かった。

 もっとも、高い確率で枠を捉えるミドルシュートやワンフェイントで相手を置き去りにする足もとの高等技術も含め、今大会のフェデは言ってみれば「通常運転」。アトレティコとの決勝でより際立っていたのは、ビッグセーブを連発し、PK戦でも相手の2人目、トマス・パーティーのキックをストップした守護神ティボウ・クルトワだっただろう。

失点を阻止する一発退場の決断。

 それでもフェデがMVPに選ばれたのは、勝利を引き寄せる「特別な決断」があったからだ。

 延長後半まで0−0でもつれ込んだ115分、アトレティコのアルバロ・モラタが、カウンターからGKクルトワと1対1のシーンを迎える。この時、モラタを追走していたフェデは、ペナルティーエリアの手前でわずかな迷いもなく、背後からその左足を刈り取った。みずからのレッドカードと引き換えに、決定機を阻止したのだ。

 未来のことは誰にも分からない。アトレティコがこのファウルで得たFKから決勝点を奪っていたら、ひとり少なくなったマドリーが残り数分の延長戦を持ちこたえられなかったら、あるいはフェデが戦犯になっていたかもしれない。

 けれど、マドリーは勝った。フェデの決断が、勝利をもたらした。結果論だとは思わない。勝利の確率を瞬時に計算した上でのタックルが、未来を切り開いたのだ。

 フェデ本人はこう振り返っている。

「本来はやるべきではないプレーだし、アルバロ(モラタ)にも謝りたいけれど、あれが、あの場面で自分に残された唯一の選択肢だった」

 まだ21歳である。これからどこまで成長するのか末恐ろしいが、翻ってフェデと同じ日本の東京五輪世代の中で、同じ状況を迎えて、とっさに同じ決断を下せる選手がどれだけいるだろうかと考えさせられもした。勝利に非情になるとは、こういうことを言うのだ。

バルベルデ監督解任という決断。

「勝利のための決断」と言えば、バルサの監督人事もそうだろう。

 マドリーがスーペルコパを制した翌日の現地時間1月13日、バルサのエルネスト・バルベルデ監督が解任された。

 就任初年度の2017-18シーズンにリーガとコパ・デル・レイの2冠を達成。昨シーズンはリーガ連覇に導き、さらに3年目の今シーズンも19節を終えてマドリーと同勝点ながら首位と、この成績だけを見れば、解任される理由はない。

 しかし、今シーズンのパフォーマンスは安定せず、ここまですでに3敗(マドリーは1敗、3位のアトレティコは2敗)を喫している。また総得点49はリーグトップながら、総失点23は6位タイ。リオネル・メッシやルイス・スアレスの個の力に依存し、なによりもボールプレーを大切にするバルサらしさが年々希薄になりつつあるチームに、フロントやサポーターは危機感を抱いていた。

 直接的な引き金は、アトレティコに2−1から脆くも逆転負けを喫したスーペルコパ準決勝だが、最下位エスパニョールとの年明け初戦(19節)の采配も疑問視されていた。

 2−1とリードして迎えた75分にフレンキー・デヨングが退場処分となると、指揮官はアントワン・グリーズマンを下げて、DFのネウソン・セメドを投入。体力的にきつそうに映ったスアレスではなく、なぜ守備での貢献が期待できるグリーズマンを引っ込めたのか。勝利よりも功労者への配慮を優先した采配は、結果的に終了間際の失点を招き、バルサは貴重な勝点2をみすみす失っている。

勝負師ジダンと比べると勝負弱い。

 いや、それ以前からバルベルデへの不信感は燻り続けていただろう。なにしろ、就任から2シーズン連続で、チャンピオンズリーグ(CL)の舞台で醜態をさらしていたのだから。2017-18シーズンは準々決勝でローマに、昨シーズンは準決勝でリバプールに、バルベルデのバルサはいずれも歴史的な逆転負けを喫している。

 バルベルデでは、ヨーロッパの頂点に立てない──。

 そんな想いは、宿敵マドリーを率いるジダンの成功をなぞれば、なおさら増幅していったに違いない。

 CL3連覇の大偉業に、クラブワールドカップ、UEFAスーパーカップ、そしてスーペルコパを2度ずつ。マドリーの監督として戦った9度のファイナルにすべて勝利してきた勝負師ジダンと比較して、自軍の将のここ一番での勝負弱さを嘆きたくもなっただろう。

セティエンはイズムを取り戻せるか。

 今回のスーペルコパで、中盤にMF5枚を並べた采配にも見られるように、緻密な戦術・戦略こそ持ち合わせないものの、ジダンには個を輝かせる卓越したマネジメント能力と、思い切った策を大舞台でも平然と実行に移せる胆力がある。慎重居士のバルベルデとの、そこが決定的な違いだ。

 これもすべては、「勝利のための決断」である。後任に迎えたのは、ヨハン・クライフの信奉者として知られるキケ・セティエン。記憶に新しいのは、ベティスを率いていた2018-19シーズン、敵地カンプ・ノウでのバルサ戦だ。最終ラインから丁寧にボールをつなぐ、バルサのお株を奪うような能動的なサッカーで、ベティスは激しい打ち合いを制して4-3の勝利を収めている。

 望んでいたシャビ(カタールのアル・サード監督)にオファーを断られたとはいえ、方向性を同じくするキケの就任でまず目指すのは、失われたバルサイズムの回復であろう。

 もちろん、未来のことは誰にも分からない。得点源であるスアレスの負傷離脱で、先行きに暗雲が垂れ込めているのも事実だ。それでも、現状に甘んじることなく、さらに大きな勝利を掴むために下したバルサ首脳陣の決断を、個人的には評価している。

 そして、再びここで、日本サッカーに思いを馳せるのだ。

 AFC U-23選手権で、屈辱のグループリーグ敗退を喫したU-23日本代表。勝利のために、東京五輪で金メダルを掴むために「決断の時」は今かもしれない。2人のバルベルデにまつわる2つの勇気ある決断を見て、なおさら強く、そう思うのだ。

文=吉田治良

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