海の向こうからのオブジェクションだった。

「タフィ・ローズが彼に相応しい敬意を得られていないことを知るのは残念なことだ」――ツイッターでこう呟いたのは、米国のスポーツ専門サイト「ジ・アスレチックス」のトレント・ローズクランズ記者だった。

 ローズさんは1996年に近鉄に入団。2001年には王貞治さん(現ソフトバンク球団会長)の持つ当時のシーズン最多本塁打記録に並ぶ55本塁打を放った。

 '04年に巨人に移籍すると1年目に45ホーマーで両リーグでの本塁打王を獲得。2年で巨人を退団したが、その後もオリックスでプレーし、NPB通算13年で打率2割8分6厘、464本塁打、1269打点をマーク。

 通算本塁打数は来日した外国人選手では1位で、歴代でも13位。打点も外国人選手で2位、歴代21位とトップクラスの実績を残した選手だった。

米テレビ局サイトも特集を組む。

 そのローズさんが「相応しい敬意を得られていない」とローズクランズ記者が異議を申し立てたのは、1月14日に発表された2020年の野球殿堂入りの発表を受けてだった。

 今年、新たに殿堂入りを果たしたのは競技者表彰のエキスパート部門で阪神、西武で歴代11位の474本塁打を放った田淵幸一さん、特別表彰で元慶大監督の故前田祐吉さんと元早大監督の故石井連蔵さんの3人。その中にローズさんの名前がないことに異議申し立てをしたわけである。

 米国でローズさんが殿堂入りできなかったことに疑問を投げかけたのは、同記者だけではなかった。

「タフィ・ローズと日本の殿堂」という特集を昨年組んだのは米テレビ局「NBCスポーツ」のウェブサイトだった。

15年以上の経験のある記者投票で決まる。

 特集ではローズさんが王さんの記録に並ぶ55本塁打を放ったときには、シーズン終盤に打席で勝負をしてもらえなかったことなども説明。

「ローズの通算成績は日本の殿堂入りの有力な候補。しかし4年間の投票では選出にほど遠い票数しか得られなかった。ローズにはサポートがない」と指摘している。

 野球殿堂の競技者表彰プレーヤーズ部門は15年以上の経験のある記者投票で行われ、総投票数の75%以上を獲得することが条件だ。

 ローズさんが初めて候補入りしたのは'15年で、その時の得票数は85票。その後は96票(得票率28.5%)、122票(36.6%)、84票(22.8%)、110票(29.6%)と推移し、今年は102票で有効投票数(354票)の75%(266票)には遠く及ばず落選となった。

三冠王の2人も殿堂入りしていない。

 この事実に海の向こうからオブジェクションが届いた訳だが、その背景には日本の野球殿堂が外国人選手に高い壁を築いているように見えることがあるだろう。

 過去に殿堂入りした外国人選手は元巨人のビクトル・スタルヒンさんと元中日の与那嶺要さんの2人だけ。NBCスポーツの特集でも、「外国人というステイタスに問題があるのでは」と多くの人が考えていると指摘している。

 実は筆者もこのコラムで過去に何度か、その点を指摘した記事を書いている。

 例えば共に三冠王を獲得している元阪神のランディ・バースさんと元阪急のブーマー・ウエルズさんが、いまだに殿堂入りしていないことへの違和感である。

 '83年から阪神でプレーしたバースさんは'85、'86年と2年連続で三冠王を獲得するなど実働6年で通算打率3割3分7厘、202本塁打、486打点を記録。

 '86年に記録した打率3割8分9厘は、いまだに破られることのないシーズン最高打率の日本記録でもある。

“排除の論理”を振りかざす声も。

 ただ、このバースさんもプレーヤー部門では殿堂入りを果たせず、エキスパート部門で候補入りしている今年も必要投票数の102票には13票足りない89票だった。

 バースさんについては実働年数が6年しかないことを理由に“排除の論理”を振りかざす声も聞く。

 ただ、それなら実働はほぼ8シーズンで脳腫瘍で亡くなった“炎のストッパー”津田恒実さんはどうなるのか。

 津田さんは記録的にはバースさんほどの突出するものはない。ただ、あのストロングスタイルのピッチングでファンに残した鮮烈な記憶は殿堂入りに値するものだった。それが評価されて'12年には殿堂入りを果たしているのである。

レロン・リーやクロマティ、ブライアントも。

 またブーマーさんは阪急、オリックス、ダイエーで10年間プレーして、'84年の三冠王をはじめ首位打者2回、打点王4回、最多安打4回とタイトルを獲得。4000打席以上の右打者では歴代1位、左も含めて同5位となる生涯打率3割1分7厘を残している。

 それこそ実働年数も文句なし、残した数字も文句ない。それなのにプレーヤーズ部門では12年に資格を失い、その後はエキスパート部門で候補にも入っていないのが実情だ。

 実はローズさんやこの2人だけではなく生涯打率歴代2位の3割2分を誇る元ロッテのレロン・リーさんや巨人史上最強助っ人と言われたウォーレン・クロマティさん、東京ドームの天井スピーカーに当てる認定本塁打1号など特大本塁打を連発した近鉄の怪人ラルフ・ブライアントさんなどなど、記録や記憶に残る外国人選手がほとんど誰も殿堂入りを果たしていない。

 ローズさんは巨人時代にコーチとつかみ合いの喧嘩をするなど素行面で何度も問題を起こし、バースさんも長男の病気をめぐる退団の過程で阪神球団や取材陣とかなりの軋轢を生んだという背景はある。

 ただ、法を犯したわけでもなく、それが殿堂入りできない大きな理由になるのか。それ以上に大きな実績と足跡を日本球界に残しているはずなのになぜ壁に阻まれているのか。

 外国人であることが“排除”の理由になっているのではないか、という米メディアの指摘を否定はできないのである。

野球殿堂そのものの価値を問われる。

 今年は競技者表彰がプレーヤー部門とエキスパート部門に分かれて以降初めて、プレーヤー部門で必要得票率に届いた候補者がなく、選出者なしとなった。

 その中で最多得票だったヤクルト・高津臣吾監督の259票(73.2%)に次ぐ2位にはDeNAのアレックス・ラミレス監督が入っている。ヤクルト、巨人、DeNAで活躍し、DeNAの監督として'17年にはチーム初となる日本シリーズ進出も果たした。

 そうした選手、指導者としての実績ももちろん、日本国籍も取得し、あの親しみやすいキャラクターで日本人に受け入れられたことで近い将来には“外国人”としては3人目の殿堂入りの可能性はかなり高いと思われる。

 ただその一方でまだまだ外国人選手に対する偏見が蔓延る時代に、ある意味、周囲に牙を剥きながら必死にプレーした選手たちが置き去りにされている。このまま彼らが殿堂入りできないというのであれば、それは野球殿堂そのものの価値を問われることになるはずである。

投票規定の改定に向けた動きも。

 関係者の間では投票規定の改定で、そうして問題に対応しようという動きもあるという。現在はプレーヤー部門が候補30人で7人までの連記、エキスパート部門が候補10人で3人以内の連記という規定だ。

 その候補者枠と投票枠を広げて、選ばれるべき実績を残しながら、いまだに選ばれていない人々の“救済”を行ってはどうかという意見も出ているという。

 また例えば球団なり、エキスパート部門の選出委員(殿堂入りした競技者と競技者表彰委員会の幹事、30年以上の経験を持つ記者)が推薦し、コミッショナーが認めた人物については、無投票で殿堂入りができる新しい規定を作るという方法もあるのではないだろうか。

 もちろん前提にあるのは投票する記者と委員たちの公平性と見識であるのは言うまでもない。

 外国人であることが妨げにならない、そんなオブジェクションを受けることのない投票が、野球殿堂の本当の価値を支えるはずである。

文=鷲田康

photograph by KYODO