鈴木誠也が次元の違う打撃を見せる広島春季キャンプで、もう1人、ほかの選手との違いを見せる打者がいる。トップの位置から最短距離でバットを出し、右に左に痛烈なライナーをはじき返す西川龍馬。チーム内で体は決して大きくはなく、圧倒的な存在感があるわけでもない。

 ただ、ひとたびバットを握れば、周囲の視線を集める。

 春季キャンプ5日目、今年初めて投手と対戦したシート打撃で快音を響かせた。遠藤淳志の初球を右翼線に痛烈にはじき返すと、その後も快音連発。いきなり異なる4投手から4打数3安打を記録した。本人は「たまたまじゃないですか」と涼しい顔も、毎年安打数を増やす安打製造機の実力を見せつけた。

 朝山東洋打撃コーチは春季キャンプ前の段階でこう評価していた。

「普通にやれば数字を出すだろう。チーム力を考えると、西川が三塁に入ってくれると厚くなる。ただ、個人的には打撃のことを考えると外野の方がいいのかと思う」

 打力は今や鈴木誠に次ぐ存在といっていい。

バット1本で生きていく覚悟。

 ただ、広島の外野には、鈴木誠也、高い潜在能力を秘める野間峻祥、実績十分の長野久義、一塁と併用できる松山竜平、昨年のドラフトで獲得した即戦力の法大・宇草孔基ら候補選手は多い。来日後は三塁でノックを受ける新外国人のホセ・ピレラも米国では外野を主戦場にしていた。

 そのため、佐々岡真司新監督は昨秋、まだ内野手登録のままだった西川に三塁再挑戦を課した。本人は戸惑ったものの、冷静に考えると有効な一手と思えた。

 だが、佐々岡監督は、西川の打力を最大限に発揮する選択をした。

 春季キャンプが始まる前の1月下旬、広島市内のイベントで佐々岡監督が西川の起用について「外野」と初めて明言した。

 伝え聞いた西川も「そのつもりでやってきた」と表情を引き締めた。1月の日本ハム近藤健介らとの合同自主トレにも内野グラブは持参しなかった。これまで同様、バット1本で生きていく覚悟を新たにした。

リーグ6位の打率に、本塁打も増加。

 入団時から打力の高さには定評があり、1年目から左の代打として重宝された。

 2年目はプロ初本塁打を含む5本塁打と進化を見せた。

 3年目の2018年シーズン終盤に悪送球や失策が目立つようになり、つかみかけていた三塁のレギュラーからも遠のいた。

 誰もが認める打力を生かすため、同年秋から外野に挑戦。昨年は外野の定位置を奪って自己最多138試合に出場し、規定打席に到達してリーグ6位の打率2割9分7厘を残した。前年と同数の3三塁打を含めれば長打もすべて自己最多。1年目0本だった本塁打は16本まで伸びた。

チーム内の序列も変わった。

 プロでの足跡からも、打撃に年々パワーが備わっていることがわかる。今オフも昨季終了時の体重72キロから77キロに増量。初めてピラティスを取り入れるなど体幹から強化した。極端な増量でバランスを崩すリスクは回避しながら、長打力を磨いている。今キャンプで意識するのも力強さだ。

「(意識しているのは)タイミングと強さ。スイングの強さ。追い込まれるまでは、あまりもったいないスイングはしたくない」

 7日の第2クール初日のシート打撃でも2打数1安打。凡打も進塁打にするなど、まだ初期段階とはいえ結果とともに内容ある打席を続けている。

 変化は打席内だけではない。今キャンプでは新人宇草に身ぶり手ぶりで場所によって異なるティー打撃のやり方を教え、シート打撃の合間には助言を求めた中村奨成に素振りで手本を見せてみせた。

 立場が人を変える。チームメートで同学年の鈴木誠が好例だが、西川もチーム内での立場を着実に上げていかなければいけない。

期待される「3番西川」。

 朝山打撃コーチは鈴木誠の4番起用をすでに明言している。西川も打撃では計算できる選手の1人と期待されるだけに、打順のどこに入るかで得点力も変わってくる。

 昨年は打線全体が低調だったことで、1番打者を任せられた。鈴木誠が返す展開を描くため、チャンスメークを西川に託した。だが、今年は1番に田中広輔や野間らが収まれば、「3番西川、4番鈴木誠」も現実味を帯びてくる。

 だが、本人は「3番はまだ早い。やっぱり丸(佳浩)さんのイメージが強い。ほかの打順でいい」と苦笑いする。昨季3番での打率が1割9分4厘と打順別ワーストだったのも、そんな気負いがあったからかもしれない。ただ、すでにベンチに置いておけない存在となり、中心選手とならなければいけない立場。乗り越えなければいけない壁のひとつだろう。

 西川なら乗り越えられる。昨季の結果も通過点に過ぎない。

「(昨季の成績は)全部に関して中途半端だったので、見栄えのいい数字を。(打率は)3割以上、首位打者を狙えるくらいの数字を残さないといけない。本塁打は20本。打点も70以上。盗塁は10個くらいできたら。得点圏で高い数字を残せたら、あとは四球の数と安打数。全部か」

 バットマンとして、描く理想像はまだ先にある。

 内野手登録のまま「外野手・西川」で勝負する背番号63が放つ存在感は増すばかり。今年はバットで結果を残すだけでなく、中心選手としてチームを引っ張る存在とならなければいけない。

文=前原淳

photograph by Nanae Suzuki