Jリーグのなかで地味な存在に振り分けられがちなクラブが、確かな個性を持ち始めている。2020年シーズンをJ2リーグで戦う大宮アルディージャだ。

 かつて“落ちないクラブ”としてJ1に長く踏み止まった大宮は、'16年にJ1でクラブ最高の5位に食い込んだ。ところが、'17年には2度目のJ2降格に遭ってしまう。

 近年のJ2は混戦の度合いを増している。J1から降格したクラブは1年での復帰を誓うものの、そのとおりに返り咲きを果たせるケースは少数派となっている。

 大宮も例外ではない。'18年は5位で、'19年は3位でJ1参入プレーオフに挑んだが、いずれも1回戦で敗れている。

 今シーズンの昇格レースも、厳しいものになるだろう。

 22チームのほぼ半数にあたる9チームが、新たな指揮官のもとで新シーズンを迎える。

 J1で実績を残してきた尹晶煥監督が、過去2シーズンは中位以下に沈んだジェフ千葉の再建をはかる。水戸ホーリーホックをプレーオフが狙えるレベルまで押し上げた長谷部茂利監督が、昨シーズンは16位に沈んだアビスパ福岡を率いる。

 元日本代表コーチの手倉森誠監督が就任2年目となるV・ファーレン長崎も、12位に終わった昨シーズンの悔しさを昇格へのエネルギーにしている。

 さらに言えば、J2は選手の移動が激しい。得点ランキングの上位選手が、J1のクラブへ引き抜かれたり、J2の他クラブへ移籍したりしている。攻撃や守備の中心選手を失ったチームも多い。監督だけでなく主力も入れ替わったチームが多いだけに、リーグ全体の力関係をつかみにくいのだ。

高木監督が担保する継続性。

 大宮はどうか。

 就任2年目となる高木琢也監督のもとで、まずは継続性を担保した。そのうえで、昨シーズンはリーグ4位の「15」を数えた引分けを、いかに勝利へ変えていくのかを昇格へのテーマとする。

 '20年シーズンをJ1で迎える柏レイソルや横浜FCとの違いが、もっと言えば4位以下のチームをはっきりと引き離せなかった理由が、ドローゲームの多さにあったからだ。

 高木監督が指揮する以前から伝統とする守備力は、昨シーズンも数字に表れている。リーグ3位タイの40失点は、1試合平均で1点以下の堅さだ。

チームの前後に外国人選手を獲得。

 得点力アップをはかり、守備力をさらに高める具体策として、外国人選手を入れ替えた。高木監督が長崎から連れてきたFWフアンマ・デルガドと攻撃的MFダビッド・バブンスキーとの契約を更新せず、3人の外国人選手を新たに獲得した。

 GKフィリップ・クリャイッチ、DFヴィターリス・マクシメンコ、FWネルミン・ハスキッチである。

 クリャイッチはクラブ初の外国人GKだ。外国人枠のひとつをGKに充てるのは、いまやJ2でも主流となりつつある。

 レフティーのマクシメンコは、CBとサイドバックでプレーできる。高木監督はこれまでの3バックをベースに4バックの併用も明言しており、左サイドを中心に複数ポジションをこなせる29歳の加入は、戦術の幅を広げていきそうだ。

 ハスキッチは'18-'19シーズンのセルビアリーグ得点王である。自身がストロングポイントと話す空中戦に加え、高木監督は「スピードもあるし、スペースへのランニングのようなオフザボールの動きもしっかりできる」と評価している。

 クリャイッチはセルビアの、マクシメンコはラトビアの、ハスキッチはボスニア・ヘルツェゴビナの代表経験を持つ。マクシメンコは現役の代表選手だ。

 東ヨーロッパ系の選手で外国人枠を固めることになったのは、'14年夏から3年間在籍したドラガン・ムルジャとのコネクションを生かしたものである。現役引退後に代理人となったOBが、実力派の3人を古巣に送り込んできた。

29人中12人がアカデミー出身。

 だからといって、即戦力の外国人選手にクラブの命運を預けるわけではない。今シーズンの大宮の編成でむしろ目を引くのは、アカデミー出身選手の増加である。29人のうち12人が、育成年代にオレンジのユニフォームを着た選手たちなのだ。

 12人という数字が、Jリーグ全体で飛び抜けているわけではない。アカデミーの人材育成に優れる東京ヴェルディやガンバ大阪などに比べれば、まだ少しボリュームは劣る。

 それでも、1999年のJ2リーグ発足から国内のトップカテゴリーに参入したクラブのなかでは、なかなかの数字と言っていいはずだ。他クラブへ期限付き移籍中の4選手も、アカデミー出身である。

10番を託された黒川淳史の存在感。

 湘南ベルマーレから完全移籍した菊地俊介は、ジュニアユースの出身である。同じく湘南から昨シーズン加入した石川俊輝とともに、中学3年間をアルディージャのアカデミーで過ごした。

 2シーズンを過ごした水戸からのレンタルバックとなる黒川淳史は、アカデミー出身選手初の背番号10を背負う。

 チームのシンボルとなる番号はクラブによって様々だが、「10」は誰にでも託せる番号ではない。J1を含めて空き番号としているクラブが意外なほど多いのも、エースナンバーと呼ばれるものの責任と重み、さらには期待の大きさの表れと言っていい。

 背番号10を着ける日本人選手は他クラブにも見つけることができる。それでも、アカデミー出身で地元出身となると、その数は一気に減る。水戸でスケールアップを果たした22歳に10番を託したことは、大宮のチームカラーにあげていいだろう。

21歳以下の選手を起用する追い風も。

 昨シーズンからゲームに絡んでいるアカデミー出身選手もいる。黒川に先んじて水戸で出場機会をつかみ、昨シーズンから復帰した小島幹敏は、2月9日のプレシーズンマッチでダブルボランチの一角を担った。

 プロ3年目となる奥抜侃志は生粋のドリブラーで、背番号が昨シーズンまでの33から11に変更された。昨シーズンは25試合出場5得点の記録を残した彼も、クラブとファン・サポーターの大きな期待を背負うひとりである。

 J2リーグには今シーズンから、『U-21選手出場奨励ルール』が導入されている。シーズン中の21歳以下の日本人選手の総出場時間が3780分──試合数に換算すれば42試合分──以上で、300万円の奨励金を受け取ることができる。

 大宮では奥抜と2年目の吉永昇偉、それに昇格1年目のFW高田颯也がこのルールの対象選手だ。チーム屈指のマルチプレーヤーとも言える吉永は、ルーキーイヤーの昨シーズンから13試合に出場している。高田がポジション争いに食い込んでくれば、3人合計で42試合分以上の出場も近づいてくる。

親会社よりも、地域とのつながりを。

 期待は、ある。U-18日本代表に選ばれたこともある高田は、プレシーズンのキャンプからアピールを重ねている。ナシオナル(ウルグアイ)と対戦した2月9日の一戦でも、後半途中からの出場でインパクトを残した。

 180センチ、65キロのスラリとした体格は線の細さを残すものの、守備ブロックをしなやかにすり抜けていくドリブルは魅力的だ。ストライカーらしい雰囲気を持っている。

 高木監督は「アカデミー出身だから使うということはない」と話しているが、キャリアの浅い選手でも思い切って起用していく。さらに言えば、J2はJ1より試合数が多い。総力戦の色合いは濃くなる。若手選手がチャンスをつかむ可能性はある。

 アカデミー出身の選手を増やしながら戦力を整えてきた近年のチーム作りは、大宮というクラブが新たなフェーズへ突入していることを感じさせるものだ。

 編成についてもうひとつ加えておくと、埼玉県出身が全体のほぼ半数を占めている。親会社のイメージが先行しがちだったクラブは、地域とのつながりを深めながら独自性を打ち出し、J1への返り咲きを期す。

文=戸塚啓

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