2月9日、ワシントンDCのキャピタルワン・アリーナ――。2人の日本人アスリートを中心にメディアの人垣が動き、ファンもカメラのシャッターを切った。MLBではよく目にする光景だが、NBAではまだ新鮮。ウィザーズの八村塁、グリズリーズの渡邊雄太がゲーム前にコート上で談笑する姿を、NBAの公式カメラマンも興味深げに追いかけた。そのシーンは、世界最高のバスケットボールリーグにおいて日本人選手たちが新たな扉をこじ開けたことを示しているに違いない。

 複数の日本人選手が同時にNBAのコートに立つのは今季が初めてで、そういった意味で彼らはパイオニアである。

「僕たちがやっていることがあとの世代に続けばいい。僕とか、塁とか、今は(馬場)雄大も(下部リーグの)Gリーグで頑張ってますけど、もっと日本バスケに貢献できたらとは思っています」

 そんな渡邊の言葉が示す通り、彼らは日本バスケットボールの歴史を動かしているといっても大袈裟ではないのだろう。

故障離脱から復帰後、順調な八村。

 このムーブメントの中心人物といえる八村は、鼠蹊部の負傷からカムバック後もまずは順調なプレーを続けている。3日、ウォリアーズとの復帰戦で11得点、8リバウンドを挙げると、その日から4戦連続二桁得点。グリズリーズ戦でも12得点、11リバウンドのダブルダブルをマークし、アリーナに数多く集まった日本人ファンを喜ばせた。

「こんなにバスケから離れて戻ってきたことはないんですけど、家にいてもバスケの試合を(テレビで)ずっと1日中流していました。“どういうところでもっと活躍できるか”というのを見ながらやっていたので、(復帰後は)それが良い形でできているんじゃないかなと思います」

 1カ月半近くにも及んだ故障離脱から戻ってきて、いきなり大活躍している理由を八村はそう説明していた。実際にイメージトレーニングの成果か、復帰後は特にプレーの精度の高さが目立っている。4試合でFG成功率は53.3%と高く、離脱前の数字と比べてもハイレベル。シューターたちが作ったスペースをいかし、ミッドレンジからゴール周辺で得点を稼ぐパターンを確立した感がある。

「ディフェンスでもオフェンスでもリバウンドでも活躍できる選手になりたい。試合に負けてしまったんですけど、そういう結果を出せたのは良かったと思います」

渡邊の“妨害”にも何のその。

 渡邊との対戦で注目されたグリズリーズ戦では99−106で逆転負けを喫したが、自身の仕事は果たせていると言う自負は感じられた。また、この日は第1クォーター途中にグリズリーズのベンチ前で3ポイントシュートを決め、その際は渡邊からの“妨害”もものともしなかったのだとか。

「(八村が)コーナー(から)3Pを決めたとき、ベンチの目の前でドフリーになったので、後ろから思い切り叫んだんです。そしたらこっちを振り向いて、にやにやしながら向こうに帰っていったんで、このやろうと思って(笑)」

 そんな渡邊のユーモラスな証言を聞けば、八村は復帰直後にもかかわらず、実にのびのびと楽しんでプレーしていることが伝わってくる。この様子なら、日本が産んだ最高傑作の視界は良好なのだろう。まだディフェンスとロングジャンパーの安定感に改善の余地があるが、ルーキーに課題があるのは当然のこと。心配された故障後の停滞はなさそうなだけに、これからも成長していけるはずだ。

 今週末、八村には、日本人としてはもちろん史上初の出場となるオールスターのライジングスター・チャレンジ(ルーキーと2年目の選手たちの選抜戦)の舞台が待ち受けている。ここでも存在感を誇示し、歴史にまた新たな1ページを刻み込んでくれるはずだ。

「今はとにかくアピールしないと」

 一方、グリズリーズとの2ウェイ契約も2年目を迎えた渡邊の2019〜20シーズンは必ずしも順風満帆とはいえない。9日のウィザーズ戦を終えた時点で、NBAでの出場機会は今季9戦のみ。平均スタッツも5.4分のプレー時間で1.8得点、0.9リバウンドと、まだ最高レベルの舞台で実力を示すには至っていない。

 Gリーグのメンフィス・ハッスルでは1月22日のゲームで40得点を挙げるなど、20試合で平均17.3得点、5.3リバウンドの好成績。ハッスルでの溌剌としたプレーぶりを見ると、プロの水にも慣れた余裕と落ち着きが確実に感じられる。ただ、Gリーグで活躍しても、大物ルーキーのジャ・モラントを中心とする今季のグリズリーズはプレーオフ争いに参入していることもあって、NBAで実績がない渡邊が試される場面がなかなかないのが現状。渡邊本人は否定しているが、他チームでの昇格が叶わない2ウェイ契約のシステムが障壁の1つになっている感もある。

「もう時間も限られていますし、今はとにかくアピールしないといけません。余裕がある立場ではないので、前のシクサーズ戦のように積極的に攻めていく中で正しいプレーをしっかり選択し、アピールができたらなと思います」

 ウィザーズ戦時のそんな言葉が示す通り、聡明な渡邊はもちろん自分の置かれた立場、やらなければいけないことは理解している。

課題はオフェンスの武器の確立。

 幸いなのは、チーム内のトレードのおかげでここにきて出場機会が増えていることだ。人員不足だった7日の76ers戦では、今季最多の9得点。ウィザーズ戦でも八村との直接マッチアップこそ叶わなかったものの、出場した約10分では相手の得点源を追い回し、ディフェンス面で存在感を見せつけた。

 ウィザーズ戦のプラスマイナス(出場時のチームの得失点差)が+7だったことは偶然には思えず、25歳のサウスポーはNBAでも貢献の術を確実に見つけてきている。残る課題はオフェンスの武器確立。フリーでボールが回ってきた際に、ロングジャンパーを高確率で決められるようになれば……。

 来季以降の契約もかかった残り2カ月間は、渡邊にとって極めて大切な期間であり、その重要度は日本バスケットボールにとっても同じかもしれない。後に続く世代に希望を与えるために、日本人としては稀有な身体能力を誇る八村だけでなく、2番手的な立場の渡邊の活躍は大きな意味を持つからだ。

「日本人としてNBAのコートに2人立てるってことはすごいことだと思うので、誇りに思いたいなと思います」

 今季最後の日本人選手揃い踏みの舞台を終え、八村も晴れやかな表情でそう述べた。

 この新たなムーブメントの継続は、八村、そして渡邊の頑張り次第。日本人対決の実現を一過性のものに終わらせず、通過点であり、長い道のりのスタート地点にすることができるかどうか。ワシントンDCで顔を合わせた2人は、非常に大きなものを背負って今後もプレーし続けるのだろう。

文=杉浦大介

photograph by Getty Images