地面すれすれの右手から繰り出されるボールが、勢いよく捕手のミットに収まる。

 遠目で見れば、移籍したはずの牧田和久(東北楽天)がライオンズに復活したのかと目を疑うようなフォーム。マウンド上での仕草や、フィニッシュの姿勢まで何もかもそっくりだ。

 背番号44のユニホームをまとった與座海人(よざ・かいと)は今、開幕一軍入りをかけて春季キャンプに臨んでいる。

「このフォームにしたのは大学1年の終わりごろですね。高校まではサイドスローで、大学に入ったあと、いろいろ試していたんですけど、アンダーのほうがコントロールがよかったので。当時、フォームの参考にしたのは渡辺俊介さん(元千葉ロッテ)や牧田さん。牧田さんのフォームを参考にして投げたほうが感触がよかったので、そのあとはずっと牧田さんのピッチングのイメージを頭の中に描いてフォームを固めてきました」

岐阜経済大から初のNPB選手に。

 與座は2017年、ドラフト5位で指名を受け、岐阜経済大からライオンズに入団した。野球の名門である沖縄尚学高から岐阜経済大に進み、大学時代は東海地区岐阜リーグで通算26勝を挙げた。2年生のときに最高殊勲選手賞、最優秀投手賞を受賞。

 4年生のときにはリーグ優勝を果たし、ベストナインにも選ばれた。同大学を初めての全日本大学野球選手権大会出場に導き、初戦では1安打完封を見せる。同大学からのプロ入りは史上初で、入団時から大きな注目を集めた。

 しかし入団1年目は肘痛で登板なしに終わる。

 オフを迎えた2018年10月に右肘の側副靭帯の再建手術を受けた。2019年は育成選手としてリハビリに励み、9月にイースタンリーグで実戦に復帰。11月、育成から支配下登録に戻った。「ニール、高橋光成、今井達也、本田圭佑、松本航に次ぐ先発の候補」と豊田清投手コーチも期待を寄せている。

託されたアンダースローの系譜。

「今、肘は全く問題ないので、そこを気にせずしっかり投げられているのはよかったと思います。ただ、ピッチング全体の仕上がりには、もう少し時間がかかるかなと思っています。まずはストレートだけではなく変化球も、キャッチャーが構えているところにしっかり投げることを意識して練習しています」

 初めての一軍キャンプは「投内連係も一軍の選手ばかりで緊張感がある」。入団直後から肘痛に悩まされてきただけに「何よりも、投げられることが楽しいです」と笑顔で語った。

 ずっと参考にしてきたという牧田とは、ちょうど入れ違いで、同じユニホームを着た時期はない。しかし、牧田がアメリカに行く直前、偶然会う機会があった。與座が新人合同自主トレーニングで二軍の施設にいたときのことだ。

 パドレスへの入団が決まった牧田は、渡米する直前、西武の施設を借りてトレーニングに励んでいた。偶然、顔を合わせた2人は30分ほど立ち話をしたと與座は振り返る。

託されたアンダースローの系譜。

「挨拶をさせてもらったときに、いろいろなアドバイスをいただきました。技術的なことはもちろんですが、印象に残っているのは牧田さんに『今までは僕を参考にして、プロまで来たけれど、これからは與座が誰かに目指されるようなアンダースローになってほしい』と言われたことですね。そして『ライオンズに1人しかいないアンダースローなのだから、もっと與座の色を出していってほしい』と励ましていただきました」

 ライオンズ時代、自身のアンダースローを「絶滅危惧種」と表現した牧田は、そのアンダースローへのこだわりと誇りを後輩である與座に託した。

同い年の高橋礼の存在。

 もう1人、プロ野球界で奮闘するソフトバンクの高橋礼について聞くと、與座は苦笑する。

「確かに意識しますけど、まぁ、ちょっとタイプが違うので……。でも同学年なので、気になる存在といえば、そうなります。でも高橋君は遥かに僕より先を行っている。1年目から投げているし、結果も出していますからね」

 高橋は入団した年から一軍で活躍し、2年目となる2019年シーズンには12勝を挙げ、日本代表にも選ばれた。

 専修大出身の高橋と、東海地区リーグの與座は大学時代、対戦した経験はない。面識もなかったが、入団直後のNPB新人研修で、トイレでばったり会ったという。

「高橋君のほうから『アンダースローだよね?』って声をかけてくれたんですよ。うれしかったですね」

 今はまだ背中を追う身だが、いずれ、揃って球界を代表するアンダースローとなる目標もできた。

「僕もがんばらないといけないなって思っています」

目標はきっぱり「一軍で5勝」。

 投手が靭帯の再建手術から復帰を目指すのは容易な道のりではない。

「4カ月間、全くボールを握れなかったですし、その間は、不安もありました。つらかったけれど、それも自分の野球人生だと今は思えます。そうやって前向きにとらえて、これからもマウンドに上がります」

 今シーズンの目標は「一軍で5勝」ときっぱりと語る。

「怪我が治ったおかげで、こうして現実的に、具体的な数字が上げられるようになりました」

 ライオンズの新サブマリンは、キャンプ、オープン戦でアピールを続け、まずは開幕一軍を目指す。

文=市川忍

photograph by Kyodo News