「素敵な夜だった。完璧な試合だった。前半はミランが良く、後半はインテルが良かった。歴代のミラノダービーにおけるベストマッチの1つに入ると思う」

 2月10日、インテルの元会長であるマッシモ・モラッティ氏は、市内でイタリア民放TV局メディアセットのインタビューに、そう応えた。9日に行われたセリエA第23節、ミラノダービーの感想である。

 インテルとミラン。両クラブともに経営難による弱体化と、資本譲渡を経験した。その結果、かつてはエル・クラシコと並んで世界的な注目を集めていたミラノダービーも、近年は低調な試合内容を批判されることが多くなっていた。

 タレント不足が嘆かれ、試合ではミスが目立ち、スペクタクル性に欠けるといった指摘がファンやメディアから出る。「勝者は見事なコレオグラフィーを展開した両サポーター」などと皮肉めいて書かれることもしばしばで、低調なミラノダービーはそのままセリエA凋落の象徴とまで言われるようになった。

試合は期待に違わぬ派手な展開。

 とはいえ、ここ2、3年は期待感がやや変わりつつあった。

 それぞれの新経営陣が積極的な投資を行ない、戦力を揃えにかかっていたからだ。特に今回のダービーへの期待は大きかった。首位ユベントスを追走する立場のインテルは、手薄な中盤の補強としてトッテナムからクリスティアン・エリクセンを引っ張ってきた。

 一方、リーグ戦で思わぬ低迷に喘いでいるミランは、冬の移籍市場でズラタン・イブラヒモビッチの復帰という博打を打ってきたのである。

 試合は、期待に違わぬ派手な展開となった。

 前半で圧倒したのはミラン。しかも、2ー0とリードした。ところが、後半にインテルが4ゴールを決めて、大逆転勝利を飾った。

 モラッティは「チームには反撃に転じるための能力が内在していたということだ」とインテルを持ち上げたが、「前半は素晴らしい試合をしていたし、別のチームだったら4、5ゴールは奪っていただろう」とミランも褒めた。弱体化が叫ばれ、復権に苦労している両チームは、歴代でも指折りの試合内容のダービーを展開できたということだ。

美しくも行儀の悪いコレオグラフィー。

 試合前のコレオグラフィー合戦は、相変わらず壮観だった。

 先手を打ったのは、ミランサポーターが巣食うクルバ・スッド(南ゴール裏)。照明のLED化に伴い試合開始前にはコンサート会場ばりの演出照明がされるようになったサン・シーロだが、スタジアムが暗くなった瞬間にスマホのライト機能を使ってスタンド一杯に光文字を映し出す演出――「インテルのクソ野郎」。

 美しくも行儀の悪い、とにかく実に“らしい”メッセージだった。

 一方、インテル側のクルバ・ノルド(北ゴール裏)には、3階席から1階席までフルに使った巨大なフラッグが登場した。

 守護聖人アンブロジウスが、聖人へ転身しようと口八丁で自己弁護する悪魔(ミランの愛称でもある)を円柱に蹴り飛ばして退治した伝説をモチーフにしたもの。その見事さに目を奪われる一方、反対側にはインテリスタの女性4人が噂話を立てるというフラッグが。

「ウルトラスの不文律に反し、警察に噂話を立てるのがインテリスタのおしゃべりども」という暗喩らしい。

 ミラノの伝統とサポーターの流儀。

 どちらもコレオグラフィーのテーマによく扱われるもので、特に両クラブが海外資本に買われた近年は、このテーマで押すことが多くなっている。培われた文化を大事にせよ、というメッセージを投げかけているようでもあった。

序盤からペースを握ったのはミラン。

 さて試合。

 インテルはGKサミール・ハンダノビッチが故障欠場、ラウタロ・マルティネスも出場停止という状況だった。エリクセンも戦術理解が進んでおらず、アントニオ・コンテ監督はベンチスタートの判断を下した。そんな彼らに対して、序盤から攻め立ててペースを握ったのはミランだった。

 中位以下まで順位を落としていたミランだが、イブラヒモビッチ加入後はチームの作り直しに成功し、一定の成果を上げていた。1月からのカップ戦を含めた7試合は5勝2分。戦術家で知られるステファノ・ピオリ監督は的確に人員を配置してチームを機能させ、かつインテルのサッカーを攻略する手段として活用した。

エリア内に入るとイブラの独壇場。

 システムは、イブラヒモビッチをワントップに置いた4-2-3-1。戦術的な狙いは、インテルのパスの組み立てを壊すことにあった。ポイントとなるのは最終ラインとレジスタのマルセロ・ブロゾビッチからのパス出しを封じること。

 トップ下のハカン・チャルハノールがブロゾビッチにまとわりつき、また左のアンテ・レビッチ、右のサム・カスティジェホの両ウイングは、果敢にインテルの3バックの左右にプレスをかける。

 サイドからの組み立てを阻害されたインテルは縦パスを出さざるを得なくなる。しかし中盤にパスを出せば、フランク・ケシエとイスマエル・ベンナセルが、もの凄い運動量で身体を寄せてくる。前線のロメル・ルカクに縦パスを出そうにも、それを狙っていたかのような素早いインターセプトが続いた。

 ボールを奪うと、サイドの連係プレーでスピーディーに崩す。守備時に5バックとなるインテルはサイドの人数が少なくなりがちで、後手に回ってしまった。そして前線には、あのイブラヒモビッチがいる。

 エリア内にボールが来れば独壇場で、40分にはクロスを頭で落としてレビッチのゴールをお膳立て。前半終了間際のCKでは巧みな動きでDFのマークを外し、今度は自らヘッドで押し込んだ。クルバ・ノルドに向かって、これ見よがしに両手を広げる不敵なパフォーマンス。ピオリ監督は「前半は準備していた戦略がすべてできていた」と試合後の記者会見で語っていた。

ハーフタイムのコンテは冷静だった。

 インテルは、前半でまさかの2点ビハインド。激情家のコンテ監督はロッカールームでさぞ怒っただろうと思ったが、そうではなかったらしい。「そんなに話すこともなかった。ただ、どこを良くしていけばいいのかを確認した。頭を使った」とは指揮官だ。

 ハーフタイムでの選手交代はなし。ただ、一部の選手はポジションを細かく修正した。引きすぎていたアレクシス・サンチェスは前方へ、押され気味だったニコロ・バレッラとマティアス・ベシーノも、もう少し前でボールを受け取るように指示が出された。

 後半の立ち上がりにインテルが流れを掴むと、前半から攻守ともに全力で飛ばしていたミランが小さな、だが致命的油断を見せてしまった。

 インテルは右サイドのアントニオ・カンドレーバから攻撃を仕掛け、一旦はシュートをブロックされたが、動きを封じられていたブロゾビッチが、後方からノーマークで駆け上がってきた。そのままノートラップでシュートを打つと、ボールはゴール左下隅へ突き刺さった。

 後半開始6分で1点差としたインテルは、勢いに乗る。逆にミランはフリーズした状態となり、畳み掛けられるままにDFラインがオフサイドラインのミスを犯してサンチェスを自由にし、ベシーノの同点ゴールをお膳立てされた。

 ミランのリードが消えるまで、たった2分間の出来事だった。

ユーべが敗れ、インテルが首位に。

 その先のゲームコントロールは、インテルが上手だった。前半をハイペースで飛ばした一方、引いて守るプランを選択できなくなったミランを尻目に、ブロゾビッチを軸に右へ左へボールを展開。圧力をかけてペースを握り、後半25分のCKのチャンスをしっかりと活かしてステファン・デフライの逆転ゴールにつなげた。

 インテルはその後、エリクセンを投入して試合を落ち着かせ、カウンターの構築が上手いルカクの能力を生かして守って攻めるというプランにはめた。そして最後は、ルカクがきっちりと4点目を追加して試合を閉めた。

 同節にユベントスがベローナに敗れたため、インテルは同勝ち点ながら得失点差で首位。勝ち点1差でラツィオも追走しており、23試合を終えて勝ち点1差に3チームがひしめく18年ぶりの接戦状態となった。

 逆転ゴールを決めたデフライは「このチームの気持ちが現れた。今日のゴールのことは今後もずっと忘れないだろう」と喜んだ。インテルが最後まで優勝争いに絡むようなら、まさに節目の一戦として記憶されることになるはずだ。

イブラは母国報道陣に反省の弁。

 敗れたミラン、イブラヒモビッチは母国スウェーデンから詰めかけた報道陣を前に反省を口にした。「2点を取った時点で満足してしまった。リードを築いたらそれを保つような戦い方をしないとね」。残念な結果で、ゲームコントロールという課題も突きつけられた格好だが、かつての大エースを軸に立て直す方向性の正しさは確認できた。

 ピオリ監督は「前半のサッカーを出発点にしていくしかない」と語っている。

 欧州トップクラスへの返り咲きを目指す両クラブが、歴代屈指の内容のダービーをやり遂げた。その財産は、今後どのように生かされていくのだろうか。

文=神尾光臣

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