2653万6962人。

 2019シーズン、プロ野球12球団の公式戦、858試合に訪れた総観客数だ。

 1試合平均にすると3万929人というのだから、改めて凄い数字である。

 昭和から20世紀末、プロ野球を観るという行動は多くの人にとって「基本テレビで見るもの。年1、2回スタジアムで見られたらいいな」ぐらいの感じだったように思う。しかし2004年の球界再編騒動以降、各球団の経営努力によって球場へと訪れるファンが年々増えているなあ……とスポーツニュースを見て実感するばかりである。

 その「現地で見たい!」というファンのニーズは、2月の風物詩とも言えるキャンプでも高まっているようだ。

 スポーツ報知を見てみると、キャンプの1日ごとに12球団それぞれの観客数が小さく掲載されている。2020年2月1日、つまり今季のキャンプイン初日の数字を見てみると、以下の通りだった。

巨人 2万3000人 
ソフトバンク 2万人
オリックス 7700人
広島 4000人
中日 3000人
阪神・西武 2500人
日本ハム・ロッテ 2000人
ヤクルト 1500人
DeNA 1200人
楽天 710人

ロッテ石垣島キャンプに2000人!

 巨人やソフトバンクの2万人という数字は言わずもがなだが、「練習」を見るためだけにこれだけの人が集まるのだから驚きである。無料で見られるのは大きな要因とはいえ、2000人台でも「ちょっと少ないのかな?」と思わせるほどなのだ。そもそもロッテのキャンプ地は石垣島なのだから、十分に大賑わいか。

 野球場だけでなく、キャンプも見に行ってみたい――熱心な野球ファンの人に会うと、けっこうそんな話を聞くし、知り合いのライターも2週間近くかけてキャンプ地をめぐるというのだから、本当に魅力的なんだろう。

 キャンプが楽しすぎて、1つのコンテンツを作っちゃった人がいるらしい。そんな噂が耳に入ったので、話を聞いてみることにした。

“キャンプ地図”を作ったのは?

「プロ野球のキャンプって、実際にその周辺に何があるのかって、意外と想像できないかと思います。ですから、そのキャンプ地の情報をお知らせするサイトがあるのは便利かな、というのがスタート地点だったんです」

 話してくれたのは、地図情報サービス『ゼンリンデータコム』の女性社員(以下、中の人さん)だ。野球が大好きな中の人さんは2017年から『いつもNAVI』内の『キャンプ地で思いっきり楽しもう! プロ野球キャンプ特集』を作っているのだという。

 で、実際に見てみると……ファン視点で、実に細かい。

 例えば広島東洋カープの宮崎・日南キャンプ。最初に一軍と二軍のスケジュールがあるのは当たり前。休養日もひと目でわかる。ページを見ていくと選手ゆかりの店におすすめグルメ(地鶏や謎のカープパンケーキ)、迫力満点のモアイにドライブの定番ルートなど観光スポットと、地域情報誌を見ている気分になる。もちろん食事などのお店は、実際に中の人さんが足を運んで居心地の良さなどもしっかりと取材済みだ。

地図会社の強みを生かしつつ。

 そして、選手たちが鍛錬に励む天福球場の週間天気からアクセスまで、めちゃくちゃ詳細なのである。

<天福球場までの公共交通によるアクセス情報>
 油津待合所バス停 434m
 西町(日南市)バス停 443m
 岩崎2丁目バス停 577m

 こんな情報、さすがにスポーツ紙でも載ってない……。

「例えばバス停の距離で言えば、200メートルなど具体的な数字があれば“歩けるな”とユーザーの方が判断できます。その他にもタクシーなどのルートと料金がすぐに見られるのは、地図会社ならではの強みかな、と。

 そして、もともと持っている情報だけでなく、さらにグルメや観光スポットなどのオリジナル情報を載せれば、さらに付加価値がつくんじゃないかと考えました。そういう意味で、今後も積み重ねていけるコンテンツだなと感じています」

 確かに野球に限らずどこかの競技場に向かう時、地図アプリは手放せないなと感じる。徒歩で向かうにしろ、電車やバスを使うにしろ、「何分くらいで着くのかな?」という目星をつけておきたいのは間違いないからだ。中の人さんはそれをキャンプガイドという形でユーザー目線で届けたいと思ったのだという。

山手線で思いついたアイディア。

 ただ最初はそれこそ「山手線で思いついた」(中の人さん)とのことで、テストと言える最初の2017年版は数球団を取り上げるくらいのささやかなものだった。それをもっといいものにしよう、と思うきっかけは2017年2月、サイトが完成した直後。「かねてより行きたい」と思っていた、名護キャンプを訪れた時のことだという。

「私自身は車の免許を持っていないので、球場への経路は公共交通機関を使う必要がありました。だけど実際に行ってみると、現地の交通手段が分からないんです。そういったユーザーの方に向けて詳しく発信してあげれば、遠くから訪れる野球ファンの方にも役立ててもらえるのではないかと思いました」

 そんな中の人さんが、野球と同じくらい好きなもの。それは地図である。

「もともと地図がめちゃくちゃ好きだったんです、中学、高校の時に友達の家が不動産屋さんだったので、住宅地図をよく見ていたんですよ。そこからずっと地図が好きで、どこかに旅行に行くときはもちろんですし、地図を見ているだけで“バーチャル・トリップ”をしている感覚も楽しみのひとつなんです。実際、『あ、中日とヤクルトのキャンプ地って車で20分くらいの距離なんだ。今度行ってみたいな』と思うくらいなので(笑)」

 キャンプも地図も楽しい。そうじゃなきゃ、こんなにも積極的にコンテンツを作ろうなんてならないはずである。“遊び半分”じゃなく、“本気”で趣味と実益を兼ねているのだ。

「ブドウ狩りに行くような感覚で」

 興味深かったのは、キャンプをどんな気分で見に行ってほしいか、中の人さんに聞いてみた時の答えだ。

「ブドウ狩りに行くような感覚で、足を運んでもらいたいんですよね」

 一瞬なんだそれ、と思ったものの、考え直すとなるほどとも思う。野球はレジャーや観光地のようなもの。野球を見に行くという目的があるからこそ、なかなか足を運べない土地を巡ることができるのだから。

「旅行先に行って楽しむもののプラスアルファが、マリンスポーツじゃなくて、キャンプの計画だったというだけで(笑)。観光地に行く。その対象がスポーツ、今回の件で言えばプロ野球のキャンプでもあってほしいなと思っているんです」

 スポーツを見に行く。それは気軽に、なおかつ目いっぱい楽しめるもの――。地図がその手助けになれば、キャンプに行きたくなる人がもっと増えるかもしれない。

文=茂野聡士

photograph by Sports Graphic Number