ムーキー・ベッツや前田健太を巻き込んだ大型トレードが、二転三転の末、ようやく着地に至ったようだ。

 最新の情報では、レッドソックスとドジャースの間、ドジャースとツインズの間で、それぞれ個別にトレードが成立した。

 レッドソックスは、ムーキー・ベッツ(外野手)とデヴィッド・プライス(投手)を出し(プライスの残り契約3年分の半額=4800万ドルも負担)、ドジャースのアレックス・ヴァードゥーゴ(外野手)+ジーター・ダウンズ(遊撃手)+コナー・ウォン(捕手)と交換する。

 ドジャースはそれとは別個に、前田健太をツインズに出し、ブルスダル・グラテロル(投手)+ルーク・レイリー(外野手)+ドラフト全体67巡目の指名権を手に入れた。

グラテロルの腕や肩の状態が……、。

 当初の発表では、レッドソックス、ドジャース、ツインズの間で三角トレードが行われることになっていた。

 大まかにいうと、ドジャースはレッドソックスからベッツとプライスを獲得し、レッドソックスはドジャースからヴァードゥーゴを、ツインズからグラテロルを獲得する。そして、ツインズがドジャースから前田を譲り受ける予定だった。

 ところがグラテロルの腕や肩の状態に、レッドソックスが疑念を抱いた。

 現在21歳のグラテロル(ヴェネズエラ出身。16歳でツインズと契約。コンスタントに100マイル近い速球を投げるが、185センチの身長で体重が120キロもある)は、2016年にトミー・ジョン手術を受けた経験があり、'19年には肩の故障で戦線を離脱している。

 ここでレッドソックスが難色を示し、トレードはいったん棚上げされることになった。

「贅沢税回避」という大きな課題。

 だが、レッドソックスには「贅沢税回避」という大きな課題がある。そのためには、2020年の年俸総額を2億1000万ドル以内に抑えなければならない。

 さらにいうと、ムーキー・ベッツ(20年は2700万ドルの1年契約を結んでいた)は球団最高のプレイヤーだが、2020年シーズン終了後にFAの資格を得る。FAになれば、マイク・トラウトに迫る10年総額4億ドル程度の相場になるだろう。

 レッドソックスには、それがきびしい。

 '18年こそワールドシリーズを制したものの、'19年は、ア・リーグ東地区首位のヤンキースに19ゲーム、2位のレイズに12ゲーム差をつけられるというていたらくだった。のみならず、サイン盗みの疑惑に絡んで、監督のアレックス・コーラも解任されている。

 いわば泣きっ面に蜂の状態で、年俸の高い選手をできるだけ減らし、若手でチームを再建したいというのが正直なところだろう。

'18年は首位打者、得点王でMVPに。

 ベッツ放出の裏には、レッドソックス側にこういう事情がある。ファンにしてみればたまったものではないが、戦力的に見て釣り合いの取れないトレードを強行してでも、財布の紐を引き締めたいのだ。

 一方、冬の移籍市場でゲリット・コールやアンソニー・レンドンを獲り損なったドジャースも、喉から手が出るほどベッツが欲しい。

 いうまでもなく、ベッツの価値は高い。

 175センチ/81キロと小柄だが、大リーグに昇格した2014年から'19年までの6年間で、オールスターに4度出場。'18年には首位打者(3割4分6厘)と得点王(129)を獲得し、MVPに輝いた。

 この年の彼(25歳)は、32本塁打/30盗塁。OPSが1.078でWAR(詳細を省いていうと、勝利貢献度指数。大きいほど価値が高い)が10.9だった。壮観ではないか。

ドジャースの攻撃力は飛躍的に向上する。

 さらに驚きなのは、26歳までの6年間のWAR累計が42.0に達していることだ。

 これは、26歳までの累計で見ると、あの大選手トリス・スピーカー(26歳までの累計=48.7)に次いでレッドソックス史上第2位に当たる(テッド・ウィリアムズは開幕時24歳の年に出征したため、23歳までの4年間で34.2)。

 現在の球界では、マイク・トラウト(27歳までの9年間で72.5)、ノーラン・アレナド(28歳までの7年間で38.7)、マニー・マチャド(26歳までの8年間で36.9)、クリスチャン・イェリッチ(26歳までの7年間で33.6)らと肩を並べる実力者といっても過言ではない。

 そんなベッツを1番ライトで起用できれば、ドジャースの攻撃力は飛躍的に向上する。

 2番以下に、マックス・マンシー(一塁)→ジャスティン・ターナー(三塁)→コーディ・ベリンジャー(中堅)→A・J・ポロック(左翼)→コーリー・シーガー(遊撃)が連なる打線は、故障者さえ出なければ球界のトップクラスだ。

 ベッツが期待どおりに働くなら、'21年以降の長期契約でも、ドジャースは気前のよいところを見せるのではないか。

早い時期に先発陣補強の動きも?

 となると、気になるのはやはり投手力だ。

 柳賢振をFAで失い(ブルージェイズと契約した)、前田健太までいなくなったとなれば、痛手は大きい。勝ち星の計算ができるのはウォーカー・ビューラーとクレイトン・カーショーのふたりだけで、新加入のデヴィッド・プライスには、蓋を開けてみなければわからないところがある。

 復帰したアレックス・ウッドや若手のフリオ・ウリアスが活躍してくれればひと安心だろうが、期待外れのようだと、意外に早い時期から先発陣補強の動きが見られるかもしれない。

 '17年、'18年とワールドシリーズ王者になりそびれたドジャースだけに、今季は相当に気合が入っているはずだ。

 まずは、ベッツのバットから眼を離さないでおこう。彼が打線を牽引すれば、空気は大きく変わってくるにちがいない。

文=芝山幹郎

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