バスケットボールの日本代表に足りないものがある。でも、それを埋めるような動きが今、起きている。

 昨年の9月に中国で開催されたW杯を思い出してほしい。日本を背負う覚悟を、プレーを通して表現できたのは渡邊雄太と馬場雄大くらいだろう(八村塁は有効なプレーを見せているが、先のW杯でもチーム最年少。プレー以外のものを求めるのは酷だろう)。

 渡邊はW杯の順位決定ラウンドのニュージーランド戦の後、悲痛な面持ちで話していた。

「このままでは日本に帰れないです。応援してくださっている方がたくさんいるなかで、代表合宿で一緒にやってきたけど最後にメンバーから落ちた選手がいるなかで、最後に選ばれた12人としてふさわしくないというか、絶対にやってはいけない試合でした」

 そして、続くモンテネグロ戦では34得点、9リバウンドの活躍を見せた。

「本当に全部背負って、それでもやる覚悟で」

 なお、渡邊とともに2人でキャプテンの大役を担っていた篠山竜青は、お笑い芸人・麒麟の田村裕氏のYouTubeチャンネルでの対談のなかで、自らの役割については謙虚に振り返ったうえで、渡邊の言動をこうたたえている。

「ニュージーランド戦でチームがトーンダウンした後のモンテネグロ戦の試合前のロッカールームで、(渡邊が)急に叫びだして、自分で胸をたたいて……というのは鳥肌が立ちました。(中略)本当に全部背負って、それでもやる覚悟で。それこそ、僕も泣きそうになりました」

 他の選手たちが、失格の烙印を押されたわけでは断じてない。それぞれの選手のなかに、期するものは確かに存在していた。

 最大の課題は、胸の内に秘めたものも、本来の力も、“上手く表現できなかった”ところにある。

 アジア予選で見せた躍動感や、世界ランク10位だったオーストラリアを破ったときの力強さを、W杯の舞台でほとんど見せられずに大会を去ることになった原因の1つもそこにある。

W杯をTVで観戦しながら気づいたこと。

 では、なぜ表現できなかったのか?

 世界大会での経験がなかったから。普段は味わえないような激しい身体のコンタクトが試合中に続くことで、体力と思考力を奪われていったから。審判の判定の基準が慣れ親しんだものと異なっていたから……。

 理由はいくつもあるのだが、あの舞台に立っていた日本代表の面々と同じ目線で、その理由を考えていた選手がいた。

 2013年8月から宇都宮ブレックスでプレーを続けているライアン・ロシターである。彼はBリーグで戦う選手たちの能力を熟知している。

 だからこそ、W杯をTVで観戦しながら気づいたことがあった。

アグレッシブさが足りない。

「普段、一緒にプレーしたり、対戦したりしている選手たちのパフォーマンスのレベルやアグレッシブさが、Bリーグの試合で見せているものより足りないなと思いました。アメリカなどと戦えること自体は素晴らしいのですが、対戦相手を自分たちが倒せる力を持っているということを信じられていないように見えて……」

 そんな想いを抱いていた彼は、昨年12月に晴れて日本への帰化が認められた。2月3日から日本代表合宿に、代表の候補選手として初めて参加した。

 そして、合宿中に行われたミーティングのなかで訴えかけた。

「オレたちは世界でも戦える力を持ったチームなんだ! アメリカと100回対戦したら99回は負けるかもしれないけど、勝つチャンスが1回はあるかもしれない。それをつかむために必要なことを40分間やり続けることができたら、何かが起こりえる。それを信じて、プレーすることが重要だと思うんだ!」

1日目からリーダーシップを発揮。

 合宿中には、複数のグループにわかれ、グループごとに日本代表に何が足りないかを話し合い、最後にそれを全体で共有する時間が設けられた。ブレックスでともにゴール下で身体を張る竹内公輔とロシターは、奇しくも同じグループに割り当てられた。

「練習から強度の高い競争をやっていかないといけない」と発言した竹内は、ロシターの姿勢をこう見ていた。

「代表合宿では1日目からリーダーシップを発揮していたし、それがライアンの良さだと思います。どうしても最初はよそよそしいというか、遠慮してしまう人もいるのですが……。

 W杯を見て何が足りないかを感じていたらしく、『チームを引っ張る人間も、声を出す人間も足りなかった』と彼も言っていました。彼はそれをできる存在になろうとしていますし、コート内外で、ブレックスで普段から彼がやっているようなことを出してくれていたなと思います」

今まで見たことがないくらいの気迫。

 竹内が「コートの外」でのロシターの言動を挙げた一方で、同じくチームメイトである比江島慎は、「コートの上」でのプレーを通してロシターが伝えようとしているものを実感していた。

「すごかったですよ! 今まで見たことがないくらいの気迫を感じたというか……。スクリーンをかけるときにも、ファウルになるくらいの勢いで身体をぶち当てていったり、リバウンドの争いでもファウルを恐れない勢いで飛び込んだり。

 でも、それでいて、すごく楽しそうでした。ああいう姿勢はこれまでの僕らに足りなかったものでもあると思うので、その激しさに僕らもつられて、良い練習ができたんじゃないかなと思いますね」

16歳を過ぎてから帰化した選手は……。

 16歳を過ぎてから帰化した選手は1人しか登録できない、というのがバスケットボールの代表戦のルールだ。先のW杯に出場したニック・ファジーカス、今年1月に帰化が認められた千葉ジェッツのギャビン・エドワーズらとともに、その1つの枠をロシターは争っている。

 なお、2月3日から5日までの日本代表の合宿には、エドワーズとロシターが日本代表としての活動に初めて招集を受けた一方で、W杯予選突破の立役者となったファジーカスは招集されなかった。

 その理由について、ファジーカスはこう話している(2月10日以降の合宿に招集されたかどうかについては2月12日午前の時点で発表されていない)。

ファジーカスの思い。

「代表に選ばれる、選ばれないというのは、自分のメンタルに影響するものではないと思っているので。いま、一番、大事なものは川崎(所属する川崎ブレイブサンダース)に集中することなので。

 川崎で何を成し遂げられるか、Bリーグで何が自分にできるのかというのがすごく大事で。そこに集中しているので、それ以外のことは、あまり自分には影響はないです。

(日本代表の)ラマスHCとしっかり、今回のウインドウ(2月末に予定されているアジアカップ予選の2試合の代表戦のこと)について話をして。チームのコンディションだったり、自分のコンディションだったり、自分の立ち位置というのを、彼に説明しました。そして、彼が最終的には、僕のことをロスター(メンバーのこと)から外すという判断を下したと感じています」

 繰り返すが、代表チームに1つしかない帰化選手の枠をロシターが手にするという確証はない。

 大切なのは、そこに競争があること。そして、その競争こそが、チームが成長するために欠かせない刺激をもたらすということだ。

「自信をなくした夏でした」

 その刺激に目を向けるとき、比江島が代表のミーティングで言ったことに、日本代表の未来への可能性を感じる。

 中国W杯を5連敗で終えることになったモンテネグロ戦のあとに、比江島は「自信をなくした夏でした」と話していた。それはチームとして一度も勝てなかったことだけを指しているわけではない。自分自身にも向けていた言葉だった。

 渡邊や八村塁が参加できないときには比江島が攻撃の中心として多くの得点をあげることを求められ、結果を残してきた。

 しかし、彼らとともにコートに立つときには、ボールを持ったり、攻撃をしかける時間が少なくなる。どんな選手でも役割が大きく変われば、結果を残すのが難しくなる。

 でも、彼はあのときとは違う。代表から所属するブレックスに戻った今シーズンは攻撃ではなく、守備からリズムをつかむ試合も増えてきた。

 ベンドラメ礼生や藤井祐眞といった相手の攻撃のキーマンのマークに付くこともあれば、相手のビッグマンからボールを奪おうと懐に飛び込んでいく場面も増えてきた。

「自己犠牲の精神をしっかりと持って」

 実際に、2月9日の中地区首位の川崎との試合ではチーム最多タイとなる4つのスティールを記録している。

 ロシターらがチームのために行動しつつ、たった1つの枠を争う姿に触発されるように、比江島はミーティングの席で力強くチームに呼びかけたという。

「自己犠牲の精神をしっかりと持って、日本のために戦おう! ラグビーの日本代表をそのままマネしようというわけではないですけど、みんなを引き込んで、日本国民を味方につけていけるようになりたい。そのために、僕らはしっかり身体を張ってやっていこう」

 競争のない組織は腐っていく。

 健全な競争のある組織は、成長を続けられる。

 ロシターらが新たに加わった日本代表は、健全な競争を成長の起爆剤にしていこうとしている。

文=ミムラユウスケ

photograph by B.LEAGUE