リングアナが選手を呼び込み、一瞬の静寂到来。イントロが導火線となり、会場の温度が一気に上がる。自身のテーマ曲とファンの大歓声をBGMに、いざ戦場へ。

 新日本プロレスの絶対的「エース」であり、根っからの“プロレスファン”でもある棚橋弘至は、リングへ続く花道で過ごす時間をこう表現する。

「僕は入場曲を聴くと、その選手の姿が頭に思い浮かんでくるんですね。試合の画とか、必死に頑張ってる姿とか。それが入場曲の一番の魅力であり、入場曲を聴くとその選手の試合が脳内再生されるので、モチベーションや、やる気がすごく湧いてくるんですよ」

 Number997号では「プロレスと音楽の幸福な関係」をテーマに、棚橋が熱く語った。対談の相手は、1月に現役を引退したばかりの獣神サンダー・ライガー。ここでは、誌面で紹介しきれなかった、2人にとっての「忘れられない入場シーン」を紹介する。

武藤敬司とのタイトルマッチに泣きながら入場。

――リングへの入場シーンで思い出に残っている試合は。

棚橋 2009年の東京ドーム大会で、武藤敬司さんとタイトルマッチをやったときですね。僕は武藤さんの元付き人ですし、当時もスーパースターでしたから。'09年と言えば、まだ僕に対するブーイングも残っていた時期で。個性の塊のような武藤さんに、どう立ち向かっていくかを考え続けていて、あれほど緊張した入場はない。

 しかも、東京ドームの花道は長いから、ずっと緊張状態が続くんです。本当は、勢いよくがーっと出ていこうと思っていたんですけど、緊張が限界を超えて、感極まってしまって、泣きながら入場したんですよ。あのときの気持ちは、今でも忘れられない。映像を見返しても、当時の入場曲である『HIGH ENERGY』が、ロックミュージックなのに切ない曲調に聴こえるんです。

ライガー 棚っちょ(棚橋)は、喜怒哀楽がはっきりしているもんね。それが、ファンに愛される1つの理由だと思う。嬉しいときは「やったー!」って表現するし、悲しいとき、寂しいときは、思いっきり泣く。そういう喜怒哀楽が試合にも出ていて、ファンも感情移入できる。それは、魅力の1つだと思うよ。

ライガーにとっての「最悪の入場」。

――ライガーさんにとって、印象深い入場は?

ライガー あまりないんですよね。「最悪の入場」を挙げるとすれば、'97年の東京ドーム大会かな。マスクの上に、鬼のような仮面をつけて入場したんだけど、その仮面のサイズがデカすぎて、モアイ像みたいになっちゃって(笑)。

棚橋 3頭身みたいな(笑)。

ライガー そうそう。まさに3頭身! 目のところが赤く光っているんだけど、そもそも目の部分が小さくて、どこにあるのかわからない。リング上にいた坂口征二さんには「これ、何がついてるんだ」って覗き込まれるし、視界が狭いからコーナーポストに上がろうとしてもロープが見えない。やばいと思いながらも、どうにか上がったんだけど、今度は下が見えない。よいしょって、ゆっくり下りるわけにもいかないから、最後は勘で飛び降りたよ。

棚橋 いいですねぇ、「最悪の入場」(笑)。それなら僕は、まだヤングライオンの時代に、ある体育館で花道を勢いよくダッシュしたんです。そうしたら、段差があって。それに気づかず、どわーってこけて(笑)。

ライガー わはははははは。

先輩に「段差があるんで」と報告。

棚橋 自分でも「うわ、こけたー! どうすればいいんだ?」って思ったんですけど、再び走り出しました。

ライガー それはそれで、ファンも盛り上がるよね。

棚橋 第1試合だったので、控室に戻って先輩方に報告しました。「段差があるんで気をつけてください」って。

ライガー 貴重な体験談としてね(笑)。

棚橋 第1試合のヤングライオンで良かったです。入場テーマ曲に関する対談でしたけど、こんなオチでいいんですかね(笑)。

ライガー プロレスラーの入場にとって、曲も大事だけど、「段差」も大事だってことだね。

文=松本宣昭

photograph by Shunsuke Mizukami