2019年度の女子バロンドールはアメリカのミーガン・ラピノーが受賞した。ワールドカップ得点王にして最優秀選手。バロンドールの投票でも、男子の受賞者であるリオネル・メッシが2位のビルヒル・ファンダイクと僅か7ポイント差の僅差であったのに対し、ラピノーは2位のルーシー・ブロンズに136ポイントの大差をつけた圧勝だった。
 これから2回にわたり掲載するのは、昨年末の『フランス・フットボール』誌に掲載された、クリストフ・ラルシェ記者によるラピノーのロングインタビューである。口をついて出てくるのは単なる受賞の喜びではない。マイノリティの権利・利益のために戦う“ミリタン(社会活動家)”としての先鋭なメッセージの数々である。
 アメリカがワールドカップを連覇し、ラピノーがバロンドールとFIFA最優秀選手賞を受賞したからこそ、言葉は力を持ち世界を変える契機ともなったのだろう。彼女が発する言葉の意味に、読者の皆さんも真剣に向き合って欲しい。(監修:田村修一)

たった1人で取材の場に現れたラピノー。

 マイクを前にしたとき、彼女が期待外れになることはあり得ない。マイノリティの代弁者を自負するミーガン・ラピノーは、男子にも同じ期待を寄せるのだった。

 扉が開くや否や、彼女はフランス語でこう語りかけてきた。

「ボンジュール・ラ・フランス!」

 場所はシアトルのウェスティン・ホテルにあるセント・ヘレン・サロン。そこに彼女はたったひとりでやってきた。彼女ほどのスターが、代理人も広報もスタイリストも同伴せずに登場するのは極めて珍しい。

「それは私が大人だから。男性はみんな子供で、常に周囲に誰かいないと何もできないの」

 このひと言でインタビューのトーンが決まった。

 リラックスした雰囲気ながらもプロフェッショナリズムに溢れる彼女は、真剣な眼差しで正確に言葉を発した。このしばらく後には、実生活のパートナーであるスー・バード(2004年アテネから2016年リオデジャネイロまで、4大会連続で五輪金メダルを獲得した女子バスケット選手)と、メキシコにバカンスに出かけるという。

「そう、ワールドカップから今まで、私には休息のときがなかったから……」

 2時間におよぶインタビューとフォトセッションは、こうして始まったのだった。

「何か特別なことができる自信があった」

――今年(2019年)はフランスに来るたびに何かトロフィーを獲得していますね。

「フランスは大好き。ワールドカップのときから、私は人々の熱い支持を得ていた。今度はバロンドールでしょう。フランスとの縁がますます深まったように感じる」

――投票結果は2位に大差をつけた圧勝でした。

「この歳(34歳)になって、こんな素晴らしい賞をいただけるなんて……。想像もしていなかった。この夏、私は最高の女性たちに囲まれて自分の役割をまっとうすることができた。ストライカーとしての責務を果たしゴールも決めた。

 人々の期待には応えたかった。何か特別なことができる自信があったし、アメリカ代表は本当に素晴らしいチームだったから」

「間違いなく生涯最高の年だった」

――大会得点王と最優秀選手の両方を手にしました。

「間違いなく生涯最高の年だった。2016年リオ五輪の後、自分のキャリアを高めるためにサッカーにさらに集中しようと決意した。練習に真摯に取り組み、食事にも細心の注意を払うようになった。代表に選ばれてから10年あまり経ったけど、これまでより素晴らしい最高の自分を見せたかった。そんな気持ちでワールドカップに出場した」

――その想像通りになったわけですね。

「実際、素晴らしいプレーを披露できたと思う。フィジカルコンディションは最高で身体はキレていたし、どうすれば決定的な仕事ができるかもよくわかっていた。もっと前からこうなることもできたはずだった。『フランス・フットボール』誌が、女子バロンドールを数年前に創ってくれればよかったのに! 3〜4年前から私は、ピッチ内よりも外でより積極的にコミットしていたから」

「熱狂的な雰囲気のなかで、私は自分を超越できた」

――どういうことですか?

「自分のことはよくわかっているし、プレーでも強く意識している。大胆に、自分本来のプレーをする。熱狂的な雰囲気のなかで、私は自分を超越できた。

 この夏(2019年の夏)、4万5000人の観衆の前で自分を表現できたのは、信じられないほどの幸運だった。その結果として“パフォーマー”としての意識がより強まり、単なるアスリートの枠を超えて何かを創造しつつあるアーティストであると感じるようになった」

――ポップスターということですか?

「私たちはエンターテイメントビジネスの中にいて個人的な表現活動をおこなっている。

 もちろん純粋にプレーへのかかわりもあるけど、スポーツには何百万人もの人々に喜びを与えるという側面もある。その意味で私たちのアメリカ代表は完ぺきだったといえる。

 ピッチ外での協調と一体感が、試合ですべてを覆すことを可能にした。

 メディアに話題の中心として取り上げられ、観衆から熱烈なサポートを受け続けるのは心地よかった。おかげで私たちは勝利を得て、ロックスターのような存在になった。凄いことでしょう!」

「私は自分を活動家だと思っていて……」

――このバロンドールは、ワールドカップ最優秀選手に与えられたというよりも、マイノリティへの差別と闘い、ドナルド・トランプを公然と非難するひとりの女性に与えられたのだと思いますか?

「そのふたつに対してだと思う。私は自分を活動家だと思っていて、その部分は決して切り離すことができないから。

 もちろん優れたサッカー選手であるのは間違いないけど、他方でピッチの外での活動も支持を得ている。人々は私が彼らの抱える社会問題の解決策を与えていることを理解している。その効果はすでに現れている。

 オーストラリアで起こったこと(オーストラリア協会は、男女代表チームのボーナスや扱いをすべて同じにした)を見ればそれは明らかでしょう。

 要は女性たちに、より強くより高い声で言葉を発する力を与えたい。だから私はアダ(=ヘゲルベルク。2018年バロンドール受賞者)を尊敬している。彼女は女子代表の環境改善を訴えて協会と戦ったから」

――女子バロンドールの投票委員たちは、アジテーターには目がないですから……。

「その言葉は喜んで認める。状況を改善していくために、自分のたちの地位や評判をこれからもどんどん利用していきたい」

「私の予定表は滅茶苦茶(笑)」

――ではあなたは、トップレベルのアスリートとしての生き方と、様々な分野の“ミリタン(社会活動家・闘士)”としての生き方をどう結びつけていますか?

「私の予定表は滅茶苦茶(笑)。旅から旅へと動き回り、その間にメッセージを発しながらさらに考える……。でもそれは、私やパートナーたちのモチベーションにもなっている。

 協会にワールドカップの男女同額ボーナスを求めた私たちの戦いは着実に成果をあげた。そこで戦い抜いたという自信が、ピッチ上のパフォーマンスにもしっかりと反映された。絶対に優勝するという決意を固めて、大会に臨むことができた」

アメリカという国が持っている妄想とは?

――ドナルド・トランプをはじめ、あなたの存在を苦々しく感じているひとたちを黙らせるためでもあったのですか?

「もちろんそれはあった。

 アメリカという国は、自分たちが常に世界最高で世界を支配しなければならないという妄想にとりつかれている。ときにそれは過剰なほどで、ゾッとすることすらある。

 でも私たちの場合は、勝利がアメリカだけでなく世界の女子サッカーを大きく前進させた。世界チャンピオンのタイトルが、平等を求める私たちの戦いを、さらなる次元へと導いてくれた。だから私はこのバロンドールを、チームメイトやコーチ、家族、友人たちやスーだけに捧げるのではないと思っている」

――では他の誰に捧げるのでしょうか?

「周辺に追いやられていると感じているすべての人々、自分に関心を払われていないと感じている人々、戦っている人々に捧げたい。たぶんこのアメリカ代表が――もちろん私もそうだけれども――彼らに新しい道を切り開いた。

 旧弊な秩序を破壊し、それぞれにとってよりよい世界を作り出すことを可能にした。自分のための主張をしっかりしようとする人々にとって、私はシンボルなのだろうと思う。

 だから自分が本当に何を求めているのかを深く掘り下げるのを止めるつもりはないし、自分の可能性に限界を置くつもりもない」

すべての差別を受けている人たちのために。

――その「周辺に追いやられていると感じているすべての人々」とは誰のことですか?

「分け隔てなくすべての人々に対して。

 人種差別に苦しむ若いアフリカ系の人々や世間の冷笑を浴びているデビューしたての女子サッカー選手、同性愛者のアスリートたち、男性の同僚と同じサラリーを貰う価値のある女性オフィスワーカー……。彼らの問題は通底しているし、自分の望む人生を送りたがっている。

 世界は私たちの周辺から変化し始めている。香港、チリ、レバノン、アルジェリア、黄色いベストを着たフランスの人たち……世界中で人々が主張をはじめている。

 私はアメリカ代表チームともう何年も世界を回っている。多くの試合に勝ちスペクタクルを提供しているけど、そうした人々の期待には常に応えるようにしている。私自身も私に近づいてくる人の言葉をよく聞くようにしている」

彼女の勝利は「愛国心の枠」を越えていた。

――あなたに近づいてくる人々……そういった人たちはいったい何を語りかけているのでしょうか?

「2015年のワールドカップ優勝のときは、『ブラボー! あなた方は最高だ。素晴らしかった』と人々は祝ってくれた。つまり外側からの祝福だった。

 でも今年は、まるで誰もがチームの一員であるかのように喜んでいた。

 私たちの勝利は彼らの勝利でもありアメリカの勝利でもあり……すべての人々の勝利であるといえた。しかもサッカーだけに留まらないし“愛国心の枠”も超えていた。チームはあらゆる平等のために戦っていたのだから。

 私が感謝されるのは、人々を覚醒させたからで、私たちがピッチの上で成し遂げたことを彼らの人生においてもなしうると力づけたからだった。感謝の言葉をかけられるたびに、心が震えるのを感じる」

文=クリストフ・ラルシェ

photograph by Benjamin Schmuck/L'Equipe