文字通り、あっという間だった。

 メジャーリーグ(MLB)のオープン戦が始まってしばらく経った3月10日、シンシナティ・レッズのキャンプ地アリゾナ州グッドイヤーで行われたレッズ対ダイヤモンドバックス戦の試合前、Twitterで1つのニュースが飛び込んできた。

「アイビーリーグが男女のバスケットボール・トーナメントのキャンセル(中止)と、(その他の)春スポーツの観客を限定する旨を発表した」

 アイビーリーグとはアメリカ合衆国北東部に点在する私立大学の総称だが、全米各地に散らばるカレッジ(大学)スポーツ連盟の1つとしても名高い。3月から4月にかけてシーズン佳境を迎えるバスケットボールやアイスホッケーの大会を中止するのは、1つの大英断だった。

アメリカが一気に日本のように。

 当時すでに、新型コロナウイルスが中国や日本などの東アジアで感染範囲を広げており、日本では選抜高校野球が中止となったり、プロ野球のオープン戦や大相撲の春場所が無観客で行われていた。

 その流れを考えれば、アメリカのスポーツ界が日本のようになっていく状況は容易に想像できたが、それがさらに実感できるようになるのに、時間はかからなかった。

 翌11日の午後3時(合衆国東部時間、以下同)、アイビーリーグが春スポーツの今年度における全面的な大会と練習の中止を発表し、その数分後に全米大学体育協会(NCAA)がこれから本格的に始まろうとしていた大学バスケットボール・トーナメントが「(関係者や家族のみで)ほぼ無観客試合で行う」と発表。

 午後6時にはサッカーのイタリアの強豪ユベントスのダニエレ・ルガーニ選手が新型コロナウイルスに感染しているというニュースが流れた。午後9時27分には米バスケットボールNBAのユタ・ジャズのルディ・ゴベール選手が同ウイルスに感染しているというニュースが流れ、その数分後には「NBAは2019年に開幕して、真っ只中だったシーズンを即時中断する」という臨時ニュースが流れる。

MLBの開幕の目処は立っていない。

 12日には国際バスケットボール連盟(FIBA)が予定されていた全大会を中断し、サッカーのスペインリーグが28節と29節の全試合を延期。国際テニス連盟(ITF)と男子プロテニス協会(ATP)が4月20日からの週までの全大会の延期を決定すれば、合衆国でもプロアイスホッケーのNHLがすでに始まっていたシーズン中断を発表した。

 さらに米サッカーのメジャーリーグ(MLS)が少なくとも30日間の試合を延期すると、それに続いて米サッカー連盟も3月と4月の国際試合の中止を発表。オフシーズンで影響が少ないはずのアメリカンフットボール(NFL)も、3月下旬に予定されていたリーグ・ミーティングを中止とした。

 午後4時にはMLBがオープン戦(アメリカでは春キャンプに含まれる)の全試合中止と、「最低2週間」の開幕延期を発表した(のちにマンフレッドMLBコミッショナーが「2週間では再開できない」との見解を示しており、マイナーリーグも同様の措置を取っている)。

分刻みで届く中止や延期のニュース。

 そこからは息つく暇もないほど、次々と世界中からスポーツ関連の「新型コロナ・ウイルス」報道が飛び込んできた。

午後6時17分 英サッカー、プレミアリーグのアーセナルのミケル・アルテタ監督のコロナウイルス検査で陽性反応。

午後6時19分 プロレス団体WWEが13日にミシガン州デトロイトで開催が予定されていた大会「スマックダウン」を、団体の練習施設フロリダ州オーランドでの無観客開催に変更。

午後7時08分 自動車レースのF-1が開幕戦オーストラリアGPを中止。

午後8時24分 シルバーNBAコミッショナーがシーズン中断について「少なくとも30日」という見解を示す。

午後9時02分 英サッカープレミアリーグのチェルシーFCのカラム・ハドソン=オドイがコロナウイルス検査で陽性反応。

午後9時34分 格闘技団体UFCのダナ・ホワイト会長がESPNで「UFC Brasilia」大会の無観客で開催することなどを発表。

午後9時59分 男子プロ・ゴルフのPGAがすでに開催中で、日本の松山英樹が初日を終えて首位に立っていたザ・プレイヤーズ選手権の中止を決定。

午後10時16分 北米アイスホッケーNHLのサンノゼ・シャークスの本拠地アリーナで働くパートの従業員がコロナウイルス検査で陽性反応。

翌日には国家非常事態が宣言。

3月13日(金曜日)

午前7時 英サッカー、プレミアリーグのリチャード・マスターズ最高経営責任者が、プレミアリーグ、サッカー協会(FA)、フットボールリーグ(EFL)、ウィメンズスーパーリーグのすべての対戦カードを「その時の医療的アドバイスと条件によって4月4日再開を前提に延期」。

午前7時半 サッカーのフランス上位2リーグがシーズン中断を決定。

午前8時半 自動車レースのF-1がバーレーンGP(3月22日決勝)とベトナムGP(4月5日決勝)の延期を決定。

午前10時 男子プロ・ゴルフのメジャー大会マスターズの会場、オーガスタ・ナショナルゴルフクラブのフレッド・リドリー・チェアマンが4月9日からの大会の延期を発表。

午前10時半 4月20日に予定されていたボストン・マラソンが9月14日に延期。

午前11時15分 サッカーの独ブンデスリーガが4月2日まで中断、延期。

午前11時39分 米ストックカーレースのNASCARが週末のアトランタと次週に予定されていたマイアミの大会延期を発表。

午後12時13分 ギリシャのオリンピック委員会がギリシャにおける聖火リレーを中止。19日に予定されている東京への引き継ぎは予定通り行われるが、無観客で行うことを発表。

午後1時07分 4月26日に予定されていたロンドン・マラソンが10月4日に延期。

 そして、午後3時39分、米トランプ大統領が「国家非常事態宣言」を発令する――。

 以来、新型コロナウイルスが世界中のスポーツ界に影響を与えているニュースが、地上波テレビだけではなく、TwitterをはじめとするSNSなどに怒涛のように流れ込み続けている。

MLBではまだ選手の感染者は発覚していない。

 少し気になるのは、ほかのスポーツ界やマイナーリーグ、キャンプ施設で働くパート従業員がコロナウイルス検査で陽性反応が出たという事実があるのに、いまだにメジャーリーグでは感染者が出たという話を聞かないことだ。

 メジャーリーグの開幕延期が決まった時、カブスのセオ・エプスタイン編成本部長に「カブスの選手たちはコロナウイルス検査を受けたのか?」という質問が向けられた。同編成本部長はこう答えている。

「検査については、この国自体がとても遅れている」

 全員がテストを受けたわけではないので、チームに感染者がいるかどうか分からない――。

 その「一抹の不安」は私のようにアメリカに住む他の人々とまったく同じ状況であり、合衆国政府が「不要不急の場合以外は控えること」と事実上の外出禁止令を出すより先に、幾つかの球団がキャンプ施設を完全に閉鎖して、選手たちを家に戻したことに繋がっている。

閑散とする商業地域。

 家族の承認を得て、リスクを承知でキャンプ取材を中断して家に戻る途中、普段は渋滞するはずのシカゴ郊外の高速道路や、夕方には買い物客でにぎわう近所の商業地域が閑散としている風景に出くわしながら、「自分は感染していない」と信じ切れないこと、そして、その感覚に慣れている自分が怖かった。

 今はただ、自分や周りの人が発症しないことを願いながら、何か明るい話題を見つけて、次回のコラムに反映したいと思うのみである。

文=ナガオ勝司

photograph by AFLO