世界中で拡散が深刻化している新型コロナウイルス。その感染拡大への対応として大規模イベントが中止・延期されている。イタリアでも3月9日、感染拡大を受けてコンテ首相が同国のスポーツイベントを4月3日まで中止することを発表し、イタリアスポーツ界にも大きな影響が出ている。現状で正式に中止となるのは4月3日までとされているが、4月中の再開は現実的ではないという見方も強まっている。

 今季、セリエA・パドヴァでプレーするバレーボール日本代表の石川祐希もリーグ再開に向け、現地で状況を見守る1人だ。リーグ中断前まで19試合に出場し、242得点。チームの主力としてプレーしてきた。

 本来であれば、今頃、今季目標の1つとして掲げていた「プレーオフ出場」に向けて、コートの上で躍動しているはずだった。現在、試合はもちろん、練習さえも行えない状況だ。幸い、「体調を崩すことなく、元気に生活することができている」という。予期せぬ緊急事態にも、「今は家でできることしかないので、できることを行って、次への準備を進めていくしかない」と現状を受け入れ、前を向いている。

ペットボトルを両手に持って。

 試合はおろか、練習も行えない状況下でいかにコンディションやメンタルを保っているのか。どう対処しているか気になるところだが、所属事務所に追加取材したところによると、石川は自らコントロールできることに意識を向け、やるべきことを淡々と行っているようだ。

「専属のトレーナーにメニューをもらって、自宅で毎日2時間くらい、基礎的なトレーニングをしています。自宅にあるペットボトルをウエイトがわりに両手に持って、スクワット、片足のデッドリフトを行ったり、上半身は小さいペットボトルでプッシュアップ系の運動をしたり。決して十分だとは思いませんが、今できる最低限のことをやって、避けられない筋肉の衰えを最小限に抑える努力は続けていきたいと考えています」

子供たちを応援する企画も開始。

 メンタル面に対しても同様のスタンスで真摯に向き合っている。

「正直、今は外出もバレーボールもできない状況で、そのなかでできるだけコンディションを落とさないようにすることや、目標を見失わずに、今やれることをしっかりやることそのものがメンタルのトレーニングになっていると思います。

 時間があってもできることが少ない現状においては“やらない”ことはいくらでもできるので。空いた時間は、本を読んだり、バレーボール以外のイタリアのテレビを観るようにしたり、語学の勉強をしています。いつもより自炊に時間をかけてみたり。いろいろ工夫をして、うまく気持ちをコントロールしています」

 日本から9700kmほど離れた異国にいても気になるのは自分を応援してくれるファンや、自分と同じようにスポーツやバレーボールに励む子供たちのことだ。

「毎日を健康で、明るく、元気に過ごしてほしい」という思いと、「こんな時だからこそ、『感謝の気持ち』を忘れないで欲しい」という子供たちへの願いを込めて、全国の小中高生に向け、子供たちを応援する企画をSNSで実施する取り組みもスタートさせた。

「海外でキャプテンを経験したい」

 日本代表でも中心選手として、リーダーシップを求められている石川だが、昨年11月のインタビューでは「いつか海外のクラブでもキャプテンを経験したい」と話していた。それは常にチームの中心でありたいというシンプルな思いと、海外のチームの中心であることが、この先、今後の自身のキャリアを見据えた上で必要なことだと考えているからだ。

 今回、予測不可能な出来事が生じ、あらためて痛感していることがあるという。

模範にしているキャプテン。

「自分がもしキャプテンだったらと考えると、正直、今の自分にはできることと、まだできないことがあると思います。たとえば、練習や試合のコートの中で、それぞれのコンディションやプレーを見ながら声をかけ、団結や士気を高めることは簡単なことではありませんが、今の自分にもできると思います。ただ、今回のような場合は、命にかかわることなので、想定外の状況を把握し、正確に伝えなければなりません。

 そういった行動は、自信をもって『できる』とは今はまだ言えないですね。キャプテンになると全クラブのキャプテンが集まる会合にも出席し、その内容をチームメイトに伝えなければなりません。その点では現段階の自分の語学力では不可能ですし、それが出来るようになるためにはイタリア人並みにイタリア語を話すことが必須になります。バレーボールに限らず、一般的な知識ももっと勉強して増やさなければならないと思っています」

 そういった意味で石川の1つの模範になっているのが、パドヴァのキャプテンを務めるドラガン・トラヴィツァの姿だ。

「コミュニケーションの取り方に関しても、日本とイタリアとでは異なります。そういった部分で僕はドラガン・トラヴィツァを信頼していますし、素晴らしいキャプテンだと思っているんです。彼の行動から、日々、『こういうときには、どう言えば伝わるのか』を見て、学んでいますね。彼は監督やGMと積極的にコミュニケーションをとっていますし、チームメイトの声を聞き、クラブに伝えて、『僕たちのために動いてくれている』と感じることが多々あるんです」

バレーボールの域を超えて。

 正直なところ、クラブや仲間に対して、チームをけん引するためにどのようなアプローチをしていくべきか、現段階ではまだ具体的に描けてはいない。ただ……。

「これまではバレーボールのことで精いっぱいでしたが、ようやくバレーボールの域を越えて、自分の周囲や社会の状況を把握する余裕や理解したいという欲が出てきました。今はその感覚を大切にして、見て、学んでいきたい。そう考えています」

 どんなに苦境に立たされようとも、決してあけない夜はない。その日が来るまで、石川は自らがやるべきことに集中するだけだ。平穏な日常が戻ったとき、また多くの観客の前でプレーするために。

文=石井宏美

photograph by Itaru Chiba