コロナウイルスによる自粛要請を受ける形で無観客での開催に踏み切った大相撲大阪場所。

 力士は体温を測定して毎日提出を義務づけられ、これにより場所中に千代丸をはじめ数名の力士が休場する非常事態の中、15日間感染者を出すことなく場所を終えた意味は大きいものだった。

 その中でいつものように強さを示したのは、千秋楽で横綱同士の相星決戦を制した白鵬だった。

 そして大事なのは、優勝を争ったのが横綱2人だったということだ。休場と出場を交互に繰り返しながらも序盤で負けが込まなければ優勝争いに絡む白鵬と、3場所連続途中休場しながらも背水の陣で挑んだ鶴竜。両者ともに全盛期の状態ではないが、引き出しの多さとここ一番の勝負強さで大関以下の力士を退け続けた。

1日なら勝てても、総合力では横綱。

 毎日の取組という視点で見れば、つけいる隙が無い訳ではない。だが、15日間の成績をトータルで競うのが大相撲の本場所というものだ。

 ワンマッチでは勝負になっても、毎日高いレベルを保ち、時には悪いなりに凌ぎ、時には形が悪くても攻め切ることができなければ、毎場所のように優勝争いに絡むことはできない。

 初場所で神がかった土俵際での逆転を繰り返した徳勝龍が、上位総当たりの地位となった今場所で、金星こそあったものの4勝という結果だったことからも分かる。

 それでは、大関以下の力士は現在どのような勢力図になるのだろうか。直近3場所で32勝という成績を残し、大関昇進を確実にした朝乃山が目を引くが、15日終わってみれば横綱が賜杯を抱いた今場所は、どのような構図だったのだろう。

大関より関脇小結の方が強い?

 2019年の統計を取ると、興味深いデータが出てきた。大関の勝率を、史上初めて関脇小結の勝率が上回ったのである。

 従来であれば、大関は関脇に対して5割5分、小結に対して6割、平幕には7割5分という高い勝率を残す、相撲界の顔というべき地位である。朝乃山の大関昇進も、千秋楽に勝ち越しの懸った貴景勝に勝利してようやく目が出るような責任ある立場だ。

 だが昨年は、栃ノ心と貴景勝、更には高安が陥落を経験したように、大関陣が怪我などの影響で振るわなかった。今もなお大関の地位を保っているのは貴景勝のみという非常事態で、栃ノ心と高安は平幕に地位を落とした。勢力図が明らかに変わってきている。

関脇小結の内実も異例。

 なお2019年の関脇小結の勝率はおよそ5割5分で、これは昭和33年以降であれば8位となる。高水準ではあるが、突出して高いという訳ではない。この内実についても、過去の事例と比べると少し様子が異なる。
これまで関脇小結の勝率が高水準だった時は、決まってこれを牽引する力士が存在し、彼らはその後大関に昇進していった。

 1985年であれば40勝20敗の大乃国と49勝23敗3休の北尾が大関に昇進しているし、1993年は58勝32敗の武蔵丸と42勝19敗の貴ノ浪が翌年早々に大関昇進を決めている。

 ほかにも2011年は44勝16敗の琴奨菊と50勝25敗の稀勢の里、1981年は琴風、2000年は魁皇といった具合である。

 つまり、大関に駆け上がっていく力士が関脇や小結を通過していく時期にあたることで、この高水準が成立しているということだ。

突出した力士は不在、しかし高勝率。

 しかし、2019年にそういう力士はいなかった。

 大関獲りに成功した貴景勝は確かに優秀だったが、関脇には3場所しか在籍していないため、全体の勝率には大きく寄与していない。

 秋場所に優勝した御嶽海も51勝36敗3休ということで、前述の大関昇進力士たちほどの高水準ではない。関脇と小結を経験した力士すべての成績を見ても、9勝6敗ラインを超える力士はいなかった。

 その中で唯一傑出していたのが、11月場所で11勝4敗を記録した朝乃山だった、ということである。
では、この傾向は2020年も続いているのだろうか。そして、朝乃山が昇進するとこの傾向は変わるのだろうか。

複数回の勝ち越し経験者が大勢。

 まだ1月と3月の2場所ではあるが、関脇と小結の勝率は5割を下回っている。勝ち越しているのは朝乃山以外だと、春場所の正代のみだ。同じ総当たりの地位でも、三役で勝ち越すことはとりわけ難しい。唯一の例外は御嶽海だろう。

 2019年初場所以降で、関脇以下で上位総当たりの地位で複数勝ち越しているのは貴景勝・朝乃山・御嶽海以外にも遠藤(4回)、北勝富士(4回)、大栄翔(4回)、阿炎(3回)、隠岐の海(2回)、正代(2回)、玉鷲(2回)がいる。

 この期間にこの地位の力士の43%が勝ち越しているのだ。1993年について見てみると、40%、2011年は41%という値が出ている。

 前者は貴ノ浪と武蔵丸に加えて安芸ノ島、貴闘力、琴錦といった実力者が顔を揃え、後者は琴奨菊と稀勢の里に加えて鶴竜、豪栄道、栃煌山、豊ノ島がいる。

 彼らのような実力者が関脇で勝ち越しを重ねることによって、次代の大相撲を牽引する存在へ成長していく。そういう“過渡期”に多く発生する現象と言える。

群雄割拠すぎて突出者が出ない。

 ただ、これだけ多くの力士が複数回勝ち越している事例は類がないので、見通しが立ちにくいのは事実だ。

 高いレベルで多くの力士が争い、小さな差で勝ち越しと負け越しが別れるからこそ、突き抜ける力士が現れない。更には速い相撲を取る力士が多いのでコンディションの影響が大きく、上位で地位をキープするためには長く好調を維持する必要がある。

 2019年は横綱が出場と休場を繰り返し、大関は怪我に苦しんだ。横綱と大関に同じ状況が続き、朝乃山が同じペースで勝ち続けたとしたら、上位陣が勝つ絶対数は減少することになるだろう。上位で勝ち越せる力を持つ力士がこれほど多い中で星勘定を考えれば、横綱大関にとっては厳しい状況になったと言えるだろう。

過去のデータにない異例の状況。

 本来であれば、次の大関候補が突き抜けておかしくない状況である。だが、実力者が多すぎることによって星の潰しあいを招き、横綱に後塵を拝する結果となっている。大関以下の実力差は縮まっているが、まだ横綱には及ばない。

 2020年は過去のデータに無い状況だ。

 その中で朝乃山が抜け出した。次は誰が抜け出すのか。まだまだこの状況が続くのか。

 まずはコロナ禍が落ち着き、5月場所が予定通り行われることを願いたい。

文=西尾克洋

photograph by Kyodo News