スケープゴートにされやすい立場なのだという。

 まだオランダが新型コロナ・ウイルスの脅威に晒されていなかった頃――。2月下旬に行われたエールディビジ第25節。ズウォーレの中山雄太は、フィテッセに逆転勝ちした試合結果に安堵しつつも、決して気を抜けないチーム内における自らの立場について話をした。

「残留争いのプレッシャーよりも、僕は日本人ですし、容易に代えられるところがあるので……どちらかというと個人的なプレッシャーの方があるかもしれないですね。もう、何かあるとすぐ代えられるので。監督からすると、代えやすい立ち位置ですし」

監督にとって印象の悪いミスをしてしまう……。

 この4−3と乱打戦になったフィテッセ戦で、4バックの左CBで出場した中山は「ミス」を犯してしまう。6分にPECズウォーレが、グスタヴォ・ハマーのゴールで先制した直後のことだった。

 敵のGKレムコ・パスフェールのロングキックを、左SBのケネト・パールが左足で触って落としたボールを、日本人CBは、そのまま味方のGKミヒャエル・ゼッテラーに戻そうとする。しかし、パスの勢いが弱かった。フィテッセのセンターFWティム・マタフスにプレゼントする格好になってしまい、同点に追い付かれてしまった。

 この中山の「パスミス」が、ヨン・ステーへマン監督にとって相当に印象が悪かったであろうことは想像に難くない。

 1−2と逆転されて前半を折り返すと、U-23日本代表DFは、45分間のプレーでベンチに退くことになった。後半が始まったピッチの上に、中山の姿はなかった。

「失点が全てだったと思います。パスミスです」

 それでも試合が終わった後の彼の表情が晴れやかだったのは、後半のアディショナルタイムに2ゴールが飛び交う打ち合いを制して、ズウォーレが劇的な勝利を収めたからでもある。

 もちろん自らのパフォーマンスに納得はしていない。

「今日の僕のプレーを振り返ると、失点が全てだったと思います。パスミスです。それで現に前半が終わった段階で替えられているので、僕自身しっかり反省しないといけないと思います。ただ、チームが勝ってくれたことで、気持ちを切り替えることができますね。勝ったことでポジティブに捉えることができますし、しっかりと反省して、また練習から頑張りたいなという風に思います」

 U-23日本代表の主将は、派手な打ち合いに終わったことでうやむやになりがちな“ミス”を決して忘れず、「教訓」として捉え、次の試合に向かって「ポジティブ」に進もうとしているようだった。

「僕自身は、ああいうミスが命取りになることは自分に言い聞かせて、集中しないといけない部分だと思うので、しっかりと今日のことを教訓にしています」

「今度はミスとして露呈してしまった」

 不意に犯した過ちは、後の個人の成長を促すのだろうか。例えば、2月16日に行われた第23節フェイエノールト戦でも、中山は、「ミス」から考えさせられるところがあったようだ。

 3−4とフィテッセ戦とは真逆の結果となった試合の後で、得られた教訓を日本人CBは「ミスなのにミスに見えていなかったものが、今度はミスとして露呈してしまった」と独特の言い回しで表現した。その意図を端的に言ってしまうと、中堅レベルの相手では何の問題もなかったプレーも、格上相手には通用せず、「ミスとして露呈してしまった」……といったところだろうか。

「ボールを取りに行かないといけない場面で、いつも行けているところがあと一歩、半歩足りなかったり、プレッシャーが掛かっているようで掛かっていないシーンがすごくありました。特にあの10番(ステフェン・ベルハイス)が(ペナルティ)アークあたりでシュートを打ったシーンは、枚数は足りていても寄せ切れていなかった。もちろんフェイエノールトの選手たちの個人の能力の高さはありましたけど、もうちょっと組織でボールを奪えるシーンを作り出さないと、あるいは、作りだせているんですけど、あと一歩寄せが足りないところは、特に今日はすごく感じましたね」

ミスをしても「恐れはない」。

 この雨中のフェイエノールト戦で、3バックの左CBとして出場した中山は、フィテッセ戦のような個人的かつ致命傷に至りかけた「ミス」を犯したわけではなかった。

 だがズウォーレはチームとして守備戦術が機能せず、オランダ代表にも名を連ねるベルハイスを自由にやらせてしまう。そこから、敵の主将に2ゴール1アシストの活躍を許していたのだ。

 強豪相手だと、普段出来ていたことが、通用しなくなってしまう。格上相手だと、それまで「ミスに見えていなかったものがミスとして露呈して」しまう……。

「相手云々よりも、自分たちがいつも出来ていることを継続できるかが、大切だと思いました。もちろん敗戦に対して落ち込んでいる選手もいましたし、僕自身も悔しいです。そこはでも、このフェイエノールト戦が次に繋がるような一戦になればと思います」

「ミス」は恐れるべき、敬遠すべきものなのだろうか。

 敗戦に直結しかねないあまりに明白な「ミス」を犯した選手は、時としてチーム内での居場所を完全に失う。

 だが、中山は「恐れはない」と言う。

「1つのミスで代えられる」

 新型コロナ・ウイルスの影響でエールディビジが中断に入る前の最後の試合となった、3月6日の第26節フォルトゥナ・シッタルト戦。前節フィテッセ戦の「パスミス」が響いたことで、後半70分からの途中出場となったが、中山は、きっぱりと言った。

「恐れはないですけど、(前節の失敗が)事実としてあると思います。その、事実として、1回のミスで代えられることはあると思います」

そして冗談交じりに、苦笑しながら言う。

「他の選手が10回ミスして代えられるところを、僕が1回のミスで代えられるところは、絶対にあると思います(笑)。それは、自分が文句を言おうと思えば言えるし、不満も言えますけど、でも結局は自分が原因で代えられている状況なので……そうですね、他人に左右されるのではなくて、自分自身にずっとフォーカス続けて生活しているので、そのスタンスは崩したくないと思います」

「練習からアピールするだけです」

 中山のような、他所の国からやってきた外国籍の選手は、いわば助っ人のような立ち位置。よってステーへマン監督の目も、オランダ人選手に向けるそれよりも、シビアなものになるのだろう。ある種、スケープゴートにされやすい立場でもある。

「だからこそ、僕は好調を維持し続けないといけない。それは自分の成長に繋がるし、成長を求め続けないと、代えられやすい立場はマイナスに働くので……この自分の抱えている問題によってまた成長できると捉えて、ポジティブに捉えながらやりたいと思います。じゃないとたぶん怪我にも繋がると思うので、そこは本当にこう……前向きに成長だけを考えてこれからもやっていきたいと思います」

 そして中山は、「1つのミスで代えられる」ヒリヒリするような立場でありながら、アグレッシブな姿勢を貫こうとしている。

「僕は試合に出れるように練習からアピールするだけです。ミスをしないようにしますけど、消極的になると、成長が止まってしまう。1つのミスで代えられることは分かるんですけど、そこはもう攻め、攻め、で行きたいなと思う。じゃないとこう……ズウォーレでは耐え凌げるかもしれないですけど、その先が見えなくなってしまうので、ミスを恐れず挑戦し続けたいなと思います」

「また来るべきチャンスに向けて準備を」

 だから、フィテッセ戦の後も、「ポジティブ」に前を向いて進もうとしたのだろう。

 もちろんチームが華々しい逆転勝ちを収めたこともあったが、犯した「パスミス」に囚われてふさぎ込んでばかりでは、中山の言うように「怪我」のリスクも増加し、負のスパイラルに陥ってしまう。

「結果的にミスで代えられたらしようがないって思っているので、また来るべきチャンスに向けて準備する。その意識で頑張ります」

 現在、エールディビジは新型コロナ・ウイルスの影響で中断中。中断の期間は4月6日までとなっているが、本当にその週からリーグ戦が再開されるかは不透明だ。

 しかし、無事今季の残りの試合が始まれば、中断期間中に思考を整理して英気を養った中山は、ズウォーレが1部残留を争う中で、再び果敢に「その先」を見据えた戦いを始めるに違いない。

文=本田千尋

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