2019年度(2019年4月1日〜2020年3月31日)、NumberWebで人気を集めたベスト記事セレクションを発表します。
 第10位はこちら!(初公開日:2019年7月10日)

 レジェンドは、どちらもご機嫌だった。

 取材2日前に、テクニカル・ディレクターを務める鹿島アントラーズがサンフレッチェ広島の猛攻を振り切り、ACLのベスト8進出。ジーコはエディオンスタジアム広島のスタンドで、胸を撫で下ろした。

「アントラーズの試合は、いつもスリリングで困ります。今回も本当にドキドキしました。心臓に良くない(笑)」

 取材前日に、古巣・浦和レッズが敵地で蔚山現代を圧倒し、こちらもACLベスト8へ。蔚山文殊フットボールスタジアムのスタンドで、ギド・ブッフバルトは胸を張った。

「レッズは今季のJリーグで、中位にいます。それでもKリーグ3位のチームに、アウェーで圧勝できる。この事実こそ、Jリーグのレベルが高い証拠です」

 6月27日、2人はドゥンガ、洪明甫とともに「Jリーググローバルアンバサダー」に就任した。今後はJリーグと海外の橋渡し役として、その魅力や価値を世界中に発信する役割を担う。

「日本のメッシ」はやめてほしい。

 ブラジルに戻ったときも、ドイツに住んでいても。2人は鹿島や浦和、Jリーグ全体にとどまらず、日本代表の動向も日々チェックしている。先日のコパ・アメリカでは、ゴール前の得点力不足には歯痒い思いをしながらも、日本の若い選手たちの高いポテンシャルに良い意味で驚かされたという。

 ならば、やはりあの選手についても聞きたい。こちらが「久保建英」の名前を出すと、2人は深く頷いた。

「素晴らしい選手だと思います。本当に素晴らしいプレーの連続を披露している。将来的には日本を引っ張る、日本サッカーのシンボルになると思いますから、とても楽しみです。

 ただし、彼はまだ若い。それなのに、強いプレッシャーを与えるのは、絶対に彼の将来のためにはなりません。悪影響を与える可能性もあります。だからこそ、『アジアのメッシ』とか『日本のメッシ』という呼び方や比較はやめてほしいと思います。こういう表現をすることについて、私は大反対です」(ジーコ)

ブッフバルトが評価する能力は?

「久保選手のタレントというのは、口を挟む必要がないほど素晴らしいものを持っている。例えばドリブルは他の選手が持っていない武器だと思いますし、サッカーインテリジェンスも優れている。

 ボールを持ったときには、どの位置に置けば奪われないかをわかっていますし、ボールを受けるときには、どこのスペースに動けばいいかという感覚を備えている。すべてを理解している選手ですね」(ブッフバルト)

 ブラジルの“神様”から見ても、ドイツの“城壁”から見ても、久保の技術・センスに疑いの余地はない。ただし、18歳でFC東京からスペインのレアル・マドリーへ移った決断については、2人とも表情を曇らせる。

マドリー移籍はあまり賛成しない。

 ブッフバルトが心配するのが、試合勘についてだ。

「個人的には、レアル・マドリーを選んだことにはあまり賛成していません。なぜなら選手にとって、最も大事なのは試合に出ることだからです。1年目はスペイン3部リーグでプレーするようですが、レアルのトップチームともなれば、コンスタントに試合に出ることは、なかなか難しい。

 特に若い選手が移籍先を選ぶ際は、試合に出られるクラブを選ぶことが重要です。毎週、異なる環境で、異なる相手との試合を経験することで、練習とは比較にならないほど多くのものを学ぶことができるからです。

 例えば久保選手がどうしてもスペインでプレーしたいのならば、バレンシアやセビージャ(のような中堅クラブ)への移籍という選択肢もあったのではないでしょうか」

 久保に限らず、20歳前後でヨーロッパへ移籍する日本人選手が、ここ1、2年で急速に増えている。ジーコは近年のブラジルを例に、代表チームへの影響を指摘する。

ブラジルで今起きている懸念とは。

「若い選手がすぐにヨーロッパへ移籍する。今、日本で起きている現象と同じことが、実はブラジルでも数年前から起きています。例えばカゼミーロ(レアル・マドリー)、ルーカス・モウラ(トッテナム)、ダビド・ネレス(アヤックス)などです。

 正直に言えば、これは良くない状況だと思います。選手が未熟なまま、自国のサッカーの特徴を理解しないままヨーロッパでプレーを始める。将来、その選手たちが成功して代表チームに呼ばれたとき、ブラジルサッカーの特徴を知らないために、ブラジルの良さがだんだんと消滅してしまっていく。これと同じ状況が、日本サッカーでも起きるんじゃないかと心配しています」

現代の選手はドリブルが少ない。

「私が現役の頃は、ヨーロッパへ行くのは23〜28歳のころが理想的だと思われていました。ところが現代の移籍市場では、23歳以上の選手はあまり価値がないかのように扱われてしまう。だから、できるだけ若いうちに移籍しようとする。この流れも、良くないと思います。私は、ある程度の経験を積んでから移籍したほうが、選手自身のためになるのではないかと考えています。

 選手個々のプレースタイルの変化も気になります。現代の選手はドリブルが少なく、すぐにパスのことを考える。個人技を重視する選手の数が減っているように感じます。頭の中が、“できるだけ早く味方にパスをしよう”という考え方でいっぱいで、ある意味、ロボットのように動いてしまう。これも良くないと思います」

 日本サッカーとJリーグを愛するからこそ、レジェンドたちが伝える不安と危機感。これが、“おじさまたちの杞憂”に終わるかどうかは、欧州へ渡る決断をする若者たちの覚悟と成長次第である。

文=松本宣昭

photograph by J.LEAGUE