2019年度(2019年4月1日〜2020年3月31日)、NumberWebで人気を集めたベスト記事セレクションを発表します。
 第6位はこちら!(初公開日:2019年7月3日)

 イビチャ・オシムに日本対エクアドル戦の話を聞いたのは、試合の翌々日だった。初戦のチリ戦は見たが、日本が引き分けたウルグアイ戦は見ることができなかったオシムは、やはり引き分けに終わり準々決勝進出を逃したエクアドル戦を高く評価している。いったいオシムは、エクアドル戦に何を見たのか。コパ・アメリカでオシムが見出した日本の真実とは何であったのか。オシムが語った。

16番は期待以上の優れた逸材だ。

――元気ですか?

「ああ、君はどうだ?」

――元気ですが、パリはすごく暑いです。

「この季節に雪は降らないからな(笑)。女子の試合(ワールドカップ・ラウンド16の日本対オランダ戦。ちなみにオシムは日本対イングランド戦はテレビで見ている)は見られなかったが、男子の試合(日本対エクアドル戦)は見た。技術的には悪くなかった。チームが試合を重ねるごとに進化しているのはわかるし、見ていて楽しいチームでもある。しかしこういうプレーをしていたら常にミスがつきまとう。16番の選手は名前を何というのか?」

――冨安健洋です。若い選手です。

「どこでプレーをしているのか?」

――シント・トロイデン、ベルギーのチームです。

「10番(中島翔哉)はどこの所属だ?」

――カタールのクラブです。以前はポルトガルでしたが今はカタールです。

「積極的に仕掛けていたのは良かったがボールを失い過ぎてもいた。仕掛けてはミスを繰り返し、ひとりでプレーしていた。そういう選手なのだろうと思うし、ゴールチャンスも作り出せるのだろうがひとりでは難しい。スピードと俊敏さに秀でているものの小柄で相手をかわし切れず、何度も単独で攻撃を繰り返しボールを失い続けた。

 後方は16番をはじめこれから伸びていきそうな選手が多かった。特に16番は体格に恵まれプレーをよく知っている。(日本人選手全般に)期待していた以上の優れた逸材だ。周囲との連携が申し分なく戦いにも強くボールをよく奪う。

 守備は全員が本当によくやっていた。前線の選手まで含めてしっかりと仕事をこなしていた。それだけで3〜4歩の前進だ。もっとかも知れない。エクアドルはそれだけ手強い相手であるからだ。技術も体格もスピードもある。日本はそんな相手に勇気をもって対峙し、最後まで自分たちのプレーを貫こうとした。

 勝利に結びつかなかったのは、終盤に作った少なくとも2度のゴールチャンスを決められなかったからだ。ただそれを批判しても仕方がない。試合の内容はそこまで悪いわけではなく、むしろ良くやったと言えるからだ。特にフィジカル面で自分たちより優れている相手に対して、運動能力でもサッカーの面でも彼らは果敢にトライした。勇気をもって日本は戦いを挑んだ」

10番を手放しで褒めるのは危険。

――その点に関しては、3試合を通じて一貫していたと思います。

「コレクティブについてもう少し考えることから始めたほうがいいかも知れない。あなた方ジャーナリストもスターを持ち上げる傾向がある。10番の選手を手放しで褒めちぎるのは、その後の手のひら返しに繋がる危険性がある。彼が見せたプレーは悪くはないが、プレイメイカーとしてはコレクティブとはいえなかった。

 すでに述べたように彼はよくボールを失い、チームは危険な状況に陥った。全体が前がかりになったときに失えば、組織を作り直すのは簡単ではない。エクアドルは彼が簡単に崩せる相手ではなかった。屈強な体格で強い脚を持ち、鋭いタックルを仕掛けよく走って危険な状態になる前にボールを奪おうとした。

 もちろん彼に独特の感覚があり、ひとりで何かをやることができる選手であるのはわかる。それだけのキープ力が彼にはある。欠けているのはラストパスを出す能力だ。しばしば彼はラストパスを出すべき相手にパスを送らなかった。周囲の選手たちも彼のパスを待っていたが、ボールをキープしすぎた。100%の力を出し切ってプレーしていたのはわかるが、彼がきちんとパスを出していたら日本は多くのチャンスを得て、試合の結果も異なっていただろう。ちょっと残念だ。

 それから16番は、見るのはほぼ初めてだがここ最近で凄く進歩したのではないか。さっきも聞いたが所属はどこだ?」

「冨安はどこか他の国で育ったのか?」

――ベルギーのシント・トロイデンです。

「彼はそこで多くを学んだハズだ。本物のリベロとして見事にプレーしていた。よく攻めあがったし、パスの能力も高く、守備でもよくやっていた」

――まだとても若いです。

「チームの大きな力になるし、他の選手に保障を与える。16番のような選手は、プレーをよく知っているしボールをよくキープして正確にプレーができる。とりわけ守備が素晴らしい。エレガントだ。ひとりでボールを扱えるし空中戦も強い。彼のような選手をどこで見つけたのか? 日本には多くの選手がいるが、彼のようなタイプは少ない。日本で見つけたのか、それともどこか他の国で育ったのか?」

盾になったGK川島も進歩した。

――日本で育ちました。

「日本人だったのが幸運だった(笑)。いい選手がいいポジションに嵌った。空中戦も強く、ボールをキープして攻撃に転じるべきときには確かな技術で着実にプレーしている。今日のサッカーはそんな風に後ろからプレーを構築していくべきだが、それができる選手がいなければ難しい。彼がどこにいるのか全然知らなかったが大きく進歩したのは間違いない。最先端のサッカーに触れることが進化を促した。

 後ろはあまり問題ない。全体に安定している。しかし前はあの小柄な選手(中島)がちょっとやり過ぎているかも知れない。自分のプレーをチームの中に加えすぎている。もう少しシンプルにプレーしたほうが全体に良くなる。それには彼がもっと自分を抑えないと。技術的に素晴らしくよく走るが、こうしたほうがいいと誰かが彼に言うべきで、ビデオを見せるのもいい。ボールを持ちすぎて余計なタックルを受けていることを指摘する。そんなシーンが多すぎる。彼のような個の強い選手がコレクティブになったらこれ以上の強さはない。ひとりでプレーする選手は必要ない。

 もちろんどんなチームも彼のような選手を求めているのは分かっている。個の力で数的優位を作るのと同じことができる選手だ。それが優れた選手であるわけで、彼には今のレベルのままに留まってほしくない。今のプレーも素晴らしいし、様々なことができる才能があるが、ひとりでプレーする傾向が少し強すぎるから、いい方向に導いていく必要がある。常にひとりでやろうとしてはいけないと誰かが言うべきだ。

 それからGK(川島永嗣)も進歩したな(笑)。チームの盾になったし、貴重な存在でもあった。守備の最後の保障で、他の選手たちが彼のおかげで容易に守ることができた」

――ベテランらしい安定感を見せました。

「皆さんによろしく言ってくれ。そしてこのままの方向で仕事を続けることを。そうすれば私も安心して見ていられる。とりわけボールを持ったときのプレーに関して。ときに見てしまい、もっと速く前に運んだほうがいいときもあるが、そこまで望むのはちょっと望みすぎかもしれない。すべてが理想的にできるわけではない。

 全体として悪くない。大きな前進を遂げたし、チームの進歩を感じた。さらに高いレベルに達するには、コンビネーションの精度をあげプレーの質を高めていくことだ。今は自分たちの望むようにボールをキープし、高い技術力でプレーを展開しようとしている」

戦い走る日本のプレーに驚いた。

――最初の2試合(チリ戦とウルグアイ戦)と比べても、そこは少し変わったかも知れません。

「だからこそ注意すべきは、選手たちを特別扱いしないことだ。そこから手のひらを返すのはさらに良くない。彼らはまだスターでも何でもない。それよりもボールをどうしたらうまく前に運べるのか。それこそが突き詰めていくべきことだ。

 前線に関してはちょっと残念で、16番のような選手がトップにも必要だ。勇気があって戦いを厭わず、ゴールを切り開いていける選手だ。

 昨日の試合が厳しかったのは、エクアドルがやっかいな相手だったからだ。彼らもまた日本のようにプレーしようとし、フィジカルも技術も申し分なく勇気をもって攻撃を仕掛けてきた。よく走り戦うチームで、あれだけ体格の差があると、彼らもやるべきことをすべてしていたから、プレーをコントロールするのは難しい。日本は対応に苦慮した。

 日本はFIFAランキングで28位まで上昇したが、それでもこうした大会から学ぶことはまだたくさんある。これだけのパフォーマンスを見せたのはすでに大きな進歩だ。コンビネーションを発揮してゴールへの意欲を見せた。フィジカル面も素晴らしかったのが私には驚きだった。そのうえ何も恐れずに、勇気をもって戦いに挑んだ。簡単なことではない。このままずっと続けていくべきだ。ただしGKに関しては……」

――川島はもう若くはないですから……。

「誰か別の選手を探す必要がある。サイドにしてもかつての加地(亮)や駒野(友一)のように、オーバーラップを繰り返して攻撃に加われる選手がいたほうがいい。攻撃の厚みが全然違ってくる。彼らにはスピードもあり、ほぼ完ぺきであるといえた。対外的にはほとんど知られてはいなかったが、私はふたりに満足していた。

 だが10番はひとりきりだ。これからどうなるのか注目しよう。すぐに劇的に変わることはできない。時間は必要だ。

 しかし私は本当に驚いた。試合を見たときにこれが日本とはとても信じられなかった」

――本当ですか(笑)。

「あれだけ戦い走るのは日本のイメージではない。チームはこれからより確実なものになっていく。そうなるまでにそう時間はかからないだろう。

 しかしコレクティブであるべきなのは忘れてはならない。他のどの要素よりも重要で、昨日の10番のプレーは、私にその重要性を改めて認識させた。

 前にはタレントがいて後ろには16番のような能力の高い選手がいる。このまま仕事を続けるべきで、すべてに関して抜かりなく努力する。足元の技術をより確実にし、決して簡単にはボールを失わない。サッカーはその方向に進化しているからだ。どれだけ着実かつ迅速にボールをコントロールできるか。パスの精度をどれだけ高められるか。

 とにかくこの大会の日本を見ることができたのは、私には大きな喜びだった」

日本は適切な進化の過程にいる。

――そういってもらえると嬉しいです。来年の五輪にはほぼこのチームがベースとなって臨むと思いますが……。

「他の試合(ウルグアイ戦)は見ることができなかったが、本当に素晴らしい進歩だ。問題はこの雰囲気を維持しながら、どうやってコレクティブな方向に進歩を続けていくかだ」

――この選手たちで五輪に臨むことになるでしょうが……。

「今日はどんな試合があるのか?」

――アフリカネーションズカップだけです。

「皆さんによろしく伝えてくれ。それからおめでとうとも」

――わかりました。ひとつ質問していいですか? 日本は何を進化させていけばいいのでしょう。

「ボールを持ったときのプレーをさらに進化させていく。簡単にボールを失うことなく、技術をより確実にして、よりアグレッシブにプレーを展開する。あらゆるプレーの局面でより危険な存在になるようにする。CKやFKなどのセットプレーでもゴールを奪えるようにする。その方向でトライしていくべきだ。

 これからは対戦相手も日本を危険な存在と認識するだろう。ここで得た進歩をこれから生かしていくべきだ。日本がこれだけアグレッシブかつ着実にプレーするのを見ることはほとんどなかった。驚いたし、嬉しかった」

――次の試合がとても大事になります。

「あまり大きな期待はしないことだ。チリやブラジル、アルゼンチンらと戦うことでエクアドルも大きく進歩した。日本もそうした相手との対戦からポジティブな進化を引き出していく。昨日私が見たのは、あなた方が適切な進化の過程にいるということだった。

 オーケイ。サリュ」

――メルシー、イバン。

文=田村修一

photograph by Getty Images