球場メシを「おうちごはん」に!

 ホークスがなかなか面白いアイデアを形にしてくれた。4月23日よりフードデリバリーサービスUber Eatsにて、福岡PayPayドームの場内で販売提供するグルメのデリバリーを開始したのだ。

 スタート時点での対象メニューはドーム内コンコースに店舗を構える「ホークスカフェ」で販売されているものに限られているが、「高橋礼麺」や「松田選手のアンガスサーロインステーキ丼」などの選手プロデュースメニューがラインナップされている。

「周東選手のSHUTOカルボナーラ」と「上林選手のバヤシライス」は本来ならば今シーズンの新メニューとしてお披露目されるはずだったが、デリバリーでの先行販売でひと足先に舌鼓を打つことができるようになった。

 野球でメシを食うのが選手たちならば、球場でメシを食うのはファンだ。その日常が失われている今、少しでもプロ野球やホークスを身近に感じてもらおうという願いが込められた施策になっている。

1年の3分の2は食べられない。

 また、これはプロ野球ビジネスの観点から考察しても非常に興味深い。

 Uber Eatsとプロ野球がタッグを組んだ日本初の事例になった。昨今の社会情勢にいかにもマッチした取り組みに映るが、じつはホークス球団としては5、6年前から温めていたプランだった。仕掛け人のリーシング室の大山隆太室長は次のように語る。

「球場内飲食は原則試合日にしかお楽しみいただけないのが通常でした。つまり公式戦のホーム試合ならば最大で72試合。それ以外にオープン戦やクライマックスシリーズ、日本シリーズを含めても年間の3分の1にも満たない日数です。これをどうにかできないかと考えたところが始まりでした」

ホークスカフェの厚い信頼関係。

 ならば、単純に球団としてデリバリーに従事する従業員(アルバイト)を雇えばいいのかといえば、そんな単純な問題ではなかった。

「ドーム内のコンコースには数多くの飲食店が並んでいますが、そもそもホークスが直営する店舗は1つもないのです。ドームでの営業は業務委託ではなくテナントの直営です。試合日以外にデリバリーサービスを行うためには、テナント様に追加業務をお願いしなくてはならなかった。つまり実現には固定費がかかるということです」

 難題だった。しかし、この事業に賛同してくれたのがPayPayドームでホークスカフェを運営するロイヤルホールディングス株式会社だった。

「ロイヤル様とホークスは15年以上ものお付き合いをさせていただいており、飲食事業だけでなく、ビジネス面でも上層部同士が良い関係を構築してくれたおかげで話を進めることができました」

 現在、PayPayドームで実施されている、飲食店の客列導線確保(パーテーションの設置)やビッグサイズ・飲み放題メニューの開発(1リットルのリユースカップ)、メニューボード(コルトン)のLED化などは、ホークスが行ったMLB視察にロイヤルの担当者が同行して一緒に形作ったという実績も過去に築いていた。

いずれは市中のレストランから配送?

 そして2018年11月にUber Eatsが福岡に進出したことが転機となって、この計画が大きく推し進められることになり、2020年4月にようやく日の目を見ることになったのだ。

 現在はドーム内の店舗で調理をして配達するために宅配エリアはどうしても限られてしまう。だが、もしこれが大好評になり、ロイヤルがさらに本気を出せば市中で経営しているレストランを拠点にして、そこから様々な地域にホークスの球場グルメを届けることも可能になるかもしれない。

ホークスのお弁当は賞を取るレベルで美味しい。

 しかし、ファンといえども球場グルメをわざわざ自宅で食べたいと思うのか。そんな疑問を抱きたくなるのもよく分かる。観戦の際に球場内飲食持ち込み禁止とチケットに記載されていても、スーパーやコンビニに立ち寄ってから向かうのもファン心理だ。

 だって、球場の飲食って高いわりにそんなに美味しくないじゃないか……。

 高かろう、悪かろう。だが、ホークスはそのイメージを払拭するための施策もすでに行い、そして結果を出してきた。

 2017年の「FABEX主催 惣菜・べんとうグランプリ」で松田宣浩がプロデュースした「マッチ5和牛焼きすき弁当」が入選を果たしたのだ。同グランプリは飲食業界では最も格式高いとされており、1202品が出品した中の入選72品(その他金賞18品、優秀賞32品)に松田の弁当は選ばれた。これも手掛けた大山室長は「プロ野球界はもちろん、プロスポーツ界で例のない事のはず」と興奮気味に話していた。

「球場グルメも魅力的な商品はたくさんあります。たとえばデパートの催事でも販売されるようなお弁当と同じ舞台で競って認められることで、世間一般にも評価されるものにしたかったんです」

 2019年の同グランプリではドームで販売した「A5ランク宮崎牛贅沢肉弁当」がプレミア部門でついに金賞を受賞した。スポーツ業界からの金賞受賞は史上初となった。

ユニフォーム配布の次は飲食?

 大山室長は言う。

「2004年、当時まだダイエーでしたが、ホークスが来場者全員にレプリカユニフォームを配布するイベント試合を初めて行いました(「白の奇跡」。翌年から「鷹の祭典」と改称)。この手法は他球団ならびに競技の垣根を越えて拡がり、集客におけるキラーコンテンツとなりました。

 しかし、もう15年以上が経ちました。新たなものを探さないといけません。そこの答えが飲食なのでは、とも考えています。ファンの方はもちろん野球を目当てに足を運ばれるのですが、あれを食べにドームに行こうよという1つのきっかけになるのではないかと期待をしています。それにお応えできるような商品やサービスを我々はもっと生み出していかないといけないのです」

放映権頼みから、次の時代へ。

 巨人頼みで、放映権が主だったプロ野球ビジネスは20世紀の話だ。現在はスタジアムビジネスに移行をしている。

 ホークスでは店舗の入れ替え、選手メニューのテコ入れ、ビール売り子のブランディングを柱に積極的な挑戦をした結果、飲食売り上げは2013年当時に比べて2019年は約9億円も増加した。ビールひとつを見ても、世間でビール離れが進む中で右肩上がりに売上杯数を伸ばし、昨シーズンはついに初の100万杯突破を果たした。

「球団に従事する者として売上を伸ばすためとの使命はありますが、お客様であり野球ファンの皆様に喜んでもらいたい、満足してもらいたいという願いはもちろんあります。今回のフードデリバリーも、プロ野球を楽しめないファンの皆様が少しでも球場のリアルを手に取って感じていただければという思いで始動をしました。

 ただ、やはり1日も早くいつも通りのプロ野球が開幕してほしいというのが本音です。満員のドームでお客様をおもてなし出来る日を待ち遠しく思っています」

 球場でメシを食いながらプロ野球を楽しめる日が少しでも早く戻るように、今はもう少し辛抱する時だ。

文=田尻耕太郎

photograph by Sports Graphic Number