昨年、新人として史上初めて交流戦の首位打者に輝いたオリックスの中川圭太は、2年目も順調に滑り出そうとしていた。

 3月14日の阪神とのオープン戦で放った逆転の2点本塁打は、プロで初めてのライトスタンドへの本塁打だった。中川は、「打感が抜けたような初めての感覚でした」とコメントした。

 球界の大先輩から得た金言を、中川なりに理解し、自分の中に落とし込もうとしている過程で突然舞い降りた快打。翌日、こう語っていた。

「何が起こったのかわからなかった。『どうやって打ったっけ?』みたいな感じなので、昨日のはたまたまです。ただ、今やっていることは間違いじゃないんだな、ということはわかりました」

「内川さんは右バッターの憧れ」

 中川は質問魔だ。昨夏、ルーキーだった中川は、ヤフオクドームでの試合前練習中、ソフトバンクの内川聖一のもとに歩み寄り、打撃について質問した。

 中川は学生時代から、内川の打撃を参考にしてきたという。

「内川さんは右バッターの憧れですね。僕が求めている右バッターの理想。普通に引っ張って軽々とスタンドインするのに、簡単に右方向にもヒットを打てて、アベレージもすごく高い。天才的なバッティングなので、いつも見て、勉強させてもらっています」

 プロ19年目、14歳年上の憧れの大ベテランに、ルーキーが直接質問をしにいくという大胆な行動。しかし中川は、当然のことのようにこう言う。

「結果を残されている方に聞くのが一番早いと思うので。勇気はいりますけど、やっぱりいろんな人の感覚や話を聞かないと、わからないこともありますから。そこはもう、思い切って、聞かせてもらいました」

変わった感覚、ライナー性の打球。

 ルーキーの突然の質問にも、内川は快く答えてくれた。何度かやり取りする中で、中川はヒントを見つけた。

「右半身は(ボールに)向かって行く、左半身は戻る、その両方の力をボンッと合わせることで、強い打球がいく」というイメージだと中川は解釈した。

 オフの期間は1人で自主トレを行い、その感覚を実現するためにひたすらバットを振った。

「1球1球、“今のは違う”とか“あ、これかな?”、“あ、でもこっちのほうがいいな”というふうに、いろんな感覚が出てきました」

 感覚が研ぎ澄まされていき、徐々に「あ、これかな」という打球が増えていった。見た目のフォームに大きな変化はないが、中川自身の感覚は大きく変わったという。

 2月のキャンプでは、「すごく力が伝わっているようなライナーの飛び方をするようになりました。あとは実戦でマッチするかどうか」と語っていた。

坂本には「逆方向」へのヒントを。

 中川は今年、逆方向への安打を意識している。

「そういうバッターのほうが、たぶん相手からすれば怖いと思う。簡単に外のまっすぐは投げづらいと思うので」

 そこで、3月のオープン戦では、巨人の坂本勇人のもとにも質問に行き、そこでもヒントを得た。

「坂本さんにも、ずっと学生の頃から憧れを持っていました。僕の中では結構引っ張りのイメージがあったんですが、実際には右方向にも思い通りの打球を打っている。それは僕も心がけるところなので、どういう感じで打っているのかというのを聞きたくて」

 内川のアドバイスを元にオフシーズンに積み重ねてきたものと、坂本から得たヒントを取り入れた結果が、冒頭の、ライトスタンドへの「初めての打感」につながった。

 内川、坂本の他にも、昨年は浅村栄斗、鈴木大地(楽天)、近藤健介(日本ハム)にも質問をしに行ったという。そうそうたるメンバーだ。

「人によって感覚は違うので、『そういう感じで打ってるんや!』みたいな発見があって、話を聞いていて面白いんです」と中川は言う。

必要なものを選別できる頭の良さ。

 ただ、実績のある選手のやり方だからといって、なんでもかんでも取り入れようとはしないところが、中川のクレバーさだ。

 その時の自分に必要なものを選別して取り入れ、それ以外のものは大事に引き出しにしまっておく。

「その時の自分の体の状態などによって、合わないものも、いずれ必要になることがあるかもしれませんから、頭の片隅に置いておきます」

 貪欲に技術を追求する中川は、2年目も着実に進化を続ける。

 昨年は4月下旬に一軍デビューし、交流戦で.386という高打率を残し首位打者を獲得したが、夏場に調子を落とし、惜しくも規定打席には届かず、打率も.288にとどまった。今年は、規定打席到達と打率3割を目標に掲げる。ポジション争いの中、オープン戦では三塁のスタメンに固定され.318の打率を残した。

 新型コロナウイルスの影響でまだ開幕は見えないが、この間も、中川は黙々と感覚を研ぎ澄ませていることだろう。

文=米虫紀子

photograph by Kyodo News