「『今夏、シカゴでの野球(開催)を想像できるか?』には『イエス』、『観客は?』には『たぶん、ノー』と答えます」(シカゴ市長ロリ・ライトフット)

 世界でもっとも多くの新型コロナウイルス発症者を出しているアメリカ合衆国のトランプ大統領が4月16日、定例会見で「今後の経済活動再開に向けての段階的ガイドライン」を発表した際に各州で再開を求める抗議行動が起き、その動きを敏感に察知した各自治体が、独自の判断で動き出している。

 それから10日あまりしか経たない28日、米メディアでメジャーリーグ(MLB)にはアメリカン、ナショナル両リーグの東、中、西の各地区をそれぞれ地区同士で併合して、今年限定の「1リーグ3地区」に再編する案があると報じられた(ナ・リーグ東地区のブレーブスと中地区のパイレーツだけが入れ替わっている)。

 MLBは6月下旬、7月2日までに開幕することを目標としているそうで、その数週間前(6月上旬から?)に準備期間のミニ・キャンプを設けて、開幕に向けて再調整するそうだ。

選手の反応は芳しくないが……。

 今回報道された「1リーグ3地区制」は、すでにMLBで協議されてきた

(1)感染者数の少ないアリゾナ州に全30球団を集めて公式戦を行う。

(2)アリゾナ州とフロリダ州の2か所開催。

(3)アリゾナ州とフロリダ州とテキサス州の3カ所開催。

 などの「地域限定」開催が基本になっている。

 それは感染拡大の防止のために移動のリスクを最小限に抑えることを念頭に置いてのアイディアだが、「キャンプ地開催」が報じられた直後、クレイトン・カーショウ投手(ドジャース)が地元紙に「4カ月も自宅を離れて野球をするなんて、考えられない」と語るなど、選手たちの反応は芳しくなかった。

移動距離を縮めることでリスクをへらす。

 キャンプ地別にフロリダ州のグレープフルーツ・リーグ、アリゾナ州のカクタス(サボテン)・リーグに分かれての「今年限定のリーグ再編」は興味深いが、感染拡大の防止に移動のリスクを最小限に抑えることと、選手たちが「シーズンの半分は家から職場(球場)に通う」ことを両立させるには、「1リーグ3地区制」が理に適っている。

 もともと、MLBは日本プロ野球のように公共の交通機関を使用するわけではなく、飛行機もバスも電車もチャーター便なので、普通の旅行客に比べて移動のリスクは少ない。

 裏方さんを含むチーム全員と、彼らが移動の際に接触する可能性の高い飛行機の添乗員や運転手、クラブハウスの警備員、あるいは遠征先のホテルの従業員といった人々の日常的な検査を徹底できるのなら、そのリスクはさらに少なくなるだろう。

同じ都市なのにリーグが違うチーム。

 そして何よりも、1つの都市や地域にア・リーグとナ・リーグの2球団が同居しているシカゴやサンフランシスコ(オークランド)、ロサンゼルスなどはリーグの垣根を取ることで間違いなく、「移動のリスク」が減る。

 次に(異なる地区との交流戦が皆無という前提だが)ニューヨークからシカゴ、シカゴからロサンゼルスといった長距離移動で、チーム関係者が飛行機の中に3時間も4時間も閉じ込められることもなくなる。

 同じ東地区のニューヨークとフィラデルフィア間、フィラデルフィアとボルティモア、ワシントンDC間はそれぞれ電車で2時間以内だし、ボストンとニューヨーク間も飛行機なら1時間前後で済む。

 大谷翔平選手が所属する西地区のエンゼルスも、チーム名はロサンゼルスとなっているものの、実際の本拠地は同都市の南部アナハイムにあるので、パドレスの本拠地サンディエゴまではバスで1時間半ぐらいで往復できる。他球団もロサンゼルスで2シリーズ戦った後にサンディエゴで1シリーズ戦うというような予定を組めれば、移動のリスクはさらに減らせるわけだ。

1リーグ5地区、という方法も?

 選手たちは遠征先では外出自粛となるだろうし、精神的なストレスは少なからずあるだろう。しかしホテルに来るファンやサイン売買のコレクターとの接触を規制できれば、「1リーグ3地区制」はとても有効に思える。

 もちろんアメリカは、西へ行けば行くほど州間の移動距離が増えるので、北西部にポツンとあるシアトルや、ロッキー山脈の中にあるコロラドなどの遠征には「同都市対決」や「隣接都市対決」よりも長い移動時間が待っている。

 それは南部のアトランタや、フロリダを拠点とするマイアミ、タンパなどへの遠征も同じで、そのリスクを重視するならば「1リーグ3地区制」ではなく、思い切って「1リーグ5地区制」にするしかない(4地区だと球団数が合わなくなって交流戦の必要性が生じる)。たとえば、こんな分け方になる。

 東地区6球団 レッドソックス、ヤンキース、メッツ、フィリーズ、オリオールズ、ナショナルズ

 北地区6球団 ブルージェイズ、タイガース、インディアンス、レッズ、パイレーツ、ツインズ

 中地区6球団 ブルワーズ、カブス、ホワイトソックス、カージナルス、ロイヤルズ、ブレーブス

 南地区6球団 マーリンズ、レイズ、ロッキーズ、ダイヤモンドバックス、レンジャーズ、アストロズ、

 西地区6球団 マリナーズ、ジャイアンツ、アスレチックス、ドジャース、エンゼルス、パドレス

「常に新しいアイディアを出している」

 単純に「公平な移動距離」を前提とすれば、ブルワーズとツインズは入れ替えるべきだろうが、前述のようにシカゴとブルワーズの本拠地ミルウォーキーの位置関係を考えれば、それだけで3球団にメリットがある。

 しかも、これなら本来は西海岸と2時間も時差がある中部時間ゾーンに本拠地を置くテキサス州の2球団(レンジャーズとアストロズ)が、アリゾナ遠征以外は時差1時間圏内に留まれる移動時間の短縮メリットがある。同時に西地区の各球団にとっても、「テキサス遠征」がなくなるだけで遠征の負担はかなり少なくなる。

 もちろん、これはあくまで空想の世界に過ぎない。だが、前出の米報道では「様々なケースを想定して、常に新しいアイディアを出している」そうなので、もしかしたら、表に出ていないだけで、すでに協議されているかも知れない。

「進む力」こそがアメリカの本質。

 いまだに発症者が途絶えず、ワクチンも開発されない中でMLBが「見切り発車」するのなら、それが「1リーグ3地区制」になるにしろ、私的な空想上の「1リーグ5地区制」になるにしろ、感染防止のために何らかの対処は必要だし、そうでなければ社会の支持は得られない。

 疫病の専門家の方々にとっては、バスや電車での遠征が必ずしも、飛行機での遠征より「移動のリスク」を軽減できるとは言えないかも知れない。合衆国の各自治体が経済活動を再開することにも、明確に反対する声も挙がっているのだが、そう言う世評も「とりあえず、やってみるか」で再開した結果、感染者が爆発的に増加しなければ、一気に少数派となって聞こえなくなるのが常だ。

 今回のパンデミックは例外だとしても、2009年にも新型インフルエンザで国家非常事態宣言が出たことはあったし、疫病だろうが、テロだろうが、自然災害だろうが、前に進むことに関してはとにかく、力強さを誇示するのが合衆国というものだ。

 今はまだ確定ではないMLBの「見切り発車」も、そういう世間の風に漂っており、それは今、ゆるやかな「追い風」に乗り始めたようだ。

文=ナガオ勝司

photograph by AFLO