「やべっちF.C.〜日本サッカー応援宣言〜」は、スタートした2002年以来、独特の視点や多彩な企画で多くのファン、そしてクラブと選手に支えられている。11年前から番組に携わり、現番組プロデューサーの中野達朗氏は、その頃から今に至る中で番組の成長を感じているという。

――11年前と今現在では番組の成長をどう感じていますか。

「今、僕は42歳なんですけど、年を追うごとに僕らより上の世代から小学生まで幅広く、多くの方に見てもらえる番組になったと思います。実際、友人から『息子が見ているよ』とか、うちの姉が高校の教師をしているんですが、『生徒が見ているよ』とか言ってくれるんですよ。

 深夜番組なので、リアルタイムで見ていない小学生とかは録画して見てもらっているようで、そういう声を聞くとすごくうれしいですね」

女性ファンを掴んだ「デジっち」。

――サッカー番組の視聴者はサッカー好きな人に限定されがちですが、「やべっちF.C.」が幅広い層を取り込めている要因は何だと思っていますか。

「長い目で言えば矢部さんの力が大きいと思います。あとここ10年、女性の層を含めより幅広い層に見てもらえるようになったのは、『デジっち』の影響が大きいと思いますね。

 女性のツイッタ―には『デジっち、よかった』『知らない選手だけど見ていて面白かった』という声が多かった。『デジっち』を通してスポーツをしていない人、サッカーをしていない人を取り込んで、番組のファンを増やしていくことができたと思います」

――「デジっち」の放送時とシーズン中では視聴率に差が出たりするのですか。

「『デジっち』をやっている時の方が数字がいいことがけっこうありますね。『やべっちF.C.』の前番組は『関ジャム完全燃SHOW』というジャニーズの番組なんですけど(一部地域を除く)、『デジっち』がある時はその流れで女性が残って見てくれていました。ただ、試合がドーンと最初から始まる時期になると、『あれ?』みたいな数字になってしまうこともある。本末転倒なんですけど、『デジっち』はサッカーを知らない女性には刺さる企画なんでしょうね」

他番組はライバルではあるけれど。

――試合がある時は、逆にどんな工夫をしていますか。

「試合のダイジェストを流して解説するだけではおもしろくないので、ミックスゾーンで得点を取った選手にゴールシーンのVTRを見て、解説してもらう『解説するっち』ですとか、選手が選手にインタビューする企画をしています。必ず自分たちらしい番組の企画をひとつ入れるようにしています」

 サッカー番組は、地上波放送、衛星放送、インターネット放送等でいろんな番組が放送されている。国内外の試合の放送が主であるが、「やべっちF.C.」のように独特の視点で作っている番組もいくつかある。

――「スーパーサッカー」や「FOOT×BRAIN」などはライバルとして見ていますか?

「ライバルとして意識していないと言えば嘘になります。やっぱり、どんなことをやっているのか気になりますし、『こんなことやるんだ』と驚くこともあります。

 ただ、偶然なのかどうか分からないですが、それぞれ方向性が違うじゃないですか。FOOT×BRAINはマニアックな視点ですし、スーパーサッカーは戦術的でテクニカルな部分が多い。それぞれカラーが違うし、うまく棲み分けができているので、お互いに切磋琢磨してサッカー界を盛り上げていけたらと思っています」

矢部が突っ込むと選手も喜ぶ。

――その違いを生み出すのは企画であり、矢部さんですね。

「そうですね。矢部さんのパーソナリティが大きいです。矢部さんは決して出過ぎず、ゲストを立たせるための突っ込みをするので、そういうところは本当にうまいなぁって思います。まさに司令塔の10番で、ゲストをうまく活かす。

 選手も突っ込まれてもイヤな感じではなく、むしろうれしそうですし、楽しくやれている。それは間違いなく矢部さんの力ですね」

矢部を見つけると、選手の方から来てくれる。

――中野さんが矢部さんと一緒に仕事をして一番印象に残っているのは?

「ロシアW杯最終予選、埼玉スタジアムで行われたオーストラリア戦、矢部さんと一緒に行ったんです。井手口(陽介)選手がゴールを決めて勝った後、矢部さんにミックスゾーン(選手取材エリア)に来てもらって、選手をインタビューしようとしたんです。そうしたら選手の方から矢部さんのところに来てくれるんですよ。

 普通、声かけないと素通りしていくし、止めて話を聞くこと自体けっこう大変だったりするじゃないですか。でもみんな、矢部さんのところで足を止めて、楽しそうに話をしてくれて……。井手口選手は、『子供の頃から見ていました』って話をしていて、なんかそういう選手が代表になり、日本を背負って試合に出ているんだというのを見ていたら感慨深いものがありました。これは矢部さんのパーソナリティと番組の歴史があるからなんだなぁとつくづく思いましたね」

――中野さんが今後、出演してほしい選手はいますか。

「久保(建英)選手ですね。レアル・マドリ―の中井(卓大)くんは、小さい頃から『やべっち.FC.』の番組に遊びにきてくれていたんですが、久保選手とはまだ接点がないんです。矢部さんと久保選手がどんな話をするのか、どんな絡みになるのか、個人的に楽しみです」

Jリーグアウォーズにも2年連続登場。

 企画の面白さ、そして長年Jリーグを含め日本サッカー界への貢献が評価されて、2018年、矢部氏はJリーグアウォーズのMVPのプレゼンターとして登壇した。昨年のJリーグアウォーズでは総合司会を任され、日本サッカー界にまたひとつ大きな足跡を残した。ちなみに番組にも独自の選定をする「やべっちF.C.アウォーズ」がある。

――JリーグアウォーズのMVPの選手とかぶったりしないんですか。

「けっこうかぶりますね(苦笑)。でも、うちの場合は優勝チームからだけじゃなくて、優勝できなかったけど、活躍が目立った選手とか、番組なりに考えて矢部さんの意見も交えて決めています。

 うちのMVPで一番印象に残っている選手は、2009年の中村憲剛選手です。『タイトルを獲れなかったけど、賞をもらえてよかった』とすごく喜んでくれたので自分たちもなんかうれしかったですね」

DAZNとの協力体制も構築中。

――矢部さん特選の「サブイボ賞」は独特ですね。

「今は1年を通してサブイボのコーナーをやっているので、そこで選んだ選手の中から選出しています。サブイボの選考基準は、王道ではないところ(笑)。ミドルシュート、ドカンと一発というのにはいかない。ワントラップのうまさとか、ひとつ前のパスのセンスとか、矢部さんのパサーとして感覚が選考に反映されていると思います」

――今は、YouTubeやインターネット放送が盛んになり、地上波のサッカー番組作りが難しくなってきているということもありますか。

「DAZNが出来て、Jリーグ、海外リーグなど多くの試合を見られるようになったので、自分たちはそこにプラス何を作れるのかが今後、問われていくと思います。この番組を見たから得をしたとか面白いとか、そういう企画を作れないと生き残れないでしょう。

 ただ今後は、これまでのように競争ではなく、共存になっていければと思いますね。たとえば今は、試合がないという共通の悩みをサッカー中継とサッカー番組が持っています。試合がなくてもサッカーを盛り上げていくためには何ができるかということを考え、番組提供社であるDAZNでも『デジっち完全版』をJ1全クラブ分視聴できるようにしていただきました。

 今後はDAZNが持っているコンテンツを『やべっちF.C.』の放送で活用したりし、お互いにいいところを使って、サッカー界を盛り上げて行きましょうという流れになっていければいいかなと思いますね」

自粛は新しいものが生まれるチャンス。

――今回のコロナ禍が今後の番組作りに何かしらの影響を及ぼすと思いますか。

「試合がないのは本当にキツイですね。ただ、僕たちは、コロナの影響をネガティブにとらえているだけではありません。試合がないので、頭をひねって企画を考えないといけない。

 先日、ZoomでJリーグの選手6人が座談会を放送したんですが、以前ならスケジュール調整や距離もあって簡単にできなかった。でも今回、オンラインで可能になった。あれは平時では生まれてこない企画だと思うんです。まだまだ厳しい時期が続きますが、新しいものが生まれていくチャンスなので、このチャンスを次に活かしていかないといけないと思っています」

「やべっちF.C.」の今後は?

――企画、取材の方法、テレビのあり方そのものも変わってきそうですね。

「これだけリモート取材が進むと、海外取材に行く意味があるのかってなりますよね。電話でしゃべれるし、映像が5Gで撮れてしまうと、『それでいいんじゃないの』となっていく感じがします。

 現場に行って対面するのが取材の基本だと僕らは思いますが、これからはそれこそおっさんの考えだってなりそうですよね(笑)。

 テレビで言えば、1回放送しただけで終わりという時代ではなくなってきています。SNSは必須ですし、動画配信もやっていかないといけない。貴重だった『デジっち』の映像も今じゃインスタやYouTubeでできてしまうので、時代の流れについていけるように自分たちも今、必死でやっている感じです。

 難しい時代になってきましたが、これからも『やべっちF.C.』を長く続けていきたいですね。これまでJリーグの各クラブ、選手、そしてファンに支えられてきたので、これからもしっかりとその恩返ししていきたいと思っています」

文=佐藤俊

photograph by TV asahi