5月31日までの緊急事態宣言の延長が決まり、日本列島にはまだまだ自粛の日々が続いている。球界もまた球音を聞くことができないままにすでに5月中の開幕も断念され、交流戦は中止となり、オールスター戦の開催すらも危機的状況となっている。

 いったいいつになったら開幕を迎えられるのだろうか? いやファンの心の中には「今年はもうムリかもしれない……」という諦めが芽生えているのも、またまぎれもない事実である。

 その中で選手たちは各々のスタイルで見えないゴールに向かって走り続け、最大限のコンディション維持のために必死の汗を流している。

 ただ、そうしたプレーヤーとしての使命感と共に、選手たちがいま、強く感じているのが、プロ野球選手という社会的な立場での自分たちの存在意義だった。

選手や監督による個人的な支援活動。

 開幕延期後にはDeNAがオリジナルフード「ベイマグロ皿」1100食分をフードバンクに寄付し、阪神が医療関係者の防護服の代用に応援グッズのポンチョ4500枚を寄付した。

 その後も球団単位で各自治体等に医療用マスクなど、主にひっ迫している医療用品の寄付などの社会支援を行ってきている。

 その一方で目立ってきているのが、選手や監督による個人的な支援活動の動きだ。

 4月24日には巨人の原辰徳監督、阿部慎之助二軍監督、坂本勇人内野手、菅野智之投手、丸佳浩外野手が医療関係者の支援のためにそれぞれ1000万円、合計で5000万円を東京都に寄付すると同時に、読売新聞社と社会福祉法人「読売光と愛の事業団」が設立した「東京コロナ医療支援基金」を通じての寄付を募ることも明らかにしている。

「個人としての思いを伝えたかったんです」

 この動きに賛同した巨人の岩隈久志投手も、4月30日に同じく1000万円を東京都に寄付。

 また巨人の田口麗斗投手は故郷の広島にサージカルマスク1万枚を、広島OBの黒田博樹元投手と新井貴浩元内野手が広島に7万枚、阪神の西勇輝投手が大阪府と兵庫県に4万枚、ソフトバンクの東浜巨投手が故郷・沖縄に4万枚のマスクを寄贈と個人での支援活動が目立っている。

 そしてこうした個人支援の動きを作るきっかけとなったのが、4月8日に発表されたプロ野球選手会の呼びかけによるクラウドファンディング「READY FOR」の「新型コロナウイルス感染症:拡大防止活動基金」を通じて医療機関、団体等を支援する寄付活動だった。

「個人としての思いを伝えたかったんです」

 こう語るのはプロ野球選手会の炭谷銀仁朗会長(巨人・捕手)だった。

どういう風にやったらいいのかが分からない。

 これまでも球界では東日本大震災や2018年の西日本豪雨などの災害発生時には、各球団が球場で行った募金に球団、選手が出したお金も合わせて義援金として被災地に送る活動は行ってきた。

 しかし今回の新型コロナウイルスの感染拡大は、それこそ選手一人ひとり、国民一人ひとりがまさに直接的に関わっている問題でもある。

 感染拡大が進むにつれて、選手たちからは何か支援活動を行いたいが、どこに、どういう風にやったらいいのかが分からない、という声が選手会にも届いていた。

「それなら今回は球団単位での義援金という形をとらずに、全選手が個人で協力して欲しいということになりました」

 炭谷の説明だ。

「受け皿を作れた意味は大きかった」

 そのことを以前から交流のあったベースボール・レジェンド・ファウンデーションに相談した結果、紹介されたのが「READY FOR」を通じた支援だったのである。

「こういう状況なので選手はみんなが、それぞれでSNSなどを使って、それこそ室内トレーニングのやり方やプライベートなことまで様々な発信を行ってくれています。

 でも、こういう形で個人が寄付をするというのはなかなかやり方がわからなかった部分があったので、その受け皿を作れた意味は大きかったですね。

 その中で実際に活動を発表してからも、色んな選手に協力してもらって、コメントもお金も集まっている。そういう実効性の点でも良かったと思っています」(炭谷)

 選手会がこの寄付活動を発表すると炭谷会長自身や各球団の選手会長たちはもちろん、すぐさまソフトバンクの柳田悠岐外野手や阪神の糸井嘉男外野手ら選手が個人として名乗りを上げて寄付を行った。

社会的に影響力のある立場だからこそ。

 また、そのことが報じられることで「READY FOR」を通じた支援の認知度も広がることにつながってもいる。

 その結果、5月7日14時現在で寄付総額は2億8000万円を超える規模へと膨れ上がった。社会的に影響力のあるプロ野球選手という立場だからこそできた社会貢献の1つだったとも言えるだろう。

「今回この寄付で改めて思ったのは、僕たちがやることで賛同してくれる人も多かったし、みんなが見てくれているんだということですよね」

 炭谷は言う。

「野球だけではなく様々な競技のアスリートが発信することによって、色々と感じてくれている方は多いということだとも思います。だからこれからもどんな形になるかはわかりませんが、継続してどんどんやっていきたいと思っている」

ファンの存在をいつも以上に感じるきっかけに。

 もちろんこうした活動は選手にとってのプラスもあるはずだ。

 例えばSNSで日常を発信しアップした動画へのコメントを読むことで、選手の側もファンの存在をいつも以上に感じるきっかけになったり、いまこの状況だからこそ意識できることもある。

 そうした社会との繋がりを日常的に強く意識することが、選手の支えにもなっていると炭谷は見ているのだ。

「個人個人で寄付や様々な活動をすることによって、選手はファンの方がいて、お客さんの声援が力になるということを再認識できた。

 多くの声をいただいているので、より感じている部分もあるし、個人でやることによって参加意識が強くなっている部分もあります。それが選手個人の意識を高めると同時に、今後の普段の色々な行動にも繋がっていってくれるといいなと思っているんです」

「全員が初めての経験なんです」

 出口が見えない中での長期のコンディションの維持。しかも感染しない、感染させないという意識とトレーニングの徹底は背中合わせの難しさだ。

「現段階では開幕の日時も決まっていませんし、まず1日1日をどう過ごすか。これは全員が初めての経験なんです。

 選手はとにかくモチベーションの維持に難しいところがあります。だからこそどういう気持ちでやっていくかが大事になっている。

 ただここで誰かが感染すれば全てが止まるので、だからこそ一人ひとりの自覚も大事になってくる。それは選手みんなが分かっているので、より一層、気を付けていると思います」

「戦っていくしかないと思います」

 炭谷が所属する巨人では全体を一、二、三軍と故障班に分けて、午前と午後を完全に入れ替え制で個人練習を行っている。

 感染予防のために消毒の徹底や食堂の対面着席の禁止など細かなルールを決めて、それでも感染の不安を抱えながらの練習だ。

 いつになるか分からない開幕に向けて選手は日々鍛え、ファンは日々待ち続けている。

「戦っていくしかないと思います」

 だからこそ炭谷は言う。 

「誰もが正解は分からない。でも、その中で野球選手として社会的にもできることをやっていかなければならないと思います」

 これは炭谷だけではない、選手たちみんなが心に刻んでいる言葉である。

文=鷲田康

photograph by KYODO