2016年8月18日、リオデジャネイロ五輪バドミントン女子ダブルス決勝。

 白いユニフォームに身を包んだ高橋礼華と松友美佐紀が決戦の舞台に登場した。相手はデンマークの長身ペア、カミラ・リターユヒル、クリスティナ・ペデルセン。第1ゲームを落とした2人は、第2ゲームを奪い返し、そして運命の第3ゲームへ突入する。

ファイナルゲームは一進一退の攻防が続いたが、16−16から3連続ポイントを奪われ16−19の絶体絶命のピンチに。しかし、追い込まれたこの状況から、2人はとんでもない集中力と強さを発揮し、5連続ポイントで勝利を手にした。

 21−19。その瞬間、高橋はコートに倒れこみ、松友はガッツポーズを見せた。

日本バドミントン史上初の金メダルを獲得し、刻んだ新たな歴史。ペア結成10年目の先輩後輩ペアがお互いを信頼し、尊敬し合い、そして高め合ってきた末に掴んだ栄光だった。

大きな注目を集めたオグシオ。

 日本は現在バドミントンの強豪国へと成長し、東京五輪でも複数種目でメダル獲得が期待される有力競技と言われている。なかでもリオ五輪で金メダルを獲得した女子ダブルスは、同競技のなかでも他種目に先駆けて競争意識が高まるのが早かった。

 オリンピックでメダルに最初に近づいたのは2008年の北京大会。同大会には2組のペアが出場した。 

 まずはバドミントン人気の火付け役となった「オグシオ」こと小椋久美子、潮田玲子組。五輪前年の世界選手権では銅メダルを獲得し、全日本総合選手権大会で5連覇を果たすなど、実力派ペアとして活躍した2人は、名実ともに日本のトップとして北京五輪に臨んだ。しかし、当時の女子ダブルス界は中国勢が席巻。準々決勝で同大会金メダルを獲得した中国ペアに敗れ、ベスト8に終わった。

スエマエが史上最高の4位入賞。

 この大会でオグシオを上回ったのが、末綱聡子と前田美順の「スエマエ」だ。ペアを結成した2004年からオグシオ陰に隠れ、北京五輪前年までは日本の3番手だったものの、最大2組しか出場できない状況で最後の最後に出場権を獲得し、オリンピックの切符を手にした、こちらも実力派だ。

 準々決勝では当時の世界ランキング1位、しかもアテネ五輪で金メダルを獲得している中国のヤン・ウェイ、チャン・ジーウェン組と対戦。会場は多くの中国人観客が占める完全アウェー状態の試合となり、第1ゲームを8−21と一方的なスコアで落としたものの、第2、3ゲームを奪取し、大逆転。最後まで集中力を切らさず戦った2人はメダル獲得へ大きく前進する勝利を挙げた。 

 続く準決勝では世界ランキング4位の韓国ペアに、そして3位決定戦でも中国ペアに敗れてメダル獲得とはならなかったものの、日本バドミントン史上最高位となる4位入賞。日本バドミントン界の歴史に風穴を開けた。

スエマエを間近で見てきたフジカキ。

 その後もスエマエは、2011年世界選手権で銅メダル、同年のBWFスーパーシリーズファイナルズ3位など、女子ダブルス界でトップペアとして活躍。2012年ロンドン五輪にも出場した。自身2度目のオリンピックは得失ゲーム差で予選を勝ち上がれなかったが、同大会では「フジカキ」こと藤井瑞希と垣岩令佳組が、北京五輪の成績を上回る銀メダルを獲得した。

 フジカキの2人にとって幸運だったのは、当時所属チームの先輩だったスエマエが北京五輪4位入賞を果たした姿を間近で見られたことだ。同大会を現地で観ていた2人にとって、先輩ペアの戦う様は大きな刺激となった。

 さらに所属チームのみならず、代表選考レースを戦うなかで得られたものも大きな財産になっただろう。五輪という目標が身近になり、先輩ペアを尺度にすることで世界との差を計りながら、自分たちに足りないものを補うことができた。結果、先輩2組が積み上げてきた歴史を受け継ぎながら、先輩たちが届かなかった表彰台へとたどりついたのだ。

「絶対に金」は「銀」があったから。

さらに、フジカキがスエマエの姿を見てきたように、「タカマツ」もまたフジカキの姿に大きな刺激を受けてきた。高橋は以前、こんな話をしている。

「先輩たち(藤井と垣岩)は私たちにとってライバルであり憧れの先輩。私たちは代表では先輩たちよりも年下で実力も下だったので、勝ちたい気持ちが強かったですね。自分たちが強くなれたのも先輩たちのおかげ。漠然とオリンピックでメダルと思っていた私たちが、絶対に金メダルを獲ろうと思ったのも、2人が銀メダルを獲ってからなんです」

 代表選考でも争ったライバルペア。自分たちも超えたい、自分たちでも勝てるかもしれないという気概が、彼女たちの飛躍の原動力となり、リオ五輪の金メダルへとつながっていった。

 そして、タカマツの金メダルが東京五輪を目指す選手たちの目標となっている。

フクヒロ、ナガマツが継ぐ系譜。

 リオ五輪当時、B代表だった福島由紀、廣田彩花の「フクヒロ」は翌年からA代表入りし、今年の全英オープンで優勝。現在、日本人トップの世界ランキング2位につけている。また、'18年に代表入りした永原和可那、松本麻佑の「ナガマツ」は、同年と昨夏の世界選手権で金メダルを獲得。東京五輪代表の有力候補となっている。

 五輪出場を目指すタカマツを始め、互いに切磋琢磨しながら実力を付け、世界でも台頭してきた彼女たち。身近にいる国内ライバルの存在が慢心を許さず、さらなる成長を促してきた。

 こうして受け継がれてきた女子ダブルスの系譜。果たして次はどんな物語を紡いでいくのだろうか――。

文=石井宏美

photograph by Shinya Mano/JMPA