新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言が5月末まで延長され、プロ野球の開幕は依然として先行きが全く見えない状況が続いている。

 交流戦の中止が決定し、現状では試合数は最大で125試合。最短なら交流戦明けのリスタートが予定されていた6月19日に開幕する案なども出ているようだが、それでも通常開催は不可能だ。

 すでに4月23日の12球団代表者会議後に日本野球機構(NPB)の斉藤惇コミッショナーが「最初のうちは無観客で開かざるを得ないだろう」と語ったように、しばらくは無観客での試合が続くことになる。

 他のスポーツに比べると親会社の規模が大きく、経営面で安定しているプロ野球も、すでにコロナ禍での経済的なダメージはかなり大きなものとなっている。

自前の球場を持たない球団は特に苦しい。

 交流戦の中止ですでに各球団は主催試合の9試合減が決定。一般的には1試合の開催で入場料や球場でのグッズ、飲食の販売、放映権料など合わせて約1億円の収益があると言われているので、これだけですでに9億円の減収が確定することになる。

 これからさらに試合数が減少し、しかも無観客での開催となると、基本的な収益を放映権料のみに頼る構造となって、更なる大減収が確実だ。

 特に自前の球場を持たない巨人やヤクルト、日本ハムなどの球団は、無観客試合となれば入場料収入等がないのに球場使用料だけがかかり、経済的なダメージはより大きなものとなってしまう。

 このままいけば選手の年俸総額(12球団平均で約30億円)もカバーできずに、赤字へのスパイラル転落が必至の状況となっているのである。

無観客でも人気コンテンツになり得る。

 こうしたコロナ禍による経済的なプロスポーツ界の打撃は野球だけではない。

 JリーグやBリーグなども同じで、野球の世界でさらに言えば地元企業に支えられている独立リーグの経営などは、今まさに瀕死の状況にあるとも言える。

 そうしたプロスポーツ界の危機に対して、もちろん様々な対応策や打開策を各団体も協議している最中だが、決定打になり得るものの1つと思うのが「コロナ野球くじ」の販売だ。

 外出自粛が続く中でゲームや有料の映画配信サービスなど在宅型エンターテイメントの需要は大きく伸びている。そういう意味ではプロ野球もたとえ無観客でも開幕すれば、人気コンテンツの1つになることは確実だろう。

2018年に導入寸前まで漕ぎ着けていた。

 そしてもう1つ、注目するのは無観客で開催されている中央競馬の売り上げだ。

 緊急事態宣言で外出自粛中の4月25日に東京、京都、福島の3競馬場で開催されると、いずれの競馬場も前年比プラスの売り上げを記録するなど、ネット投票の普及でコロナ禍も無関係の活況を呈している。

「野球くじ」は2018年に導入寸前まで漕ぎ着けていた経緯がある。

 この時は東京五輪の資金捻出を想定した永田町主導で話が進み、2月21日のNPB幹部と12球団代表者会議では正式な議題となって協議され、大きな反対意見も出なかったと報じられている。

 しかしその後、くじの収益金の配分を巡って超党派の国会議員で作るスポーツ議員連盟と日本野球連盟(NPB)で合意が得られずに話はたち消えとなってしまった。

使用目的は基本的にコロナウイルス対策に限定。

 ここでまず「野球くじ」とは一体どういうものなのかを説明しておこう。

 ベースとなるのは「スポーツ振興くじ」で、運営主体は文部科学省が指導監督している独立行政法人日本スポーツ振興センターだ。このくじの収益は一般の人がスポーツをやる環境の整備からトップアスリートの支援などスポーツ振興に充てることを目的としている。

 売上金の使い道の内訳としては全体の半分は「当選金」としてくじが当たった人に分配する。残り半分から経費等を差し引いたものが収益となり、その4分の1が国庫に納められて、残りの4分の3がスポーツ振興の助成金として使用される。

 具体的には地方公共団体やスポーツ競技団体などの事業の助成などに使われることになる。ちなみに'18年度の売り上げは約948億円で'20年度の助成金の総額は166億7000万円となっている。

 現在はJリーグを対象とした「サッカーくじ」だけが行われているが、これを野球に広げようという訳だ。大事なのは「コロナ野球くじ」として、使用目的を基本的にはコロナウイルス対策に限定するということだ。

様々なスポーツ関連団体にも振り分ける。

 例えば収益の4分の1が配分されていた国庫納入分はワクチン開発や医療機関、医療関係者への支援に充てる。

 残りの4分の3の収益金の一定額をNPBが受け取り12球団に分配すると同時に女子野球や独立リーグなど野球関連の事業のコロナ対策に使えるようにする。そして残りをスポーツ関連団体のコロナ対策資金として振り分ける。

 もちろん過去に「黒い霧事件」などの八百長問題を抱えるプロ野球界が、野球を「賭博」の対象とすることに抵抗感を拭えないのは当然といえば当然のことではある。

 ただ、その点でも「サッカーくじ」では非予想型でコンピューター予想による「BIG」が売り上げの中心になっていることから、同じように非予想型のくじを導入すれば、八百長のリスクをある程度回避した上で、くじとしての魅力を維持して売り上げを伸ばすことも可能だ。

億単位の“夢”を売ることもできる。

 また単純な勝敗予想で配当額がそれほど高くないものから、安打数や本塁打数などスタッツを組み合わせて当選確率を下げたものまで用意すれば、それこそ億単位の“夢”を売ることもできる。

 ファンにはチケットを買って球場に足を運び、応援グッズや飲食に使うお金を「コロナ野球くじ」に回してもらうという考えだ。

 コロナと戦っている人々を支援しながら、野球を観る楽しさに加えて興奮とスリルとひょっとしたら大きな見返りすらもあることになる。球場は行きたくても毎日はいけないかもしれないが、それを日常的に楽しんでもらおうということだ。

 プロ野球を行うことがコロナ対策に寄与して、自分たちだけでなくスポーツ界の経済的ダメージ回復に少しでも力となれる。その上で自粛疲れのファンに新しいアプローチの娯楽を提供する。

地方の野球や他のスポーツが死ぬ前に。

 これがいまプロ野球界で考え得るコロナ対策の決定打ではないかと思う理由だ。

 もちろん実施には法整備、システム開発など乗り越えなければならない壁はいくつもあるだろう。ただ'18年にかなり踏み込んだ検討がなされていただけに、法整備的な部分もそれほど障害はないはずだ。

 またシステム的には「サッカーくじ」のノウハウを利用すれば、これまたさほど難しくはないはずである。

 何よりこの緊急時だ。

 お役所仕事ではなく、いいと思うことは早急に手をつけ、迅速に進める。そして何より事はプロ野球だけの問題ではない。地方の野球や他のスポーツが死ぬ前に、有効と思える手はすべて打って欲しいし、打つべきである。

文=鷲田康

photograph by KYODO