生徒数は数十人。小さな小学校だった。クラブはバスケットボール部だけ。

 そんな長崎の田舎で全国を夢見て、朝から晩までバスケットボールを離さなかった少年が今季、Bリーグの頂点に立った。

 創設4年目となるBリーグの2019-20シーズン、年間最優秀選手賞(MVP)はアルバルク東京の28歳、田中大貴が受賞した。

「小さな町、田舎の公立学校からでも日本を代表する選手になれる。そんな姿を全国でバスケを愛する少年たちに見せられたら」

 田中には、常にこんな思いがあった。両親はもちろん、小中高とバスケを指導してくれた恩師たちが「全国で勝負してこい、そして日本代表になれ」と背中を押してくれた。

 地元の進学校である県立長崎西高校から、最もレベルの高い場所で勝負することを決意し、バスケットボールの名門・東海大学へ進んだ。故郷で思い描いた「日本を代表する選手になる」という夢は年々、強くなっていった。

魂がこもっていた寡黙な青年の言葉。

 田中が東海大学3年生の時、インタビューさせてもらったことがあった。

「大学の頂点に立ち、そして日の丸を背負いたい。日本のバスケットを象徴するような選手になりたい」

 当時21歳、控えめで寡黙な青年という見た目の印象とは裏腹に、語気は強く、彼の言葉には魂が宿っていた。そして、インカレで当時は大学バスケットボール界のスターだった比江島慎を擁する2連覇中の青山学院大を撃破し、全国制覇を果たす。アルバルク東京に入団してからも、Bリーグでは3年連続ベスト5を受賞。着実にステップアップしてきた。

 普段は極度のきれい好き。愛車の中は塵一つなく、本人も「潔癖症」と認める。字も達筆で、所作は美しい。お肉が大好きで、焼肉の話をしている時は表情が緩む。

 しかし、練習をとにかく大事にする。というより、練習に充てる時間をとにかく大切にする。プライベートでの姿を見ていると、彼にとって話すことや動くこと、すべてをバスケットボールに繋げていると感じる。

概念にとらわれないような選手に。

 2年前のシーズン中、こんな話をしてくれたことがあった。

「NBAと同じく、日本のバスケットボール界も新たな時代に入っている。ポジションの概念が無くなってきているのはもちろん、かつての『こうでなくてはいけない』がもう通用しなくなっていると思うんです」

 NBAでは、「ビッグマン」と呼ばれる主にゴール下を司る身長2mを大きく超える選手たちが、ボールをコントロールし、スピードとテクニックを持ち合わせ、アウトサイドからの3ポイントシュートを軽々と決める時代に入っている。

「越えなければいけないハードルは高いとは思います。でも、今までにいなかったプレーヤーになり、新たなプレースタイルを併せ持ちたいなと思います。ディフェンスはもちろん、ゲームコントロールができて、アシストを意識し、さらにゴール下へアタックにも行ける。概念にとらわれないような選手に」

 こだわってきた、すべての能力を持ち合わせたユーティリティーなプレースタイル。今回のMVP受賞はまさに、彼の目指していたものが認められた証拠である。

個人スタッツ1位は名前はない。

 得点、アシスト、リバウンド、スティール、ブロック、3P成功率、FT成功率という、各個人スタッツのリーダーズ表彰に田中の名はない。しかし、トップ5を見ていくとアシスト、スティール、FT成功率に名前が並ぶ。平均得点、3P成功率に関しても、昨季の数字を上回った。

「去年のワールドカップを経験し、そして東京五輪へ向かう。参加するだけの大会となってはいけない。何か新たなインパクトを残すべく戦いたい。ジャイアントキリングが現実となるような準備をしたい」

 選手として、日本バスケットボール界の頂点に立った田中大貴。東京から遠く離れた故郷・長崎、小浜町のこども園には田中の色紙が飾られている。そこに書かれている「夢は必ず叶う!」という言葉。その言葉を実現させた、MVP獲得だった。

 田中大貴は次にどんな夢を叶えてくれるのか、小さな田舎町のバスケ少年たちが彼のさらなる活躍を待っている。

文=田中大貴

photograph by AFLO