初の広域開催となるEURO2020も、他のメジャースポーツイベントと同様に開催は1年後に先送りになった。とはいえ3月末に予定されていたプレーオフの新しい日程も決まらず、抽選会もいつおこなわれるかまだわからない状況である(執筆当時)。

 では、この変更は、サッカー界にどんな影響をもたらすのか。この不幸な状況は必ずしも全員に不利に働いたわけではない。変更により逆にチャンスを得たもの、復活の機会を得たものもまた存在するのである。『フランス・フットボール』誌4月21日発売号では、デーブ・アパドゥー記者が、延期により恩恵を受けたもの、悪影響を被ったものそれぞれを列挙してレポートしている。

監修:田村修一

コロナ禍のサッカー界への影響。

 コロナ禍の影響により延期されたEURO2020は、1年後にほぼ同じ日程でおこなわれることが決まっている。この変更は、あるものには有利に働き別のものには不利に働いたのだった。

 コロナ禍は全世界の人々の生活に大きな影響を与え、もちろんその中にはサッカーも含まれる。EURO2020の1年延期もただちに決められた。この日程(2021年6月11日〜7月11日)になったのは、中断した様々な大会(とりわけ各国リーグとヨーロッパカップ)に配慮したものであると同時に、大会の開催自体が危ぶまれたからだった。

 この決定は極めて適切である。とはいえ、多くの影響をサッカー界に及ぼしたことは事実だ。それはまさに悲喜こもごもで、あるものにとっては歓迎すべき延期となり、別のものにはダメージの大きな延期になってしまった。では、いったい誰が得をして誰が損をしたのだろうか。

得事例1:オランダ代表

 昨シーズンはオランダ代表とアヤックス・アムステルダムのどちらも、素晴らしいプレーを実現した点を書かねばならない。それは忘れかけていたヨハン・クライフの現役時代を彷彿させるものでもあった。オランダに関しては、クライフ時代の伝説とノスタルジーに対する絶対的な信頼感が存在する。

 直近のふたつのメジャー大会(EURO2016とWC2018)には欠場したものの、オランダは昨年鮮やかに復活し、EURO2020の注目株に一躍浮上した。だが、ここ数か月というもの、怪我によるメンフィス・デパイの長期離脱と今季のアヤックスの停滞、フレンキー・デヨング(バルセロナ)とマタイス・デリフト(ユベントス)がクラブで出場機会に恵まれないことなどが重なり、精緻なサッカーマシンは故障をきたしているように見うけられる。

 明らかにオランダは、多くの問題に直面している。1年の猶予が生まれたことで、ロナルド・クーマン監督が安堵しているのは間違いない。来年の本大会に向けて、もう一度魅力的なチームを立て直す時間ができたのだから。

得事例2:アーリング・ハーランド

 アーリング・ブラウト・ハーランドが2得点を決めて、キリアン・ムバッペのパリ・サンジェルマンをCLラウンド16第一戦で粉砕(2対1でBVBの勝利)したのは、今からほんの数週間前のことだった。だが、このドルトムントの新星は、コロナ禍でシーズンが中断する前から、その輝きに陰りが見られ、どんな強固な壁も粉砕する本来の力強さを失った印象を与えた。その後のフライブルク戦とボルシア・メンヒェングラートバッハ戦では精彩を欠き、3月11日に無観客でおこなわれたPSGとのCLラウンド16第二戦は、まるで幽霊のように存在感が薄かった(結果は2対0でPSGの勝利)。

 もちろん誰も《EBH》が「ただの平凡な選手に成り下がってしまった」とは言わない。ただ、リーズに生まれたこの若者には、急激にスターダムにのし上がったことによる環境の変化に適応するための時間――しばしの安息の時間が必要なのかも知れない。ひと呼吸おくことで、彼のプレーもまた豊かになるだろう。

 ノルウェーはEURO2020のチケットをまだ獲得していない(プレーオフでセルビアと対戦。勝てばスコットランド対イスラエルの勝者と対戦)。だが、1年という時間が得られたことで、レアル・マドリーからレアル・ソシエダにレンタル移籍しているもうひとりの早熟の天才マルティン・ウーデゴールもまた、より危険な存在になるのは間違いない。ふたりがこのまま順調に成長し続けたとき、ノルウェー代表はEURO2021で注目すべき存在になる。

得事例3:フランス代表

 ディディエ・デシャン監督が、ワールドカップ優勝の偉業を成し遂げた選手たちを、今ここに再び招集するのは難しい。フランス代表の幾人かの選手にとって、今シーズンは長い苦難の道であったといえる。かたや長期の怪我に苦しんだもの――ウスマン・デンベレやポール・ポグバ、ルーカス・エルナンデス、ムサ・シッソコ、フロリアン・トーバン、エンゴロ・カンテなどなど――がおり、かたやクラブで難しい状況に陥ったものたち――アントワン・グリーズマンやコランタン・トリソ、オリビエ・ジルー、タンギ・ヌドンベレ、トマス・ルマー、アルフォンス・アレオラら――がいた。試合の度ごとにDD(デシャンの愛称)は、どんなグループをどんな状態で招集できるのか、一から考え直す必要があった。

 だが、世界は見ての通りである。デシャンは重傷により長期離脱した選手たちの回復を期待でき、他の選手たちもスポーツ面の状況が大きく改善されるチャンスを得たのだった。それはまた、世界チャンピオンがEUROに“優勝候補”として臨むために必要な時間でもある。

得事例4:怪我人たち

 大きな怪我をしている選手たちが、コロナという災禍に助けられている現状はなんとも皮肉だ。

 今季もメンフィス・デパイやマーカス・ラッシュフォード、ハリー・ケインといった第一線で活躍する選手たちが重傷を負い、戦線を離脱してEUROの参加が望めない状況にあった。ウスマン・デンベレもそのひとりである。この2月に右太ももを負傷したデンベレは、検査の結果、大腿二頭筋近位腱(tendon proximal)断裂と診断され、手術の後6か月間のリハビリが必要といわれた。

 もちろん現在の状況を考えれば、ここぞのタイミングでコロナの第二波が来ないことを祈る以外にない。だが、日程が変更になったことで、彼にEURO出場の可能性が巡ってきたのは間違いない。

 それでは延期の悪影響を受けたものたちは誰だろう。

損事例1:ベルギー代表

 2018年7月10日、ワールドカップ準決勝フランス戦の敗戦(0対1)は、ベルギーにとっていまだ忘れられないトラウマである。ベルギーはその悪夢を払拭しリベンジを果たして、黄金世代に相応しい初の国際タイトル獲得を狙っている。

 だが、時間は容赦なく過ぎ、年齢の壁にぶつかる選手が出てきた。バンサン・コンパニは下り坂にあり、ヤン・ベルトンゲンやトビー・アルデルバイレルト、アクセル・ビツェル、ドリエス・メルテンスらはいずれも30歳を超えた。年を重ねることによる影響は避けられない。

 フランスやオランダ、イングランド、チーム構築の途中にあるドイツがいずれも不安要因を抱えており、ベルギーは優勝の最右翼である。だが、果たして来年もそうと言えるのだろうか?

損事例2:ベテランたち

 それは、今からパフォーマンスを大きく向上させるのは難しい選手たちともいえる。33〜34歳を過ぎると、そこからさらに遠い先を見通すことは難しくなる。
 世界最高の選手といえどもそれは同じで、ユベントスでの立場が多少微妙になったクリスティアーノ・ロナウドにも多少の懸念はある。来年開催されるEUROに、彼は36歳で臨むことになるからだ。

 オリビエ・ジルーは、35歳の誕生日を迎えるまえにEUROに臨むことができる(来年9月30日で35歳になる)。しかし時を経れば経るほど、自身の最後の機会となるであろうメジャー大会出場の可能性は減っていく。同じことはルカ・モドリッチにも言える。ロシアWC決勝の悲劇のヒーローであり、2018年バロンドール受賞者でもあるモドリッチだが、今の彼は2年前の彼と同じではない。35歳でEUROに臨むことになり、来年9月9日には36歳になる。どれだけの輝きをEUROで放つことができるのだろうか。

 ベテランたちにとって、1年の違いは死活問題になりかねない。延期はまさに時間との闘いである。

損事例3:クラブワールドカップ

 ジャンニ・インファンティーノFIFA会長は頭を抱えていることだろう。それは2015年秋のFIFA会長選挙出馬直前に、ミシェル・プラティニとゼップ・ブラッター(当時のUEFA会長とFIFA会長。カタールゲートとそれにともなう一連のスキャンダルでともに表舞台から消えた)の情報を極秘裏に収集したことが暴露されたからだけではない。EUROの延期により、彼自身の肝いりで2021年6月17日〜7月4日に中国で開催される予定だった24チームによるクラブワールドカップも、延期せざるを得なくなったからである。

 現行の7チームから24チームに規模を拡大することで、FIFAが得る利益は500億ユーロと試算されている。ワールドカップと並ぶFIFAの新たなドル箱になる大会だ。延期の影響がどれほどのものであるかはまだ分からない。

損事例4:女子EURO2021

 ある意味、EURO2020の延期の直接的な被害を最も受けているのがこの大会かもしれない。イングランドで2021年7月7日〜8月1日にかけておこなわれる予定であった女子EUROも、いまだ正式発表はないものの2022年の同じ時期の開催に変更になる模様である。というのも東京五輪が1年延期となり、さらに男子のカタールWCが11月21日〜12月18日に開催されるために、他に日程のとりようがないからだ。

 世界の女子サッカーはいまだクラブよりも代表が中心で、ワールドカップ、五輪、EUROの3つの大会がショーウィンドウであり推進力にもなっている。競技自体の発展のためにも、メジャーイベントの連鎖を断ち切ってはならない。大会の成功が、発展のカギを握っているのだから。

文=デーブ・アパドゥー

photograph by Franck Faugere/L'Equipe