3月中旬、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で欧州のほとんどの公式戦が延期され、ブラジル代表FWネイマール(パリ・サンジェルマン=以下、PSG)は母国へ戻った。

 以来、リオ郊外の別荘で専属トレーナーとトレーニングを積み、6月中旬、フランスへ帰還。22日からのチーム練習に参加している。

 7月24日にフランスカップ決勝(対サンテティエンヌ)、31日にフランスリーグカップ決勝(対リヨン)が予定されており、8月12日からリスボンで集中開催される欧州チャンピオンズリーグ(CL)終盤戦となる準々決勝から決勝までの戦いに臨む。「この3カ月間、理想的な練習ができた」と胸を張り、「欧州CLで歴史を作りたい」と意気込む。

 昨シーズン、キャリア最悪と思われる時を過ごしたこの男は、はたして本当に“復活”を遂げることができるのか――。

東京ドームの2倍余りの別荘で。

 ネイマールの自宅はサントス郊外にあるが、リオ郊外にも1万平方メートルの壮大な別荘を有する。最新の器材を揃えたフィットネスジム、フットバレーもできる砂場のコートやマッサージ室、治療室にジャグジー、プールなどを備え、外へ一歩も出ることなく存分にトレーニングを積むことができる。

 専属トレーナーのリカルド・ローザは、2009年にネイマールが17歳でデビューしたときのサントスのフィジカルコーチで、以来10年以上、彼の体調管理に携わってきた。

 2013年5月にネイマールがサントスからバルセロナへ移籍すると、翌年から専属トレーナーとなってバルセロナへ同行。2017年に彼がPSGへ移籍すると、やはり一緒にパリへと渡る。以後、PSGとブラジル代表のフィジカルコーチも務めている。

故障増の中で肉体改造に着手。

 近年のネイマールは筋肉量が増えたが、そのため体重も増加し、故障が頻発した。その反省からローザは「筋肉量を減らさないで体重を落とし、より強く、より軽くてしなやかな体に改造することを目指した」と語る。

 フィットネスジムでの様々なトレーニングに加えて砂場でのダッシュ、フットバレー、さらにはボールを使ったトレーニングも行なった。

 ネイマールは「体調は近年になく良好で、相乗効果でモチベーションも高まった。CLでキャリア最高のプレーを見せる」と意気軒高だ。

PSGに移籍して以降、数々の試練が。

 2017年8月にバルセロナからパリ・サンジェルマンへ移籍して以降、ネイマールは多くの試練に見舞われた。シーズン前半こそ好調だったが、2018年2月末、右足の第五中足骨を折って手術。エースを欠いたPSGは、CLラウンド・オブ16でレアル・マドリーに屈した。

 そして6月から7月にかけて行なわれたワールドカップ(W杯)ロシア大会には無理をして出場したが、ベストコンディションではなかった。さらに体調面の不安が再三のシミュレーションとダイビングにつながり、轟々たる非難を浴びた。

 2018-19シーズンも前半は好調だったが、2019年1月末、再び右足の第五中足骨を痛めてCLラウンド・オブ16(対マンチェスター・ユナイテッド)2試合を欠場。PSGはまたしても敗退した。

 結局フランスリーグでは全38試合中半分に満たない17試合の出場にとどまり、得点は15だった。なお6月にはブラジル代表の強化試合で右足首を故障。母国開催のコパ・アメリカに出場できなかった。

 なおシーズン終了後、彼と彼のスタッフがバルセロナへの復帰を画策したが、PSGはそのような我がままを許さなかった。このことは公に知られることとなり、地元メディアとサポーターから痛烈に批判された。

メッシ、ロナウド、ムバッペの存在。

 そして迎えた今季。移籍騒動の余波でコンディション調整が遅れ、開幕から1カ月余りプレーできなかった。10月にも左太ももを痛め、さらに約1カ月間の欠場。リーグ戦出場は27試合中15試合で、13得点だった。

 本人は頑なに否定するが、ネイマールがメッシの脇役であり続けることを嫌がって「世界一の選手になる」という野望を実現するためにバルセロナを裏門から出てPSGの門を叩いたことは、ブラジルでは子供でも知っている。

 しかし、7歳年上のポルトガル代表FWクリスティアーノ・ロナウド(ユベントス)、5歳年上のアルゼンチン代表FWリオネル・メッシ(バルセロナ)は一向に衰えを感じさせない。そして、7歳年下のチームメイト、フランス代表FWキリアン・ムバッペから猛烈な追い上げを受けている。

 ムバッペは、フランスリーグで2018-19シーズンに33点をあげて得点王とMVPに輝き、今季も18得点で2季連続の得点王。ネイマールは今、PSGでもエースではない。

バルサとの契約問題で8億円支払い。

 ピッチ外の問題もある。

 2016年6月、バルセロナとの契約を5年延長した際に6440万ユーロ(約77億6000万円)のボーナスをオファーされると即金で2075万ユーロ(約25億円)を受領。以後、残りの4365万ユーロ(52億6000万円)を受け取ることになっていた。

 ただ翌年8月にネイマールはPSGへ電撃移籍した。にもかかわらずバルセロナに残りの4365万ユーロの支払いを求め、一方、バルセロナはネイマールに2075万ユーロの返還を要求して裁判になっていた。

 そして今年6月19日、バルセロナの地方裁判所はネイマールに679万ユーロ(約8億2000万円)の返還を命じた。ネイマールにとって手痛い敗北だが、控訴する可能性もある。

 28歳という年齢は、もう決して若くない。ブラジル国内では、「ネイマールのキャリアのピークはバルセロナ時代だった」というのが大方の意見だ。本人はこのような声を覆そうとすべく、3カ月間、懸命にトレーニングを積んだ。

CL初制覇なら再評価されるはずだが。

 今季の残り試合は、ネイマールにとってさらに特別な意味を持つ。

 PSGとブラジル代表の敬愛する先輩、CBチアゴ・シウバの今季限りの退団が発表され、この決定を下したスポーツ・ディレクターのレオナルドに強い不満を抱いている。

 チアゴ・シウバの花道を飾るためにも、無様な試合は絶対にできない。

 7月下旬の2つのカップ戦のタイトル獲得に貢献し、さらに8月の欧州CL終盤戦で大暴れしてPSGを悲願の初優勝に導くことができれば、評価は再び急上昇するはず。新型コロナウイルスに蹂躙された欧州のフットボールシーンを救った男として、今年のバロンドール、FIFAが選ぶ年間最優秀選手に推される可能性もありそうだ。

 しかし――思うようなプレーができず、PSGが欧州CLでまたしても敗退するようなら、「もうすでにピークを過ぎた」という声がさらに高まるだろう。

 ネイマールにとって、「世界一の選手になる」という夢を実現するために残された時間はあまり多くない。

文=沢田啓明

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