Jリーグのある日常が戻ってきた。コロナ禍の影響で中断すること約4カ月。7月4日の再開を待つJ1よりひと足早く、J2、J3リーグが6月27日にリスタートした。

 ファン・サポーターのいないがらんとしたフクダ電子アリーナに、ウォーミングアップを終えた選手たちが静かに姿を見せる。入場の演出もなければ、先発イレブンが並んで撮影する集合写真もない。試合前にはセンターサークルに集まったジェフユナイテッド千葉と大宮アルディージャの選手たちから、新型コロナウイルスと戦う医療従事者へエールの拍手が送られた。乾いた音はよく響く。キックオフ直前に選手たちが円陣を組み、気合を入れる声が上がると、ようやく試合が始まりそうな空気が漂ってきた。

監督、選手からは戸惑いの声も。

 リモートマッチ(無観客試合)では、オーディエンスがつくり出す独特の緊張感は皆無。試合モードのスイッチは、自らで入れないといけないのだ。千葉の尹晶煥監督は、慣れない状況の難しさを口にした。

「練習試合のような雰囲気もあった。でも、それを乗り越えていかないといけない。サポーターがいるといないでは大きな差がある」

 ピッチに立った千葉のGK新井章太も戸惑いを隠さなかった。

「(リモートマッチは)やりにくいですね。試合の入りから難しかった」

 熱狂的なサポーターが陣取るゴール裏に最も近い位置でプレーする選手だからこそ敏感に感じ取るものもあるのだろう。それでも、会場にはファン・サポーターの声を録音した「WIN BY ALL」の応援歌が響き、視聴者がリアルタイムで歓声や拍手を送れる「リモート応援システム」も採用。スピーカーから流れる声援はピッチにも届いており、千葉の田口泰士は笑みを漏らしていた。

「(リモート応援も)ないよりはあった方がいいですね。モチベーションになりました」

肉体と肉体がぶつかる音。

 スタジアムは静まり返っていたわけではないのだ。スタンド上部に設置されたフクアリの記者席に座っていると、ピッチレベルの指示はリモート応援にかき消され、ほとんど聞こえなかった。事前にクラブスタッフがピッチで音量テストを行い、選手たちの耳に届くかどうかをチェックし、レフェリーの通信に支障をきたさないかなども確認したという。

 記者たちが密かに楽しみにしていた試合中の細かな指示までは耳に入らなかったが、球際で肉体と肉体がぶつかる音などは聞こえてきた。

 千葉の尹晶煥監督、大宮の高木琢也監督はともにハードワークを徹底し、守備に重きを置く指揮官。この日は大宮の激しい当たりが際立った。勢い余ってファウルになることもあったが、ピッチによく倒れていたのは千葉の選手。記者席にも接触プレーでのうめき声がはっきり届き、タッチライン沿いで尹晶煥監督がレフェリーに日本語で猛烈に抗議する声もキャッチできた。勝ち点3を懸けたバトルは、とても練習試合のそれではない。

リモートマッチで初づくし。

 大宮が激しく球際で戦えたのも、規律を守り“ディスタンス”を保っていたから。5-4-1の陣形できれいな守備ブロックをつくり、前後左右の選手たちは一定の距離をキープ。とにかく隙間がなかった。自陣に敷いた守備網にボールが入ってくると、すぐさま相手に体をぶつけ、攻撃をストップ。前半終了間際にFKから小野雅史のリーグ戦初ゴールで先制し、後半も瞬時につぶしに行ける距離感を崩さず、そのまま逃げ切りに成功した。

 終了の笛がなって10分もしないうちにゴール裏に設置された看板などの撤収作業に入り、照明も少しずつ消えていく。大宮は開幕2連勝としたが、試合後の余韻を味わう間もなくロッカールームへ。それでも、初めて主役となった大卒2年目の23歳は、リモート会見で満面の笑みで浮かべていた。

「キック力には自信があったんです。モチベーションを落とさず、覚悟を決めて練習してきました」

 記念すべきゴールである。スタンドのサポーターから拍手喝采を浴びることはできなかったが、初得点の喜びは変わらない。

 そして、最後に画面越しの会見場に現れた大宮の大卒ルーキーの西村慧祐も、リモートマッチがメモリアルな1試合となった。

「無観客でのデビュー戦は、特別なものになりました。観客のいるなかでプレーした経験がないので比べることはできませんが……」

 初のリモートマッチで初づくし。再開初戦の白星を含め、大宮は“三重”の喜びで包まれていた。

文=杉園昌之

photograph by Tsutomu Takasu