望まれた形ではなかったものの、リバプールが30年ぶりのイングランド1部リーグ優勝を決めた。

 彼らは現地時間24日にホームでクリスタル・パレスに4−0で圧勝しており、翌25日に2位マンチェスター・シティが敵地でチェルシーと引き分け以下の結果に終わると、クラブ史上19度目のリーグタイトルを手にすることになっていた。

 そしてチェルシーが2−1でシティを下すと、マージーサイドでは多くのリバプールファンが外に出て、宿願のリーグタイトルを盛大に祝ったようだ。

 現地メディアが報じた映像を見ると、空には花火が上がり、人々は独特のアクセントで歓喜の言葉をまくしたて、暗闇に包まれたアンフィールドの門の上では赤い発煙筒が焚かれていた。優勝したチームの地元の風景としては、どのシーズンともほとんど変わらないものだ。

コロナ禍の中止危機を乗り越えて。

 だがもちろん、今季はほかのシーズンとは異なるものだった。新型コロナウイルスの影響で3月上旬の第29節を最後にリーグが中断され、再開の目処が立たない頃には、シーズンをなかったものにするという可能性も検討されていた。それはつまり、中断された時点で後続に25ポイントもの大差をつけて首位を独走していたリバプールの優勝が、認められなくなるというものだ。

「その話が出た時は、わお、それは本当に本当に受け入れがたいものだと感じていたよ」とリバプールのユルゲン・クロップ監督は、リーグの再開が決まった後に話していた。

 フットボール発祥地を代表する名門クラブのひとつ、リバプールの歴史には、栄光の陰に悲しみがある。今季のプレミアリーグが途中で終わっていれば、ヘイゼルの悲劇、ヒルズボロの悲劇、スティーブン・ジェラードのスリップらに続き、COVID-19のタイトル剥奪などと呼ばれることになったかもしれない。

 しかしリーグの再開が決まると、初戦こそ敵地でのマージーサイドダービーをゴールレスドローで終えたものの、実質的に優勝を決めたクリスタル・パレス戦では、諸々の鬱憤を晴らすように赤いマシンが爆発した。観客のいないアンフィールドには映像からでも異様な静けさを感じたが、ピッチ上には試運転を経て本当の姿を取り戻したリバプールの姿があった。

アーノルドが口火を切り、サラー。

 トレント・アレクサンダー=アーノルドが口火を切ったのは、実に今のリバプールを象徴している。

 クラブの目と鼻の先で生まれ育った生粋のスカウザーは、21歳にしてすでに世界最高のSBと謳われるまでに成長。特にキックの精度と威力が劇的に高まっており、この試合では23分に見事な直接FKを本拠地で初めて叩き込んだ。

 現在、リーグのアシスト数(12)でケビン・デブライネ(16)に次ぐ2位、クロス数ではデブライネ(254)に約80本もの差をつけて首位(332)。新時代のレッズの旗頭がどこまでの選手になるか、中立的な立場からも楽しみだ。

 前半終了間際には、再開初戦を欠場したエースのモハメド・サラーが相手最終ラインの裏に抜け出し、ファビーニョの浮き球を受けて流れるように追加点。これまでに何度も見てきたエジプトの王様が得意とする形で、今季のチーム100点目(全公式戦を通じて)が刻まれた。

ファビーニョの超低空ミドルはオリセー級。

 その得点をアシストしたファビーニョは現チームの最重要選手のひとりだ。

 昨季開幕前に加入したブラジル代表は徐々にチームに馴染んでいくと、昨季途中から中盤の底で絶大の存在感を放つようになり、チャンピオンズリーグ優勝にも大きく貢献。今季もそのまま要所を任され、GKアリソンやCBフィルジル・ファンダイクらと共に、ここまで1試合平均0.67の堅守を構築した。

 この試合では、自陣ボックス内で相手に一度もボールタッチをさせなかったという驚愕のデータも生まれている(Optaがこのデータを記録し始めた2008-09シーズン以降で初)。そしてファビーニョは後半、凄まじいミドルでチームの3点目をマーク──1998年W杯の激戦、スペイン対ナイジェリア戦でサンデー・オリセーが放った決勝点を想起させるような一撃だった。

 最後はダイナミックなカウンターからサディオ・マネが決めて4−0の完勝劇を締めくくった。

 エバートンの本拠地グッディソン・パークとは異なり、アンフィールドには音響の工夫がなく、音の少ない練習試合のような雰囲気ではあったけれど、ピッチ上で展開されていたのは極上のエンターテイメントだった。

クロップがファンに贈るメッセージ。

 翌日にチェルシーに敗れたシティは今季、リバプールと比べると安定感に欠けた。開幕前から不安視された本職CBの少なさが響いたこともあり、守備面や継続性の差は明らかだったと思える。「我々は昨季と比べて、不安定だった」とペップ・グアルディオラ監督も認め、「逆にリバプールは(昨季に)チャンピオンズリーグを制したことで自信を深めていた。

 また彼らは30年ぶりのリーグ優勝を成し遂げるために、信じられないほど集中していた。まるですべての試合に、最後の試合かのように臨んでいた」と相手を讃えている。

 最後に、優勝決定後にクロップ監督がクラブ公式サイトで明かしたメッセージを部分的に抜粋して記したい。

「これは、みなさんのためのものだ。本当に多くの人々のためのものだ。ケニー・ダルグリッシュやグレアム・スーネスは私にとてもポジティブなことを言ってくれた。それは嬉しいけれど、逆に感謝したい。なぜなら、このクラブは彼らが成し遂げてきたものの上に成り立っているからだ。もちろん、シャンクリーやペイズリー、フェイガン、そしてスティーブン・ジェラードも。

 特にこの20年間、すべての重圧を背負ってきたスティービーに、このタイトルを送ることができて、私は本当に幸せだよ」

 特別なシーズンに特別なチームが優勝できたのは、特別な監督の存在が大きい。名門を完全に復活させたドイツ人指揮官には、あらためて賞賛の声が集まっている。

文=井川洋一

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