セッション開始3時間前の突然の開幕戦中止から112日。2020年のF1は南半球のオーストラリアからヨーロッパのオーストリアに舞台を移して、7月3日に開催される。

 だが、再開される今シーズンのF1はこれまでとまったく同じではなく、新たな様式を採り入れてスタートを切る。

 まず、開幕戦のオーストリアGPの翌週に、同じレッドブルリンクで2週連続のグランプリが開催される。3戦目のハンガリーGP後、8月に予定されているイギリスGPもシルバーストンで2週連続開催となる。

 その国名が冠されたグランプリの名称は1年に1度しか使用できないため、オーストリアGPとイギリスGPは、2週目はそれぞれシュタイアーマルクGP(レッドブルリンクがあるオーストリアの州名)と70周年記念GP(シルバーストンは1950年に初めてF1世界選手権イベントを開催した地であり、今年はそれから70年目にあたるため)と名称を変えて開催される。

 同じサーキットでの2週連続開催はF1史上初の試みだ。

中継映像も様変わりが予想される。

 しかも、開幕3戦は感染拡大予防を目的として、無観客レースが決定しており、チームスタッフも通常より限定し、メディアは原則入場禁止の中で開催される。もちろん、これも初めて。

 F1専属スタッフたちによって中継される映像にも、これまで見たことがない光景が映し出されるだろう。

 なぜなら、国際自動車連盟(FIA)はサーキットでレースを行うスタッフに対して、可能な限りソーシャルディスタンスを守り、手袋やマスク、フェイスガードといった個人用保護具を着用することを推奨しているからだ。

10週間で8レースの過密日程。

 開幕から3週連続開催というのも、F1史上初だ。しかも、オーストリアGP→シュタイアーマルクGP→ハンガリーGPの後、1週間のインターバルを経て、イギリスGP→70周年記念GP→スペインGPと2度目の3週連続レースを行った後、1週おいて、今度はベルギーGP→イタリアGPの2週連続開催を行う。

 10週間で8レースを実施するという強行日程に、ドライバーだけでなく、レース関係者の体力は耐えられるのか。

 しかも、エンジニアやメカニックは通常よりも少ない人数で戦わなければならないため、1人当たりの仕事量が増加することは容易に想像できる。そのような状況の中でのメカニックたちによるピットストップ作業は、これまで以上にレースの勝敗に大きく影響することになるかもしれない。

サーキットで感染爆発の不安も。

 夏場の過密日程によって抵抗力が落ちれば、新型コロナウイルスに感染するリスクは高くなる。あるレース関係者は「再びレースができることがうれしいという気持ちがある一方で、新しいやり方(同じサーキットでの2週連続開催)で行われるレースがうまくいくのか、あるいはサーキットで感染爆発が起きないかという不安もある」と語る。

 そのためFIAは、グランプリ期間中もレース関係者に新型コロナウイルスのPCR検査を定期的に実施するという。

 さらに、サーキット内外でチーム間のスタッフ同士が接触することがないよう管理するガイドラインを作成。

 たとえグランプリ期間中にサーキットで陽性のスタッフが出ても、感染者をホテルに隔離するとともに、しっかりと濃厚接触者の追跡を行い、感染経路を追えるので、中止となったオーストラリアGPのような混乱を招くことなくレースを続行できる準備が整っているとしている。

予定が決まっているのは8戦だけ。

 もちろん、このようなやり方でのレース開催に対して批判的な声もある。例えば、まだ8レースの日程しか発表されていない中で選手権を開幕させた判断だ。果たして、今年は何戦できるのか。もし、8戦で終わってしまったら、チャンピオンはそれでも決定するのか。

 また、現行マシンを使用したシーズン中のテスト走行は原則禁止されているため、開幕に向けて一部のチームはほとんどぶっつけ本番で臨まざるを得ない。万全の準備が整わないまま開幕するのは不公平だという指摘もある。

ホンダとレッドブルは準備万端?

 それでも、F1チームのファクトリーがあるヨーロッパの主要都市が軒並みロックダウンし、3月下旬から5月までF1もファクトリーを閉鎖していたことを考えれば、多くの関係者はいま、レースを開催できることに喜びを感じている。

 ホンダF1のパワーユニット開発責任者である浅木泰昭は「開幕戦のレッドブルリンクは験の良いサーキット。すごく期待している」と、開幕戦に改良したスペック1.1を投入すると明言した。

 6月12日に日本を発ち、オーストリアGPへ向かうためにイギリスで2週間自主隔離していたホンダF1の山本雅史(マネージングディレクター)は、レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表から嬉しい知らせを受け取った。

「クリスチャンがとてもいいことを言ってくれて、オーストリアへ行くのが楽しみになりました。これはレッドブルのことなので、いまは私の口からは言えませんが、ポジティブな内容で、ホンダにとっては励みになります」(山本)

 ホンダが13年ぶりに優勝した’19年のオーストリアGPから1年。F1の新しいシーズンは日本人にとって、これまでになく胸が高鳴る中で開幕しようとしている。

文=尾張正博

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