なんだかすごく真面目にゴルフしているように見えた。ゴルフに汲々としている、と言い換えてもいい。

 本来の予定から3カ月以上遅れた国内女子ツアーの2020年シーズンの開幕戦。「アース・モンダミンカップ」で予選落ちに終わった渋野日向子を見ていたら、そんな印象を抱いた。

 今大会はテレビ中継がなく、YouTubeでの完全ネット配信で行われた。観客はもちろん、メディアもコースには入れず、画面を通じて見るだけ。会見などもすべてリモートで行われた。

 ネット配信された映像は、よくいえばまんべんなく、悪くいえばメリハリがない。限られたカメラとスタッフ(主催者は人員確保など相当苦労したらしい)で広範囲を長時間に渡ってカバーするのだから無理もない。テレビ中継であればお決まりの、渋野がラウンド中に大笑いする姿やお菓子を頬張る姿はほとんど映らず、ワンオブゼムといった感じでショットやパットを打つ瞬間だけ画面上にポッと現れるのだ。だから余計にそう感じたのかもしれない。

 初日の1番ティーショットを打った後だけカメラマンと何やら言葉を交わして楽しそうに歩く渋野が見られたが、それ以外は淡々と、少し遠めの位置でプレーが映し出されていく。プロゴルファーであり、ゴルフトーナメントだから当たり前なのだが、なんだかずっと“ゴルフしている”感じだった。

チョコ1つ、飴1つ、ウイダーぐらい。

 映像上、そう見えていただけなのだろうか。本人の話を聞いてみると、そうではなかったようだ。

 たとえばお馴染みのお菓子タイム。

「雨で中断している間にチョコレートを食べました。あとウイダー(ゼリー飲料)ぐらいですかね。ウイダーを途中途中で食べました。それぐらいですかね。食べるよりも試合に必死でした(笑)」と初日はこんな感じ。2日目も「今日はチョコレート1つと、塩分チャージ(の飴)1つと、ウイダーくらいです」と食い気がない。ドラえもんの四次元ポケットのごとく、キャディーバッグから次々食べ物を取り出してきた彼女らしくない。

「やっぱり久しぶりの試合でちょっと緊張していましたね。1打1打かなりいろんなことを考えて打ってはいたので、その中でも緊張感があったと思います」

考えることが増えた渋野。

 考えること。

 ピアニストの場合、優れたピアニストほど指先を素早く動かすときに必要な神経細胞の数は少なくて済む。それだけ動きや回路が洗練され、無意識に近い状態でコントロールできるのだという。ゴルファーの場合も同じだろう。思考のステップをできるだけ減らせればスムーズに体は動き、ラウンド全体にも流れを呼び込める。

 この大会での渋野は違った。全英優勝で大ブレークした2019年を終えて、自他ともに認める課題だったアプローチ技術の向上をオフの大きなテーマに据えた。練習は9割方アプローチに費やし、58度のウェッジ一択だったアプローチの種類は、今大会では52度やピッチングウェッジを使ったものまで幅が広がった(完成度は別として)。

 さらに4月に緊急事態宣言が発令された後、シーズン開幕が見通せない状況となると、青木翔コーチの指導の下でスイング改造にも着手した。スタンスを狭めたショットの構えは一目で昨季までと違うものだと分かる。パッティングのスタンスも狭まり、クラブのシャフトやパターも変わった。

選択肢が増えたはずのアプローチ。

 短期間のうちにこれだけ変われば、考えることも膨大になる。ミスが出れば、そこでまた行き詰まる。初日は一時中断になるほどの大雨、2日目は強風という厳しいコンディションも余裕を失わせ、選択肢が増えたはずのアプローチもむしろマイナスに働いていた。

「いろんなアプローチに挑戦したいと思っていたので52度やピッチングで打ったりしたけど、練習をたくさんしていても試合でできなければ意味がないよなと痛感しました。本当に死ぬほど練習しないといけないんだなと思いました」

 1+1が2ではなく、0.5や−1にもなるのがゴルフ。2日目の18番ではグリーン奥から高く上げて止めるロブショットをもくろんだものの、あえなく失敗に終わった。この場面だけでなく、何度もアプローチのミスがボギーを呼び込んだ。

「ロブショットも個人的にはかなり練習してきたと思っていたので、キャディーさんにも大会前から『見ていてください』と言っていたんです。もっとマシなアプローチができると思っていたんですけど」

ギャラリーの大歓声もなく。

 バーディーの歓声、ホール間でのハイタッチ、ギャラリーがいれば、気持ちをすぐに切り替えられたかもしれない。しかし、コロナ下のトーナメントでそれは望めない。昨年、おそらく世界で一番ギャラリーの視線を浴びた彼女だったからこそ、無観客の違和感を誰よりも感じたはずだ。

 アプローチは不発で、ショットの精度もイマイチ。ギャラリーの支えもない。

「このオフにやってきたことが、すべて意味のないことだったのかなと思うくらいの内容でした」

 モグモグすることに気が回らないのも当然の2日間だった。

思い出した青木コーチの言葉。

 今回の結果だけを見れば、アプローチへの挑戦はともかく、スイング改造の是非を問う声も出てくるかもしれない。そんなことを考えていたら、今年の初めに話を聞いた時の青木コーチの言葉を思い出した。

「新しいことに取り組むのは結構怖いことです。もちろん進化しないといけないから取り組むけれど、まだまだ渋野は体もできていない。例えば、パッティングを変えれば、それに応じてスイングにも変化が生まれてくる。そこを見ながら、ズレや変なことがあればもちろん修正を加えないといけないと思っています」

 ツアー本格参戦2年目の渋野にとって、トライ&エラーは当たり前のこと。そもそも昨季のスイングだって青木コーチと出会った2017年の秋から、短期間でガラリと作り変えたもの。全英に勝ったからといってまだ完成ではないのだろう。

 来年から参戦を目指していた米女子ツアーは、今季の出場資格を'21年まで維持することを決め、来季の出場権を決めるQシリーズ(予選会)も中止となった。渋野の来季参戦は不透明な状況で、東京五輪も延期になった。今こそ時間はある。次のトーナメントまでだって1カ月以上時間があるのだ。

 悔しさを糧に。バウンスバックしてこそ渋野日向子だ。

プレーオフを制したのは渡邉彩香。

 まあ、それにしても――。大会最終ラウンドは、雨のために月曜日に順延されたが、黄金世代の田中瑞希やプラチナ世代の古江彩佳、プロデビュー戦だった18歳の西郷真央らが優勝争いを繰り広げ、賞金女王の鈴木愛と渡邉彩香がプレーオフ、そして渡邊が5年ぶりの復活優勝を飾った。

 予選ラウンドはメインチャンネルで8万人程度だったリアルタイム視聴者数は、最終日には平日昼間で23万人を突破した。こんな風に1試合の結果だけで一喜一憂できるのも、自粛期間を経た今では幸せなことだとよくわかる。パソコンやスマホの画面で見守った人たちも同じ思いだったのではないだろうか。

文=雨宮圭吾

photograph by Getty Images/JLPGA提供