本田圭佑が、105日ぶりにピッチへ戻ってきた。

 今年2月にリオの古豪ボタフォゴに入団すると、3月15日のリオ州選手権後期第3節バングー戦で初出場初得点。ところがその直後、新型コロナウイルスの感染拡大のためブラジル国内のすべての公式戦が延期され、自宅で専属トレーナーとともに個人練習を積む日々が続いた。

 6月上旬、クラブが全選手に実施したPCR検査で陰性が確認され、20日からのチーム練習に参加。28日、本拠地ニウトン・サントス・スタジアムで行われた第4節カーボフリエンセ戦(無観客試合)に先発したのである。

 ボタフォゴがこの試合を迎えるまでには、多くの紆余曲折があった。

ボルソナロ大統領と近いリオ市長。

 3月中旬の時点で、ブラジル国内では各州のサッカー協会が主催する州選手権、ブラジルサッカー連盟主催のコパ・ド・ブラジル、南米サッカー連盟が主催するコパ・リベルタドーレスが行なわれていた。

 このうち、ブラジルサッカー連盟と南米サッカー連盟は6月末時点で再開の時期を発表していないが、州選手権をいつ再開するかは地方自治体と各州のサッカー協会の裁量に委ねられている。

 ほとんどの州では、州選手権の再開を7月下旬以降に想定した。しかし、6月初め、リオのマルセロ・クリヴェーラ市長が6月15日以降のプロスポーツの実施を無観客という条件付きで解禁した。ちなみに同市長は、経済優先で「新型コロナウイルスなどちょっとした風邪だ」と言い放ったジャイール・ボルソナロ大統領と政治的に近い。

 これを受けて、リオ州協会が州選手権の開催時期について1部12クラブとバーチャル会議を行なったところ、突出した人件費を抱えるフラメンゴ、収入が絶たれて存亡の危機に瀕する中小クラブなど10クラブが早期開催を希望した。

 一方でボタフォゴとフルミネンセだけが「感染拡大が終息しておらず、時期尚早」として強く反対したが、多数決で18日からの州選手権再開が決まった。

アウトゥオリ監督から痛烈な批判。

 ボタフォゴとフルミネンセは「7月以降でなければ試合をしない」と主張してスポーツ裁判所に申し立てたが、却下される。リオ州協会は両クラブに22日の試合実施を命じ、これに応じない場合は2部降格の可能性を示唆した。

 これに対し、ボタフォゴのパウロ・アウトゥオリ監督は「リオ州協会は金儲けしか考えていない」と痛烈に批判。本田圭佑も自身のツイッターで「6月16日、新たな感染者3万4918人、新たな死者1282人(注:ブラジル全体)。今、リーグを再開することに論理的な理由はあるのか」と疑問を投げかけた。

 このような緊迫した状況で、クリベーラ市長がリオ州協会と2クラブの間に割って入る。「市内の感染が再び増えている」として、21日から25日までの試合開催を禁止したのである。

 こうして22日の試合実施は不可能となり、リオ州協会がボタフォゴとフルミネンセに28日の試合実施を提案。両クラブはこれを渋々受け入れた。

 ただし、リオ州協会は「不適切な言動があった」としてアウトゥオリ監督に15日間のベンチ入り禁止処分を科す。これに対し、本田は自身のツイッターで、「パウロが処分を受けたが、なぜなのか。彼は自分の意見を言ったに過ぎない。表現の自由はどこにあるのか」と再び疑問を呈した。

 ボタフォゴはスポーツ最高裁判所にアウトゥオリ監督への処分の撤回を訴え、最高裁は処分の仮停止を決定。ところが、監督はリオ州協会への抗議の意味で、28日の試合にベンチ入りしないことを選んだ。

キャプテンマークにヘアバンド。

 前置きが長くなったが、本題の試合について触れよう。本田がボタフォゴでプレーするのはこれが2試合目だが、すでにチームの中心選手。左腕に黒いキャプテンマークを巻き、チームの先頭で入場した。

 リオ市内で美容院の営業が停止されているからだろう、いつになく髪の毛が伸びている。金と黒のまだらになりかけた髪を、紫のヘアバンドで押さえている。

 選手たちは「命を大切にするべきだ」という横断幕を抱えていた。ユニフォームの胸には「黒人の命は大切だ」、背中には「医療従事者の皆さん、ありがとう」のメッセージが刻まれていた。そして試合前、センターサークルで両チームの全選手が輪になり、新型コロナウイルスによる犠牲者へ黙祷を捧げた。

開始早々、先制点の起点となった。

 ボタフォゴのフォーメーションは4-3-3。3月15日の試合では4-2-3-1で、本田は試合開始時こそ2列目右サイドだったが、すぐにトップ下へ移った。この日はトップ下がブルーノ・ナザリオで、本田は2列目右サイドを受け持った。

 対戦相手のカーボフリエンセは、リオ州1部だがブラジルリーグでは4部。リオ州選手権前期では1勝5敗のグループ最下位で、後期も第3節まで全敗。ボタフォゴは、できるだけ点差をつけて勝ち、勝ち点3のみならず得失点差も稼がなくてはならない。

 開始2分、ファウルで試合が止まったところで、ボタフォゴ選手が右膝を突いて左膝を立てる。アメリカで始まり、イングランドのプレミアリーグなどでもみられる「ブラック・ライブズ・マター」運動に賛同する意思を示した。

 その直後の4分、本田がピッチ中央の自陣に少し入った地点でこぼれ球に先着し、右足で斜め前へパスを送る。これを受けた18歳の左ウイング、ルイス・エンリケがゴール前を横切る低いクロスを入れ、ファーサイドでCFブルーノ・ナザリオが合わせてボタフォゴが先制した。

中盤でパスを散らし、守備でも貢献。

 本田は中盤でパスを散らして攻撃の起点となる一方で、時には最終ラインまで戻って守備にも貢献する。主将として、自分よりチームの利益を優先する姿勢が感じられた。

 34分、ボタフォゴはCBシセロのロングシュートが決まり、前半を2−0で終えた。

 後半立ち上がり、カーボフリエンセの選手に右からのクロスを頭でねじ込まれる。その直後、ボタフォゴも加点したものの、カーボフリエンセにPKを決められて3−2.再び1点差となった。

 それでも、ボタフォゴは29分に4点目を挙げて突き放すと、34分にはルイス・エンリケがドリブルでマーカー3人を抜き去ってシュートを決める。そして終了間際には中盤で本田からの縦パスを受けたMFレカルロスが中央へ戻すと、途中出場の21歳のMFカイオ・アレシャンドレが見事なミドルシュートを叩き込んだ。

 こうして、ボタフォゴが6−2と大勝した。

「良く動き、知的にプレーした」

 この試合で最も目立ったのは、ともに1得点1アシストを記録した18歳のルイス・エンリケと21歳のカイオ・アレシャンドレ。2人とも、近い将来の欧州クラブ移籍が噂される逸材だ。

 本田は攻守に奮闘して二度、ゴールの起点となった。その一方で、少し体が重そうな印象もあり、得点やアシストという目に見える結果を残すことはできなかった。

 ボタフォゴの情報を専門的に配信する電子メディア「フォトンネッチ」は、本田について「パスの質が高く、良く動き、知的にプレーした。今後は試合勘を取り戻し、コンディションも上向くだろう」と評し、7点(10点満点)を付けた。

 チーム最高点はルイス・エンリケの9点で、次がカイオ・アレシャンドレの8.5点。本田の点数は、チームの真ん中くらいだった。

フルミネンセ、フラメンゴ戦に臨めるか。

 この勝利で、ボタフォゴは州選手権後期の勝ち点を7(2勝1分1敗)に伸ばし、ボアビスタと勝ち点、得失点差で並んだが得点数で2位に付けた。なお首位は、4戦全勝で勝ち点12のフラメンゴである。

 後期最終節は7月1日に行なわれ、ボタフォゴはアウェーでポルトゲーザと対戦する。勝てば自力で2位を確保し、準決勝へ進む。この場合、対戦相手は別グループ首位のフルミネンセとなりそうで、もし勝てば決勝はおそらくフラメンゴと対戦する。この試合にも勝てば後期の覇者となり、前期王者のフラメンゴとホーム&アウェーで州選手権の優勝決定戦を行なう。

 本田の28日の試合の出来はまずまずだったが、おそらく本人は完全には満足はしていないだろう。

 若手をサポートし、チームのためにプレーするのはもちろん大事だが、次の試合では自らゴールを叩き込む姿を見たい。

文=沢田啓明

photograph by Vitor SILVA/Botafogo/AFP/AFLO