第61期王位戦(新聞三社連合主催)七番勝負第1局が7月1、2日に行われる。

 現在、渡辺明棋聖(棋王、王将=36)との棋聖戦五番勝負にも登場している藤井聡太七段(17)が木村一基王位(47)に挑む。

 6月28日に行われた棋聖戦第2局では、藤井七段が指した58手目の「3一銀」が話題となった。プロ棋士たちの検討ではあまり挙がっていなかった手で、指された直後には「えっ」という声が控室に響いたという。

 しかし、この「3一銀」が妙手だった。対局相手の渡辺棋聖は自らのブログに次のように書いている。

<感想戦では△31銀の場面は控室でも先手の代案無しということでしたし、控室でも同じように意表を突かれたと聞いて、そりゃそうだよなと納得したんですが、いつ不利になったのか分からないまま、気が付いたら敗勢、という将棋でした>(「渡辺明ブログ」6月28日付)

最強ソフトが6億手読んで分かった手を……。

 結局、藤井七段が勝利をおさめるわけだが、対局当日の夜につぶやかれた1つのツイートが将棋ファンに衝撃を与えた。

 現在、AIを使った将棋ソフトがプロ棋士の実力を上回っているのは周知の事実だ。そんな将棋ソフトの「最強」を決める世界コンピュータ将棋オンライン大会で今年優勝した「水匠」の作者・杉村達也氏がこうツイートしたのだ。

<本日の棋聖戦の藤井七段の58手目3一銀は、将棋ソフト(水匠2)に4億手読ませた段階では5番手にも挙がりませんが、6億手読ませると、突如最善手として現れる手だったようです>

 最強ソフトが6億手読んで初めて最善手と分かる──そんな手を藤井七段はわずか23分の考慮時間で指していた。

プロの新しい共通認識は、「堅さよりバランス」。

 その藤井七段を迎え撃つ木村王位は「千駄ヶ谷の受け師」という異名を持つ。

 元奨励会員で競馬ジャーナリストの片山良三氏は、NumberWebの記事「ただの将棋の強いおじさんではない。AI時代にすり寄られた木村一基王位」のなかで、次のように木村王位の棋風を紹介している。

<高勝率を残す棋士といえば、鋭い攻めで相手をなぎ倒すタイプが断然多いのだが、木村の将棋は最初から違う。

 あえて薄い玉形に構えて、相手の攻めを受け止め、反撃に転じるのが木村流。しかも、パンチをしっかりと浴びて倒れそうになることもしばしばあるのだが、そのたびに絶妙のバランスで踏みとどまってみせるのだ>

 以前は王様の守りに関して、「堅さ」が重視され、木村王位のような「バランス重視」は主流ではなかった。しかし、AIの影響が大きくなるにつれ、<プロの新しい共通認識は、「堅さよりバランス」>になったのだという。

 同記事のなかで、渡辺棋聖の言葉が紹介されている。

<「木村さんは昔から指し方を変えていません。リスキーで損な指し方と言われていたこともありましたが、いまはAIに最も高く評価されている棋士です。言ってみれば、時代が木村さんにすり寄ってきたということですね」は渡辺三冠の至言>

 今回の王位戦はまさに現代将棋に最も適応した2人の対決だと言えるだろう。

 注目の対局は、愛知県豊橋市「ホテルアークリッシュ豊橋」で明日午前9時に開始される。
 

文=NumberWeb編集部

photograph by Takashi Shimizu