新型コロナウイルスの感染拡大の影響で約4カ月間中断していたJ1リーグが、7月4日に再開する。奇しくもこの日は、J1清水エスパルスの誕生日である。

 28年前の1992年のこの日に、オリジナル10(創設時の10クラブ)としてJリーグに参戦する清水が、初めて国内の対外試合の場でお披露目された。その記念すべき船出の日が、誕生日という形で残されたのだ。

 対外試合の相手は、日本サッカーリーグ(JSL)1部の強豪だった松下電器からJリーグに参戦したガンバ大阪(以下、G大阪)だ。アウェーで大阪・長居競技場に乗り込んだ清水だったが、ホームのG大阪以上にサッカー関係者やファンから注目されていた。

 というのも、JSLに所属していなかった日本一のサッカーどころの清水市(現・静岡市清水区)に誕生したプロチームが、いったいどんなサッカーを見せてくれるのか、未知数の実力に興味が集まっていた。

清水三羽ガラス・大榎氏の回想。

 すでにチームには、古豪県立清水東高出身の清水三羽ガラス(長谷川健太、大榎克己、堀池巧)を始め、地元静岡県出身のスター選手たちが全国から集まっていた。その顔ぶれだけでも当時のサッカーファンの心を動かしたが、期待に応えた清水イレブンは試合の主導権を握り2−0と快勝。静岡サッカーの底力を改めて見せつけた。

 実は一部には、地元から全国各地に散らばっていた選手を寄せ集めたチームが、日本リーグから参戦したJクラブに敵うわけがないと、清水の力を低く評価するメディアもあった。しかし当の選手たちは「小学生から日本一を経験した選手が多い自分たちが、簡単に負けるわけがない」と自信をもって臨んでいた。

 清水東三羽ガラスの1人で、清水のJリーグ参戦決定とともに真っ先に他クラブから加入した大榎氏(現・清水GM補佐)は、「確かにいろいろなクラブから来た選手ばかりの寄せ集めだったし(笑)、まだ成熟度も低かったと思うけど、きれいにつないで攻め込む静岡サッカーはしっかりと踏襲していた。多くの選手は育った環境が同じだから、ピッチに立てば昔のイメージで連携できた」と、単なる寄せ集めでなかったことを強調した。

初年度のナビスコ杯でつかんだ自信。

 そして、この勝利が清水を加速させる。大榎氏は「JSL時代の松下はつなぐサッカーを主としていたチームで、そこに勝てたことが大きな自信になったことは事実」とし、まさに大きな1勝だった。

 それまで厳しい視線を送っていたメディアも、この勝利を目の当たりにして手のひらを返すように清水の評価を上方修正した。

 その国内デビュー戦から約2カ月後に開幕したJリーグ最初の公式戦である第1回ナビスコ杯でも、清水は予選リーグ初戦こそ名古屋グランパスエイト(現・名古屋グランパス)に0−3と敗れたものの、そこから巻き返して決勝進出。

 そこまでJSLをけん引してきたヴェルディ川崎(現・東京ヴェルディ)には0−1で敗れたものの、サッカー王国清水の象徴となったオレンジ集団は準優勝で幕を閉じた。

 DFとして大きく貢献した内藤直樹氏(現・清水スカウト部長)は、「ヴェルディと力の差はあったが、順当な結果だったと思う」と前置きし、「試合を重ねるうちに徐々に連携と自信を深めていった」と、静岡サッカーの底力に国内デビュー戦から始まった勢いを上乗せした結果だったと振り返った。

クラモフスキー監督はタイトルを狙う。

 しかし、かつて存在した底力は徐々に衰え、2010年代以降の清水は残留争いの常連となり、ついに2015年にはJ2降格も経験した。その後も下位に低迷し、浮上の機会をうかがえない状況がしばらく続いている。日本一が当たり前だった子供世代も、かつてのような隆盛はもう見られない。

 そんな静岡サッカーに1月、朗報が届いた。正月の高校サッカーでの男女アベックVだ。地元では、「王国復権へ次はエスパルスの番だ」と期待を高めるが、奇をてらったかのように昨年横浜F・マリノスをコーチとしてリーグ王者に導いたピーター・クラモフスキー監督が就任。そこから「目標はトロフィーだ」と、タイトル獲得への意欲を繰り返してきた。

開幕戦はFC東京相手に善戦している。

 迎えた今季開幕戦は、昨年リーグ終盤まで首位争いを演じたFC東京に善戦。開始から約70分間はパーフェクトな展開を見せ、結局終盤に逆転を許したが、序盤から相手を圧倒する光景にスタジアムは盛り上がった。

 指揮官は「主導権を握る時間を70分から80分、そして90分と伸ばしていく」と今後への手ごたえを掴んだ。

 そして、長い中断期間でさらに連携を深めた清水。誕生日の名古屋戦に向け、MF中村慶太は「特別な縁を感じる。テレビの向こうにいるファン、サポーターと勝利の喜びを共有したい」と白星を約束。

 28年前、一部メディアの評価を覆して勢いに乗ったように、今年の7月4日の誕生日に迎える名古屋戦の勝利を起点に、オレンジ集団が王国復権へと突き進む。

文=望月文夫

photograph by J.LEAGUE