祭りの予感がした。6月9日のデイリースポーツである。一面ではなく社会面。

『えっ?阪神伝説助っ人が新種の昆虫に!?「バースクシモモタマキノコムシ」』

 奈良県で新種の昆虫が見つかり、史上最強助っ人「ランディ・バース」にちなみ「バース」の入った名前が付けられた。ということは……

「生粋の虎党准教授が名付け親」

 やっぱり!

 その理由もちゃんとしていた。

「新種は、クシモモタマキノコムシ属としては世界で3番目の種、そして体が大きいことから、その新種の日本語名は、かのタイガースの3番打者の『バース』しかないだろうと考え、『バースクシモモタマキノコムシ』と命名しました」(福井大学教育学部准教授の保科英人さん)

 虎党のデイリースポーツは問う。「ということはこのグループの虫に4番目、5番目の新種が見つかったら、もしかして……」

 保科さんは答えた。

「見つかるかどうかは分かりませんが、順番にカケフ、オカダと名付けたいですね」

 見事なオチ。

 ここまで読んで私は昨年の強烈な一面を思い出したのである。

『ボーア バースの再来や』(デイリー2019年11月28日)

「バース」は「バス」だった?

 巨漢、左打ち、逆方向に軽々と本塁打を打つパワー。

《待ち望んだ新大砲は、伝説の強打者とダブる。メジャー通算92本塁打のボーアは、バースを連想させるスラッガーだ。》

 ちなみに本物のバース獲得を伝える1982年12月9日のデイリースポーツの一面は『虎バスが来る』だった。

 実は正しい読み方だとバースではなくバスだった。親会社が電鉄会社なのに「阪神がバス購入」などややこしく書かれたため、登録名をバースにしたという。

 阪神の新外国人の異名が「バースの再来」。そして新種の昆虫の日本名に「バース」。どう考えても注目しないといけない。スポーツ紙はキャンプやオープン戦からにぎやかになるのは確定だ。私はボーア報道を追うことに決めた。

虎党は連日の大騒ぎ!

 祭りはキャンプ初日から始まった。

『4番の軌道 ボーア150メートル弾 ド派手キャンプイン!初日いきなり』(デイリー2月2日)

 さらに、

『ボーア来日1号 満点実戦デビュー』(デイリー2月6日)

 あくまで打撃練習だが見事な一発を放ったのである。虎党は大騒ぎ。

 しかし、練習試合が始まると不穏な見出しも。

『ボーア 自分に腹立つ』(デイリー3月22日)

 4戦連続安打を放つも、初回のチャンスで凡退したことを「猛省」したという。

 そして6月。開幕がみえてきた頃には、

『ボーア2戦連発 特大130メートル 本領発揮や』(6月4日デイリー)

 ここまでの流れを見ると、どうやらボーアは当てればデカいことは間違いない。しかしハマるまでは波もありそう。果たしていきなり全開なのか、それとも……。

ボーア不振で話題はさらに集中。

 開幕3連戦の結果が出た。

『矢野虎 歴史的屈辱 史上初G戦開幕3連敗 ボーア6番降格決断も』(サンスポ関西版6月22日)

 巨人に3タテを食らったのだが目立ったのはボーアの不振。開幕から12打数無安打。こうなるともう逆にボーアに話題が集中する。

『ボーア 不名誉なバース越え』(東京スポーツ6月24日)

 開幕4試合目となった23日のヤクルト戦(神宮)も4打数無安打。

《これで開幕から16打席連続無安打となり、球団の新外国人ワースト記録だった1983年のランディ・バースの15打席無安打を37年ぶりに更新してしまった。》

 こういう形でバースの再来となってしまったのだ。

感動的だったボーアのガッツポーズ。

 しかしものは考えようである。あのバースと似た道を歩んでいるのは確かなのだ。あとは日本に慣れるだけ……。

 すると翌日、遂に開幕19打席目でヒットを放つ!

 デイリースポーツは一面で、

『ボーア笑った』(6月25日)

 ボーアが笑ったのである。

『苦しみから脱出!!逆襲のガッツポーズ』(デイリー・同)

 個人的には「はじめてのおつかい」より感動的だった。ハッキリ言って私はもうボーアに夢中になっていた。

 それにしてもこれですよ、これ。コロナで誰もが控えめな生活が続いたが、ここには感情の爆発がある。ヒットを1本打っただけでスポーツ新聞が揺れている。プロ野球、遂に開幕。とにかく、とにかく、スポーツ新聞が嬉しそう。

 推しのチームが3連敗してもコラムはにぎやかだ。それが各スポーツ紙の読みどころである。

「開幕3連敗なんて何度も経験」

《ひえぇ〜、開幕3連敗やぁ!どうしたらええんや?呆然としているアナタ。まあいいじゃないですか。試合ができているんだから。》

 と書いたのはサンスポ関西版のコラム『こちらサンスポ編集局 虎のソナタ』である(6月22日)。

《「開幕しなければよかったのかも」誰や、非常識なことを言ってるのは?運動部長席の方から聞こえたような気がしたけれど。》

 コラムの見出しは『大丈夫!開幕3連敗なんて何度も経験』。最高だ。

 紙面から伝わる喜怒哀楽。今年は何があっても開幕できただけで「お祭り」なのである。エンタメの力をしみじみ感じることができた。

バースの再来か、でくのボーアか。

 さて、気になるボーアだが……

『ボーア崖っ縁 サンズ一塁守った 風雲急!!鳴尾浜で緊急テスト』(サンスポ関西版6月23日)

 開幕を二軍で迎えた阪神の新外国人サンズが鳴尾浜での全体練習で本職の左翼ではなく一塁を守ったという。つまりボーアの代わり?

 すると一軍に昇格したサンズは6月27日の横浜戦で9回2死から逆転ホームランを放つ。

『サンズ救世主』(デイリー6月28日)

 見てみ、この持ち上げぶり。

 しかしボーアもこの日、

『ボーア大ハッスル!!初タイムリー 初盗塁 初敬遠 初マルチ』(デイリー同)

だった。

 さぁどうなる。「バースの再来」か、「でくのボーア」(by東スポ)か?

 もう一度言いますが、ボーアに夢中です。以上、6月のスポーツ新聞時評でした。

文=プチ鹿島

photograph by Kiichi Matsumoto